第23話 カイラス族代表者会議
カイラス山についた人々はまず族長を選出し、鉱山内が居住に耐えるよう改修されるまでの間、入口周辺にテントを張って暮らした。
続いてウカミ村出身から選ばれた狩人の偵察班長ガンジーンとテネスが決めた行動範囲から外に出ないよう厳命された。
荷車は鉱山内に運び込み、通行の跡は可能な限り偵察班が隠蔽した。
偵察班はカイラス山と周辺の山々に監視ポイントを設けて、周辺地域に接近するものがないか毎日監視し、遠征班はそれより外で情報収集に当たっている。
その遠征班長にはガンジーンより慎重で行商人や、運送業の経験もあるサリバンが選ばれた。世情に詳しいケイナンも遠征班の顧問として参加している。
マリアが率いてきた避難民は当面、そういった活動は禁止された。
オルスがまだ彼らをどういった人々なのか測りかね、信用していないせいもあったがまずは食いぶちを稼いでもらわなくてはならない。
いつまでもお荷物でいられると困るのである。
ウカミ村長老会はこれまでの役割を捨てて、オルスに代表者会議の議員を決めるよう勧めた。オルスの負担を軽減すること、行動が制限された避難民達の不満を自分達の代表者へ向けることが狙いである。
オルスはウカミ村からガンジーン、サリバン、ケイナンと最長老のレウケーを選んだ。
避難民側からはマリアに三人選ばせようとしたが出来れば四人にして欲しいと頼まれた。
「人口的にはウカミ村の人間の方が多いんだぞ?」
「医者のエイラ先生と神官のシュロスさんは人望が高く、人々を取りまとめて貰う為にも必要です。それに加えて学者の代表としてエレンガッセン先生も。何なら私を代表から外して頂いて構いません。戦うしか能が無い女ですから」
「そういう訳にはいかん。お前にはここまで彼らを率いて来た実績がある」
四対四の代表議員を選ぶとウカミ村の人々から不満が出る。
皆、これまでは緊急避難だったので長老達の判断に従っていたが、一度落ち着くと貴重な食糧や隠れ家を彼らに与えることを渋り始めている。
「族長は貴方ですから四対四ではなく少なくとも五対四じゃありませんか。それに対立した場合、私は必ず貴方を支持します。実質的には六対四、ウカミ村の人々に食料を分けて頂いた恩は必ず返します。皆さんの不満はきっと解消されるでしょう」
「その言葉、エミスとアウラに誓って忘れるなよ」
仕方なくオルスは避難民の代表議員も四人とした。
◇◆◇
オルスはレナートとファノの事が心配で仕方なかったが、家の事はヴァイスラに任せて夜もテントを見回って避難民達と交流の機会を持ち、名前と性格の把握に努めた。
避難民達の大半はマリアの出身学院の恩師とその家族だったが、いくらか道中に拾って来た身寄りのない子供、行く当てもなかった浮浪者などが混じっている。
食糧を配給制にして、管理しているのがウカミ村の人間の為やはりもう少し食糧を分けて貰えないかという相談が多かった。
「駄目なら自分で狩りに行くからさ、頼むよ族長さん」
「狩りについては本職の狩人がたくさんいる。勝手に出歩くのは禁止だ。まだ周辺の安全も確認出来ていない」
「でもよ、そっちの狩人さんはこんな武器持ってないだろ?」
オルスに相談してきた男はテントから銃を持ち出して来た。
「こんな所で銃を使ったら周辺一帯に鳴り響いて蛮族を招くだけだ」
(あほうが)
ウカミ村の人々が所有する資産の文明度がかなり低い為、男は侮っていた。
カイラス鉱山内を安全に探索するのに完全に避難民の鉱山技師、学者達に頼り切っている状況では仕方ない。
「しかしよ、いざというとき使えるようにしておいた方がいいだろ?」
「それはそうだな。いずれ鉱山内で試し撃ちしよう。銃は預かっておく」
この男に銃を預けておくのは危険だと判断してオルスは取り上げようとした。
「おいおい、そりゃねえぜ。自分の身を守るのにも必要なんだ」
「武器は皆を守るために使う。お前には必要ないだろう」
この男はオルスとマリアが初遭遇した際に両陣営が睨み合っている時、出てこなかった。
「皆を守る意思が無い者に武器を預けておくわけにはいかん」
「ふざけんな、これは俺のもんだ!」
男が長銃を構えるより早く、オルスは自分の拳銃を抜いて額に突きつけた。
「まだ文句あるか?」
「い、いや。ねえよ」
◇◆◇
オルスは見回りを終えて、帰り際にテネスとヴォーリャのテントによって銃を回収した成り行きを話した。
「今度からは護衛を連れて行くべきだな。俺はついていってやれないが」
テネスは馬に乗らないと移動出来ないので、打ち解ける為に座り込んで人々と話したりしながら見回りをやるのは不便だった。
「腕利きの狩人は偵察に出しちまってるし、ドムンかマリア当たりを連れて行くか」
「そうした方がいい」
「にしても、やはり跳ねっ返りは出てくるか。全員学者さんなら良かったが」
避難民の学者には貴族も多く魔術も使えたが、攻撃的な性格はしていなかった。
研究一筋の学者達である。
しかしながら彼らの威を借りようとするチンピラはいた。
◇◆◇
別の日、オルスがドムンとスリク、レナートを連れて見回りをしていると、かなり外れに設置されていたテントに一人の男が入っていった。
テントからはくぐもった声が漏れ、オルスは子供らにここで待って誰も近づけないよう見張りをしてくれるよう頼み、一人で入っていった。
「なんだろね?」
「さあ」
