第22話 遊牧民の祖先
「わしらの祖先は遥か昔、神々と共に竜と戦ったと伝承に残っておる。そして竜を従えた後、この山を掘らせ、地の底深くにあるものを封じたとか」
ゆえにここは正確には鉱山ではない。
産出物は副次的なものに過ぎない。
「あるものとは?」
「それは知らん。だが、ろくでもないものじゃろうて。神々はわしらの祖先にここに誰も近づけぬよう監視を命じた。そして千五百年前にサガという騎士が人々を率いて近づいてきた時、追い払うべく戦いを挑んだ」
サガは旧帝国の都から避難民を引き連れていて、彼に同行していた当時のエイラシルヴァ天爵が間に入って侵略の意思は無いことを遊牧民達に説き、最終的に通行は許可された。
「それが古代の盟約とかいう奴ですか」
「うむ。連中は道を阻まれ、荒野で水も食料も失くして往生しておった。ご先祖様達は彼らに水と食糧を与え、東海岸への道を教えた。その礼として何の役に立つのかわからんかったが後にサガから紙切れを貰った。ここはわしらの土地であり、新帝国の人間が何者であろうと奪う事は許さないと」
近隣領主達は遊牧民に手こずったり、皇王へ北方候の干渉があったり様々な理由があったが、最終的にはその紙切れがものをいった。長老達も何のために古代の盟約に従って犠牲者を増やし続けるのかわからなくなり、それを捨てた。
「この鉱山内には地底湖もあるし、どこかに温泉も湧いている筈じゃ。不便でも暮らす事は可能な筈。しかし、地の底に何があるか、調べるかどうかは皆に任せる」
竜を倒し、地の底になにかを封じた力が得られるかもしれない。
だが、危険を招く可能性がある。
「俺は調査すべきだと思う。だが一応皆にも相談しよう」
カイラス族の新たな民会は子供がいるかいないかに限らず十五歳以上の男女全てに発言・投票権が与えられた。最終的に採用するかどうかは族長が代表者会議に相談した上で決める。
民会では圧倒的多数で調査を行うことが決まった。
ここで暮らすしかないし、地底深くに何があるのかわからないままでは恐ろしい。
そして、これからは誰もが戦士にならなければならない。
皆、力が欲しかった。
こうして彼らは人々を役割別にわけて各班を組織した。
ひとつは探索班。
鉱山深部を調査、発掘する。
避難民の中に鉱山技師がおり、彼の指導の下慎重に崩落を警戒しつつ地下へと向かう。
ひとつは採集・狩猟班。
カイラス山周辺で活動し、田畑の手入れを含め可能な限り食料を集める。
ひとつは偵察・遠征班。
人類・蛮族側双方の情勢を偵察する。追跡されないように細心の注意が必要で熟練の狩人がその役目についた。
他は鉱山内の生活環境を良くしたり、最悪の事態に備えて秘密の脱出口を作る制作班などが編成された。




