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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~後編~
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第15話 ウカミ村のオルス

 ヴァイスラが南門に到着した時、オルスは左腕を失っていた。

そこにはスリクもおり、魔導騎士と七人の敵兵に囲まれている。


「娘たちはどこ?」

「・・・ああ、向こうで魔獣に襲われてるってスリクが」


オルスは魔剣の呪いから体を守るために自分で手首から先を落としていた。


「それで、貴方はここで何してるの?」


ヴァイスラのこんな冷たい眼差しを見たのはいつ以来だったろうか。

子供を次々と失った時、彼女は自分を責めるあまり人格が崩壊していった。

自分は欠陥品なのではないか、と悩む彼女をオルスは救う事は出来なかった。

どうしていいか分からず、腫れもののように扱っていた。


すっかり感情を失っていたあのヴァイスラが感情表現をするようになったのはいつ以来だろうか。今も態度こそ冷ややかだが、心の底にぐつぐつと煮えたぎったものがあるようだ。

彼女の怒り、悲しみ、焦りを感じ、これはいい傾向のように思えた。


「女!邪魔をするな!」


槍を構えオルスを囲んでいた敵兵の一人がヴァイスラに向かうが、ほとんど目もくれずにヴァイスラは殴り倒した。彼女の籠手は氷塊で覆われている。一撃で敵兵の顔は粉砕された。その兵士と仲が良かったのか他の兵士が名前を呼んでヴァイスラに向かっていくものの、両目に指を突っ込まれた。


”苦しみよ、棘となりて散れ”


兵士は体の内部から凍らされた。血液、体液が凍り、それは鋭い針を持つ棘となって脳、臓器に突き刺さり絶命した。普段は物静かな人だと思っていたスリクは「こ、こええ」とヴァイスラを見て怯えた。


「魔術師か。雑兵どもは下がっていろ」


アイガイオンが雑兵を下がらせ自分が相対した。


「やめておいた方がいいぜ、アイガイオン。我が子を守ろうとする女の前に立つもんじゃない」


オルスが血も滴る傷口を抑えながら軽口を叩く。


「オルス。さっき『ここで何をしてるの』と聞いたけれど、後でゆっくり話を聞かせて貰うわ」


妻の冷たい眼差しが自分にも及んでいる事にオルスは「やべえ」と声に出した。


「お、おじさんは俺を守ろうとしてくれたから」

「ぼうや、娘たちは何処?案内しなさい」


ヴァイスラはオルスの傷口を凍らせて出血を止め、スリクに尋ねる。

スリクは簡単に道を説明するが、まだ敵兵が立ちはだかっていた。


「お、おし。こいつは俺が自分でやるからな」


オルスは立ち上がり、スリクをヴァイスラに押し付けた。


「できるの?そのざまで」

「馬鹿にすんなよ、ヴァイスラ。もう目は慣れた」

「武器は?」

「こいつがある」


オルスは南門近くの逆杭代わりに突き刺さっている巨大な骨の先端を折って構えた。


「私を舐めているのか、オルス」


銃も弓も槍も失い、片手のオルスが構えるにはナイフ程度のサイズがちょうどいいとはいえ、それはあるまい、馬鹿にしているのかとアイガイオンは憤る。


「へっ後悔すんなよ」


アイガイオンは向かってくるオルスに剣を振るうが、オルスの踏み込みはこれまででもっとも鋭く、最速のもので、想定外の動きに振るう剣が一瞬遅れた。

オルスは体当たりするかのように激突し、アイガイオンの脇腹に骨の先端を押し込んだ。

その骨はアイガイオンの魔力の壁を突破し実体に食い込んで内臓にまで達している。

いまだ魔力の尽きていないアイガイオンの皮膚をこんなもので貫通出来るわけは無かったのに。


「ぐぅっ。こんな・・・ありえん」

「へっ、悪いね」


オルスは足払いをかけ、体重をかけてアイガイオンを地面に突き倒した。一緒に倒れこんだ際に、骨を抜き、今度は首筋に突き立てずぶずぶと押し込んだ。


「遺言なんて聞いてやらねーぜ」


アイガイオンが倒されて残った敵兵は後ずさって逃げていったが、村の傍を流れる小川に差し掛かった所に川からヴァイスラの魔術による氷柱が現れことごとく串刺しになった。


「わりーな。レナート達のこと任せてもいいか?」

「ええ、勿論。さ、ぼうや。案内しなさい」


オルスもさすがに限界でこれから魔獣と戦うのは無理だった。

手負いの筈だし、やる気になったヴァイスラがいる以上大丈夫だろう、と見送った。


 ◇◆◇


 座り込んでいるオルスの傍でアイガイオンが血の泡を吹いていた。

まだ息があり、小刻みに胸と喉が震えていた。視線はオルスの方を向いている。


「もう喋れないだろうな。まあ、あの世への手向けだ。最後の疑問に答えてやる。こいつは竜の骨さ」


アイガイオンの目と耳はまだ機能していた。


『竜の骨』それが何故ここにあるのか、何故自分の魔力の壁を突破出来たのか、誰も利用しようとはしなかったのか。


「って考えてるだろうな。昔遺跡の調査に来た人間もいたらしいが、貴族の学者さんは絶滅した大型動物の骨だと判断した。魔力の痕跡も無いと。しかしな、竜は古代どころか神代の生物だ。第二世界じゃなくてほぼ第一世界の生物なんだよ。だから来るなら神官が来るべきだった。今時神に通じる力を認識できる人間がいるかわからんがって・・・・・・もう死んだか」


アイガイオンがどこまで聞いていたか不明だが、もう意識は無かった。

オルス達の祖先は遥か昔、神と共に竜と戦ったらしい。

古い言い伝えで、長老も滅多に話す事は無かったが。


「ま、信じる者は救われるってな」


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2022/2/1
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