第7話 お兄ちゃんは・・・ヘン!
オルスとヴァイスラの娘ファノはまもなく五歳になる。
遊ぶときはだいたい女の子同士で遊ぶ。いつの間にやら性別の差を理解するようにもなっている。
大人達は自分達が幼児だった頃を忘れているが、意外にしっかりものを考えていた。
だから疑問だった。
お兄ちゃんは何故かドムンお兄さんやスリクお兄ちゃんとばかり遊んでいる。
お兄ちゃんはお姉ちゃんなのに。
村には共同浴場があるのにうちの家にはお風呂がちゃんとある。
他にお風呂を持っているのは、長老様だとか村の宿屋とかくらいなのに。
他の家だと家で使う水を用意するのは子供の仕事で、みんな毎朝汲みに行くのにうちは何故かお父さんがやっている。お風呂用の水もそうだ。
どこの家でも働き者のお父さんは尊敬されているのに、うちはお母さんとお兄ちゃんに顎で使われている気がする。お兄ちゃんは自分専用の部屋があるのにわたしにはない。ずるい。
お父さんはもう少し大きくなったら家を大きくしてくれるっていうけど、お兄ちゃんの部屋に一緒に住むから無理しないでいいよ、というとお父さんは泣いて喜んだ。
でも駄目なんだって。
異性の兄妹は同じ部屋に済んじゃ駄目って。
お兄ちゃんはお姉ちゃんなのに。
お姉ちゃんは自分の事はお兄ちゃんと呼んでくれっていう。
???
ファノは女の子同士で遊んでいる時にお兄ちゃんが一緒に遊ぼうとするのが恥ずかしい。
スリクお兄ちゃんはうちのお兄ちゃんの事を「くそっ、あいつ妹をダシにロスパーやヴェスパーにコナかけやがって!」と怒っている。お兄ちゃんはナンパ野郎なのだそうだ。
とても恥ずかしい。でも優しくて嫌いになれない。
お兄ちゃんが大事にしていた兎耳のついたかわいい上着もくれた。
少し手直ししないといけなかったけれど、お母さんが教えてくれてどうにか形になった。
お兄ちゃんが自分にもお裁縫を教えてというからお母さんに教えて貰ったことをわたしが教えた。
とてもすごいと褒めて貰えた。
これが嬉しくてお母さんにもっともっと教えて貰ってお兄ちゃんに恩返しをした。
お兄ちゃんは泣いて喜んでくれたけど、ちょっと大げさじゃない?
◇◆◇
お兄ちゃんは料理が得意だ。
いつも自分の食事は自分で用意している。
あの子は体型に気を使ってるからお母さんはつくらないようにしてるんだってお父さんが言ってた。
お兄ちゃんは時々わたしにも内緒でごはんをつくってくれる。
とてもおいしい。
お父さんとお兄ちゃんは仲が良い。
よくちゃんばらごっこをして遊んでいる。
お兄ちゃんは過保護でちょっとうっとおしいけど、わたしも嫌いではない。
ある日、気が付いた。
お母さんからお兄ちゃんに話しかけた事がない。
仲が悪いのだろうか。
わたしの具合が悪くなるとお母さんは自分達のベッドにあげてくれた。
「久しぶりに親子みんなで並んで寝ましょうか」そういって優しく体を撫でて温めてくれる。
お母さんのいう『親子』にお兄ちゃんは入っていない。
お兄ちゃんはヘンだけど、とてもかわいそう。
お母さんとお兄ちゃんの間に何があったか知らないけど酷いんじゃないかってお父さんに言ったら、お母さんも可哀そうなんだからわかってあげなさいといわれちゃった。
このことでお母さんに何か言ったらとても怒られる、お父さんでもぼこぼこにされて家を追い出されるんだって。
ある日、お兄ちゃんはドムンさんと旅に出た。
お土産をたくさん買ってきてくれたけど、寒村には場違いにひらひらした子供服とか大きなぬいぐるみとか赤ちゃん用の玩具とかばかりだ。まだわたしが赤ちゃんだと思っているらしい。
それと部屋着の趣味が女の子っぽくなってわたしだけじゃなくて自分の髪も梳かすようになった。
手伝ってあげるととても喜んでくれた。
◇◆◇
お兄ちゃん達が帰ってきた後、村は一気に慌ただしくなった。
家畜は屠殺されてしまった。大きな子供達は力仕事に駆り出されてしまったのでお兄ちゃんもドムンさん達も忙しい。
ある日、お兄ちゃんが帰ってきて部屋に閉じこもると独り言が聞こえ始めたのでそっと扉を開けた。
「だーかーら、ボクは見られる事なんて気にしてないってば!ヴェータが恥ずかしがるから隠しただけで」
「え、生まれつき目の見えない私が男の視線なんか気にするわけないって?ボクだって生まれつき男なんだから男に見られたって別に気にするわけないじゃない」
「いーよ、そんなの。証明してあげる」
そういってお兄ちゃんが部屋を出てきた。
「ファノ、お風呂は?」
「お父さんが集会に行っちゃったからまだお水汲んでないよ」
「じゃ、ちょうどいいからたまには村の浴場に行こう」
お兄ちゃんはわたしを連れて男風呂に入った。




