第8話 幼馴染がどこかおかしい
おっす。俺はスリク。ヘンなあだ名で呼ぶ奴がいるが、スリクと呼んでくれよな。
ところで幼馴染のドムンとレナートが旅に出て帰ってきてからどこかおかしいんだ。
二人ともオルスさんによく武芸を習ってて、俺だけ暇してるのもつまんないから一緒に教わってたりしたんだけどさ。俺はまあちょっと手を抜いてた。
ドムンは馬鹿力で打ち合ってらんないし、レナートはやたらカンがよくてひょいひょい躱されるし、凡人の俺にはつまんないんだよね。
二人で競い合ってどんどん上達するし、俺だけ仲間外れみたいな感じ。
だけどさ、二人が帰ってきてからなんかおかしいんだよ。
ドムンは本気で打ち込んでるようには見えなくて、レナートが手を抜くなってぷりぷりしてるし。
で、今日は羊を絞めて解体する仕事を手伝ってたんだけどドムンが力仕事は俺に任せとけってレナートの分を取っちゃうし。
んじゃ、俺のも頼むって言ったらお前は年上だろっていうし。
レナートよりふたつ上なだけじゃんよ。
◇◆◇
解体で血と汗塗れになったから風呂に入った時にドムンに聞いてみた。
「で、何があったん?」
「何って何が?」
「レナートだよ。最近やたらと庇うじゃん。前はよく喧嘩してたのに」
レナートはのほほんとしてあまり拘らない性格だけどさすがに父ちゃんを取られるのは嫌なのか武芸の鍛錬では負けず嫌いだった。
「前は木剣落とされても『甘い!』とかいって殴り倒してたのに」
よっつも下の子に容赦ねえな、こいつ、とちょっと引いてた。
「・・・俺もガキだったってことだよ」
「今でもガキだろ」
そんな話をしていると風呂に他に人が入ってきた。
「や」「こんばんわー」
女の子二人が気軽に声をかけてきた。
「え?」
「ぶはっ」
ドムンが驚いて咳き込んでいる。
無理もない。見知らぬ女の子とファノだった。
ロスパーとヴェスパーも美人だけど、この子に比べたらありふれた容姿に思える。
そこらの庶民じゃありえないサラサラとした銀髪、シミ一つない綺麗な肌。
ここらじゃ銀髪の女性はヴァイスラさんとヴォーリャさんだけだ。
ヴァイスラさんの娘のファノだって違う。
「ほら、ファノ。座って。頭洗ってあげる」
「えー、頭はやーなのに」
「だーめ」
しばらく見とれていたけど、さすがに不味いと思って声をかけた。
「あのー、こっちは男風呂ですよ?」
「知ってるけど?」
何処の子だろう。旅人かな?でもなんでファノと一緒に?
ファノの頭を洗い終えた後、湯舟に入ってきた彼女と向かい合った。
「なに?」
「え・・・。いや、なんでもないけど」
しばらくでれっと見とれてたけど、正面から向かい合うとさすがに恥ずかしい。
「横チン、お兄ちゃんのことずっと見てる」
「ファノ!そんな言葉使うんじゃありません!!」
彼女はファノの事を叱った。
ん?お兄ちゃん?マジマジと見つめているとドムンが手を伸ばして視線を塞いできた。
「こら!見るな!」
「なんだよ、ドムン。俺は注意したろ?」
男子風呂に入ってくる女子が悪い。
「おい、レン。お前もお前だ。なんでこっちに来るんだよ!」
「男が男風呂に入って悪い?」
「だって・・・お前」
「なに、ドムンの知り合い?」
外の街に行って知り合った子だろうか。
「なんだよ、スリク。幼馴染がわからないわけ?」
彼女は腕組みをして不満そうにいう。
あ、まだなだらかとはいえ胸が見えなくなっちゃった。
「ん?幼馴染?」
不思議がっているとドムンが答えを教えてくれた。
「まだわかってないのか?彼女はレン、レナートだよ」
◇◆◇
「で、どうなってんのさ?」
「もげちゃっただけでボクはボクだよ。スリク」
彼女はレナートだった・・・何がなんだかわからない。
小さいころ三人並んでおしっこのとばっしっこをした覚えもあるのに。
男はもげると女になる?
「気持ち悪いってんならもういいよ。これからはロスパー達としか話さないから」
「待った!俺は別に気持ち悪いなんて思ってないから」
「俺も!」
ドムンに続いて否定する。
で、告白した。
「基本女の子なんだろ?」
「・・・見た目はそうだけど」
「じゃ、結婚しよう!」
すかさず申し込んだ。こういうのは早いもん勝ちだ。レンだって昔はそうだった。
「はあ?気持ち悪い事いわないでよスリク。ボクは男だっていったでしょ」
「ガワが女の子ならそれでいい!」
「最低」「さいてー」
ファノにまで軽蔑された。
この後オルスさんにはうちのお姫様達の裸を覗きやがっただとう?と怒鳴りこまれてぼこぼこにされた。向こうが勝手に入ってきたのに酷くね?
ま、俺もドムンも幼馴染の弟分?を気持ち悪がったりなんてしないさ。
黙っていたいならそっとしとく。
あと何年かすればどうしたっていろいろ気にするようになるだろうし、それまで優しくしとくのさ。




