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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~前編~
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第55話 パーシア救出

 ダフニア、プロメア姉妹は病気で倒れた事になっているパーシアを見舞いたいとベラトールに頼んだが面会は拒否された。もう少し早いタイミングなら許可された可能性があったが、よりによって彼女たちの兄のアルキビアデスに傷ものにされた事で怒り心頭であり、彼女たちが母親である太后に頼んでも無駄だった。


「御免なさいね、不肖の兄のせいで助けになれそうにもないの」


学院女子寮グランディの部屋でエンマ、グランディ、ダフニア、プロメア達は作戦会議を開いていた。


「心配だわ。修道女達まで逮捕されてしまったし。少しやり過ぎじゃないかしら」


グランディはパーシアと共に修道女たちと医療行為に携わっていたので気が気ではない。


「さすがにディーにまで手は出さないでしょう」


修道女たちを収賄だの、誘拐だの不品行だの適当な理屈で逮捕させているあたりベラトールも正気とは思えないが、いくらなんでもクールアッハ公に仕えている封臣の娘を逮捕することはないだろう。


「お兄様の話ではパーシア様とドンワルド将軍との婚約が発表される直前だったとか。こうなっては国内では結婚相手がみつかる見込み無しとのことで物好きな外国の王に下げ渡されるかもって」


ダフニア達の前で白状するのもなんだが、クールアッハ家は他の大公や皇家にも密偵を送り込んでいるのでベラトールの動きを掴んでいた。


「外国って酷い所なの?」


レナートからしてみたら皇都のあるコルヌ地方自体が外国のようなものだった。


「ヴォーリャさんの故郷よりもずっと遠いかも。海の向こうにあるすごく暑い国よ」

「奴隷制もあるしそこの王の後宮だなんて女がいくには最悪の場所ね」

「じゃあ、助けなきゃ!」


レナートは使命感に燃えるものの具体的な考えはない。


「助けるといっても他家の問題だし・・・」

「そこのおうちにお姉ちゃんの事助けてくれる人いるの?」

「・・・いないわね」


一人娘の筈だし、母親も他界している。

男の兄弟はいる筈だが父親には逆らわないだろう。


「こんな時代、女同士助け合わないとってよくいってるじゃない」

「そうね。そう思うんだけど、具体的な手段が思いつかないのよ。兄や父に頼んで圧力をかけて貰うことくらいしか思いつかないの」


パーシアが幽閉されている場所は調べがつくものの押し入って助け出すのは無理だ。


「場所教えて!ボクが行ってくるもん」

「駄目よ。今日明日にでも移送されるわけでもないし、もう少しいい考えが浮かぶまで待ちましょう」


毎晩会合を開いたが、やはりベラトールの怒りが収まったころに父や兄に頼んで圧力をかけるのが現実的と思われた。


「あとはアルシオン様に王として命令して頂く事ね」

「そうなんでしょうけど、我が家の不始末でもあるから逆に意固地になってしまうかも」


ダフニアは躊躇う。

自分が男なら騎士のように彼女を救い出して物語のように逃避行を始めるのに、と残念に思う。

現実の男達は騎士道物語とは違って誰も助け出そうとはしていない。


「やってみれば意外とうまく行くかもしれないじゃない」


貴族達のように家門に、臣下、領民に責任がないレナートはとにかく行動を、と訴える。

しかし皆動かない。


「もーいいもん。ボク勝手にいっちゃうもん」


レナートは席を立って移動を始めたが、グランディに首根っこを掴まれた。


「駄目よ」

「むー。ヴェータが助けてくれるっていってるもん。どうにかなるもん」


場所はこれまでの会議の中でだいたいのアテがついてきた。


「助けてもそのあとどうするの?」

「うちに連れ帰ってお嫁さんになってもらうもん」


ダフニアやプロメアは子供らしいと微笑ましく見ているが、グランディはこの子は本気で言っていると確信していた。


「女の子同士は結婚できないのよ?」

「そんなことないもん」


プロメア、ダフニア姉妹は何を言ってるんだろうこの子、と怪訝な顔で見ていた。


「あー、すみません。ダフニア様、この子はご存じかもしれませんがお母様が北方圏の方で少しばかり自由な恋愛観を持っているものですから」


グランディはフォローをいれつつレナートにめっと叱る。

とにかく子供をたくさん産んで育てるべしという帝国人の価値観では近親相姦と同性愛は同じくらい罪が重い。この子が本気だと知られると不味かった。


「そうなのね。今は帝国人なのですからこちらの法律には従って貰わないと困りますが」

「大きくなれば自然と分かるでしょう」


結局結論が出ないまま無為に日々を過ごしていた彼女たちが暮らす女子寮に一人の女性が訪問してきた。


ブラヴァッキー伯爵夫人だ。


「まあ、お久しぶりです。どうされたのですか?」

「ええ、そろそろ帰郷予定だと聞いてレナートに会いに来たのです」

「どうぞどうぞ」


グランディは夫人を自分達の部屋に招き入れた。


「陛下がまもなく皇都に到着されるというのに世間は酷い有様ですね」

「毎日次々と新聞社が閉鎖され、新王即位のお祭りが一瞬で静まり返ってしまいました。パーシア様がお気の毒でお気の毒で・・・」

「実は今、新聞が取り締まられているのは彼女の件だけではないのですよ」

「どういうことです?」

「アルメシオンが実は自分もアルキビアデスもレアとアイガイオンの不義の子だと自ら新聞社に暴露しましてね。その記事が発行される直前だったのでかなり強権的に弾圧しているようです」

