第19話 失ったもの
「さすがにもう誤魔化せないかな」
レナートは自分の体を見下ろして冷静に判断する。
硬い革鎧を着こんでも、女性らしさが残りそうな体型に変化していた。
ペレスヴェータが忠告してくれた通り二人の融合度を高め、女神を降ろした影響は如実に表れてしまい、まだ十歳を少し超えたばかりなのに十代中ごろくらいにまで成長している。
「御免なさい、本当に。私のせいで取り返しのつかない事になってしまって」
息子の人生を捻じ曲げてしまったヴァイスラは謝るしかなかった。
「謝るような事じゃないよお母さん。これが運命だったんだよ。ペレスヴェータとの同調は同じ女性同士じゃないとうまくいかなかったろうし、ダナランシュヴァラ様に祈ればまた男に変化するのは出来ると思うし」
しかし、レナートも母を慰めつつ今回は元に戻れるかちょっと不安になっている。
女神が降臨した事、ペレスヴェータとの融合で魂の形に影響が出てしまった。男の意識が強かったら先ほどのようにドムンをからかうのは気持ち悪いと思って出来なかっただろう。
”私もつい悪ノリしちゃったけど、そろそろ男の子をからかうのは止めた方がいいわね。一緒にお風呂入ったりとかしちゃ駄目よ”
(そう?)
”あなたにはまだ早いけど、あの子達はもう結婚しててもおかしくない年頃だし、身近な人間といっても男の子の衝動に火がついちゃったら止まらないものよ。よくいうでしょ男は獣だって”
体に比べて心はまだ子供のままだったレナートには肉親同然に過ごしてきたドムンやスリクの二人からそんな目で見られる実感がわかなかった。
「まいっか。村はどうなってるの?」
レナートとペレスヴェータの心の対話を知らない皆は相変わらず緩いなあと苦笑したが、今はそういう状況ではない。レナートにオルスがその状況を伝えた。
「敵はもう撤退した。たいして生き残りはいない筈だ。指揮官が暴走して戦死したからフィメロス伯にすぐに事情は伝わらないだろう」
「この後どうなるのかな?」
「予定通り隠れ家行きだ。民会を開いている余裕くらいはあるかな」
穏健派だったウカミ村でこんな被害が出るとはフィメロス伯は思っていなかった筈で、情報収集と戦略練り直しが必要になる筈だ。
「ぶっちゃけ全部俺のせいだがな」
「いや、アタイだろう」
ヴォーリャがアルメシオンの腕を斬り飛ばした事が直接的な原因だった。
それが無ければアイガイオン以外の人間をフィメロス伯が偵察に寄こしていた筈なのでこんな被害は起こりえなかった。
「ところでファノはまだ起きないの?」
「ん?おお」
ドムンはファノをちょっとゆすってみた。
「おにーちゃん?」
「ん、目が覚めた?もう大丈夫だよ」
「うん。でもまっくらだよ」
「まっくら?」
ファノは魔獣に取り込まれた影響か目が見えなくなっていた。
数日経っても視力が回復することはなく、失明していた。