レナート達があまり灯りが拡散しないようにしたランタンを持って散らばって待機していると数人の男達が近づいてきたが、彼らに気づくとバツの悪そうな顔をして去っていく。
テントの中からは言い争う音がした後、叩き出された男が出て来て走って逃げていく。
それからオルスも顔を出してレナートに呼びかけた。
「レン、医者のエイラ先生を呼んでくれ。あー、スリクも一緒に行け。ドムンはここで待て」
「え?うん」
何が何だかわからなかったが、レナートは言われた通りにしてその後は自分達のテントに戻って休んだ。
◇◆◇
翌日、オルスは外出中のガンジーンとサリバンを除いた代表者会議を招集して一人の男を呼んだ。
「ヴィットーリオ、お前。女に売春させていたそうだな?」
「知らんね」
「彼女は幼い子供らに食わせる為にお前の取り巻きに指示されたと言っていたぞ」
売春を強要されていた女性は話したがらなかったが、エイラはヘパティクブロス精神病院の医者であり、詐欺の神ナルヴェッラの司祭でもある。言葉巧みに証言を引き出していた。
「だったら子供らを飢えさせたアンタが悪いんじゃないか?」
「若くて力があるからと配給物資の運搬を任せていたお前の部下がちょろまかせてたんだろ?証拠も証言もあるんだ」
「魔術で喋らせたのか?そんなもん裁判じゃあ証拠として採用されないぜ」
「正式な裁判じゃな。しかしここじゃあ俺が裁判長だ。俺が採用する」
ヴィットーリオは舌打ちしたが、ここには彼の弁護士はいない。
「で、どうすんだ。あやふやな証拠で俺を裁くってのか?何の罪で?」
こういった状況でなくとも犯罪組織のボスを裁くのは難しい。
直接指示を出しておらず、上前を撥ねているだけではさして重い罪に問われない。
「ヴィットーリオ、俺は善人じゃねえ。今まで大勢罪もない人間をこの手でぶっ殺して来た。帝都にいた頃は剣闘士だったし、そこそこ人気もあっていろんな奴が八百長だの違法賭博に誘って来た。外国人の多いアージェンタ市は当局も犯罪に及び腰でいろんな組織が乱立してた。売春業でのし上がったコルレオーネ一家、荒くれものをまとめあげていたガンビーノ一家。麻薬売買のパララヴァ一家、魔術カルトのクロウリー協会だのとも取引した。帝国政府も崩壊しちまった今、昔のような公正な裁判なんて期待するなよ?俺は気に食わねえ奴は即刻処刑する」
マリアはいつでも剣を抜いて斬り殺せる構えであり、厳しい目でヴィットーリオを睨んでいた。
しかし、ヴィットーリオは殺気は無いと判断している。
「おお、怖え。わかったよ。若いもんには公正に配給して性欲は自分で始末しろと言っとくよ」
ヴィットーリオは両手を上げて降参し、反応をうかがった。
「いいだろう。担当は変えるがな。次は無いと思え」
「へいへい」
オルスは一定区画内に好きに張らせていたテントの配置を変えて、女性や身よりの無い子はウカミ村の人々の近くに引っ越させた。
カイラス山は大きな山に囲まれていて目立たないが、夜間の焚火も禁止し鉱山内に全員収容可能なスペース作りの作業を急がせた。
◇◆◇
必要な指示を終えた後、オルスはマリアを鉱山内に設けた会議室に呼んだ。
「不公平にならないようお前が連れて来た避難民への配給は任せていた筈だがな」
同胞として結束して行こうとカイラス族として一員に加えたのに、早速問題を起されてオルスは少しばかり頭に来ていた。
「申し訳ありません、あんな不心得者が混じっているとは思いもよりませんでした。これまでは積極的に力仕事の指示を出してくれていましたし、多くの者から頼りにされていたのですが・・・。彼女も相談してくれれば良かったのに」
「エイラ先生がいうには暴力は振るわれていないが、精神的に隷属させられていたそうだ」
被害者の女性は男達はみんな我慢してきつい力仕事をしているのにお前は何をやっているんだ、役立たずめと罵られて罪悪感、無力感に陥り子供達を救うには他に方法が無いと思いこまされて言いなりになっていた。
「お前に代表者の枠を増やすよう言って来たのはアイツか?」
「よくわかりましたね」
「ああいう手合いのやりそうな事だ。今後若い男らの相手はお前がしろ」
「え?」
「ヴィットーリオとは引き離す。仕事をサボってる奴がいれば俺がやる前にお前が性根を叩き直せ」
「あ、はい」
「なんだ?安心したような顔をして。お前、これまで連中は武器を隠し持っていたのにお前にばかり働かせてたんだぞ。少しは怒れ」
「そ、そうですね」
マリアは一瞬勘違いして別の意味に捉えてしまい、悲壮な顔をしていた。
先日オルスの指示に従うと誓ってしまったし、以前に騎士の誓いを破ってしまったトラウマもあり承諾するところだった。
「鉱山内の空気の確保が上手くいけば一気に作業量が増える。へとへとになるまでこき使え」
「分かりました」
頷いたマリアにいまいち覇気がないのでオルスは心配になった。
「不安でもあるのか?魔導騎士だろう、お前は。連中は若い女だからと舐めているがお前が実力を見せてやればすぐに親分をヴィットーリオからお前に鞍替えする」
「・・・それなんですが、魔石の力が尽きそうで・・・というかほぼ尽きてまして」
「なんだと?学者の先生達の中に補充出来る奴はいないのか?」
「付与系の魔術については専門外だそうです」
拳で岩をも砕く一騎当千の魔導騎士も魔石の助けが無ければ身体能力は常人よりやや上といった程度である。
「しょうがないな。魔石はなんとかしてやるから黙ってろよ。舐められたら安心して眠る事も出来ないからな」
「分かりました」




