第28話 最長老レウケー
「ねえ、お婆ちゃん」
「なにかの」
「何かした?」
エンツォとジュゼッペの処刑の後、ロスパーは高祖母に一つの質問をした。
「んー?よく聞こえんのう」
「急に年寄りぶらないでよ」
「実際年寄りじゃからのう。自分の年齢もわからなくなってしもうたし」
レウケーはボケてはいないが自分の年齢はもう覚えていない。
子も孫も既に死に、あるいは別の村で領主への抵抗活動をしてここにはいない。
玄孫のロスパーとヴェスパーの為になんとかまだ生きている。
「ロスパーにヴェスパーはいまいくつじゃったかのう」
「14と13だけど」
「じゃあ、もうお婿さん決めてあげないとねえ」
「そんなのいいから話逸らさないでよ~」
何の話じゃったかのうというレウケーにロスパーはもう一度何をしたのか聞いた。
「前からさ、悪さして納屋に閉じ込められた子供が急に人が変わったりしたことあったし、あのヴィットーリオさんとかにも何かしたんじゃない?」
「勘のいい子だねえ」
「じゃあ、やっぱりそうなんだ!」
ロスパーは目を輝かせて高祖母に迫った。
自分にもその業を教えて欲しいと。
「だんめじゃ」
「なんでよ~」
「わし等も母達から教わってきたが、もうなかなかうまく使いこなせん。長老達が何十人も集まってようやく出来るかどうかといった所。もう廃れた業じゃ。ネリーやヴァイスラにも可哀そうな事をしてしまった」
「ネリーさん達にもしたの?」
「うむ・・・ネリーは昔ドムンが逃がした猿に果樹園で襲われて、記憶喪失になっておったじゃろ?」
「うん、その方が幸せだからって皆その話題には触れなかったけど・・・まさか、お婆ちゃん達がそこまでしてたなんて」
「あの時、長老会は記憶を奪ってしまった方が良いと思ったのじゃが・・・所詮素人芸。今回の事件でネリーは思い出してしまったようじゃ。自殺させてしまうくらいなら過去の恐怖と向き合わせて克服するべきだったかもしれん」
子供を三人失って呆然自失としていたヴァイスラの記憶の封印も変にかかってしまった。
彼女達はペレスヴェータの存在を知らなかったので二重にかかってしまったのだった。
「でも魔術が使えるんでしょ?ね、私達にも使えたりする?」
「もうすっかり血が薄れとるから無理じゃろうなあ。魔術が使えるものは皆、7歳までには勝手に目覚めておる」
「レンみたいに?」
「そうじゃ。儂らは魔術の理論も学んだことはないしの。父祖らも魔術ではなく一族に伝わる呪術といっておった。ヴァイスラやヴォーリャ、エレンガッセン達が使っているのをみて、儂らの業もああこれは『魔術』の類だったんじゃなーとようやく思い立ったくらいじゃ」
故にレウケー達は教える事は出来ないし、教える気も無かった。
「因習はもう捨てるつもりじゃったんじゃ。この近代社会でいつまでも遊牧生活なんぞしておっても、土地の権利を巡って争いになるしのう」
「でもこうして役に立ってるじゃない。このお山も、ライモンドの処分にも」
マリアは12歳のライモンドを処刑する段になって、どうしても剣を降り下ろせなかった。
小さなサンチョやペドロと違ってライモンドはオルスが宣言した御法度を理解した上で積極的に盗みに加わった。
親達が長年犯罪行為をしているのを見て育った彼を矯正してやる余裕はないし、既に結婚可能年齢で社会に出て働いているものもいる年齢なので大人とみなされた。
それでもマリアは処刑出来ず、誓約に反するのを恥じて自死しようとしたので皆で止めて別の方法を考えた。
「むかーし、爺様や婆様にカイラス山の北の岩山にしばりつけて三日三晩飲まず食わずで生き延びれば全ての罪は許される、そう聞いたのでな。オルスもその罰で許すのに同意してくれた」
ライモンドまで処刑するのに反対だった人もこの罰には同意した。
「儂らの勇気の無さを神と自然に委ねてしもうた。恐ろしい事じゃ。申し訳ない事じゃ。皆が因習を忌み嫌っておった。だのに、いざとなれば因習に縋ってしまった。罪深い儂らは地獄に落ちるじゃろう。しかしお前達は自分の力で道を切り開くのじゃ」
「皆の為にやってくれた事で地獄に落とすような神様なんかいらないよ。もしお婆ちゃんが地獄に落ちたら私が助けに行ってあげる」
「そうかいそうかい。優しい子じゃ」
よしよし、とレウケーはロスパーの頭を撫でた。
魔術は教えなかったが、代わりに占いや悪霊のお祓いなど他の事をいくつか教えてやった。