「まあ、本当なのですか?」

「少なくとも本人はそう信じているようです。そしてアイガイオンはレアへの愛を証明する為にオルスさんに復讐するとレアに誓い出奔したのだとか」


子のアルメシオンに罪はないが密通をしでかしたアイガイオンはどうせ処刑される。

それならと、最後にオルスに復讐することにしたようだ。


「何故伯爵夫人がそこまでご存じなのですか?」

「私はここ最近宮廷に雇われていましてね。色々と騒ぎを聞きました。世慣れたオルスの潜伏先をアイガイオンが突き止める事は不可能でしょうけどレナートが帰郷するときを狙われる可能性があります。エンマ様にクールアッハ家の馬車をお貸し頂いて故郷に送った方がいいかと思いまして」


アイガイオンについては内々に捕縛命令が出ている。

しかし彼も魔導騎士なので抵抗されれば同格以上の魔導騎士が必要となる。

すぐには捕まらないと夫人は考えていた。


「なるほど、エンマにお願いしてみましょう」

「パーシア様も救い出してその馬車に乗せてしまっては?」

「それはさすがに許されないかと」

「頼んでみたら案外大公も許されるかもしれませんよ。世間は今ベラトールや皇家を叩いていますから救出して安全を確保してやれば民衆は公を讃えるかもしれません。皇王陛下もきっと許してくださいますとも」

「相談くらいはしてみましょう。でもどうやって救い出すんです?」

「ベラトールとも懇意にしていますから気づかれないように私が逃がしましょう。幸いアイガイオン追跡の為にベラトールの騎士達が監視から外れています」


夫人の提案をエンマが兄に伝えてみた所、意外に乗り気で誰も傷つけずに救出に成功した場合に限って匿ってもよいとの事だった。


 ◇◆◇


 次から次へと起きる騒ぎにベラトールは娘の事にいつまでも頭を悩ましているわけにもいかず、夫人の作戦は完全に成功した。

ベラトールが娘がいないことに気がついた時、既に彼らは皇都を脱出していた。

誰が連れ出したのか、どこに行ったのかまったく追跡できていなかった。

クールアッハ家の馬車を荷改めすることが出来るものは誰もおらず、パーシアは姿を消した。


グランディやエンマは学生生活を続ける為、皇都に残り馬車内にはオルス、ヴォーリャ、レナート、パーシアだけがいた。もともと彼らが乗っていた馬は後に家臣が送り届けてくれる事となった。


馬車内ではレナートがパーシアの膝に抱かれてご満悦だった。


「ね、ね。お姉ちゃん。やっぱりボクのお嫁さんになる?」

「ふふ、そうしたい所だけど駄目ね。クールアッハ公には悪いけれど途中で下ろして欲しいの」

「えー」


途中下車するというパーシアにオルスが行き先を尋ねた。


「何処かアテが?エンマ様やタンクレッド殿だって随分な危険を冒して助け出してくれたのに」

「それには感謝しているのだけれど、タンクレッド様もそう単純な方ではないから。利用されるのは御免だし、小さな騎士様の迷惑になるのもね」


パーシアは別れ際にレナートの頬にキスをしてやり、またいずれと行って立ち去った。

それから数か月後南部総督ルシフージュ大公爵はショゴスとパーシアの結婚を発表した。


ベラトールは誘拐だとして抗議したが大公は本人同士の意思であり、帝国大法典に基づきたとえ親であろうと婚姻を妨害することは許されないと拒否した。

帝国政府の法務大臣となった新王アルシオンもこの婚姻を認め祝福の使者を送った。


そしてパーシアとの結婚が流れたマクダフ・ドンワルド将軍にはエンマ・ミーヤ・クールアッハが嫁ぐこととなった。将軍にはクールアッハ公家が後ろ盾としてつくこととなり、アルシオンは彼の軍事大権を取り上げる事は出来ず、先代からの体制はそのまま維持された。


不義密通の情報が世間に流布された太后レアは罪には問われなかったが、幽閉されることになり不義の子アルメシオンは放逐されアルキビアデスについては隠蔽された。


レアは幽閉に同意したが、代わりに一人の学者の解雇を懇願した。

アルメシオンの人生が転落してしまったのはあの教師とのトラブルが発端だと。

学者には研究費の流用、横領の罪がなすりつけられた。


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2022/2/1
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