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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~前編~
54/397

第54話 スキャンダル②

 学院と寮の間には新聞記者達が詰めかけていた。

何とかネタを掴もうと学生たちにパーシアの醜聞についてしつこく聞いて回っているが学院側から緘口令が出ているので誰も答えない。

しかし、あまりにもしつこい事にキレたアルキビアデスが自分から真実を暴露した。


「いい加減にしろ!獣人なんぞとヤるわけないだろうが。片っ端から不敬罪でしょっ引いてやろうか?」

「でもあんな傷跡・・・」

「あれは、この!俺が!つけたんだよ」

「え?でも、なぜ?」

「少しばかり激しく愛し合っただけだ。文句あるか?」

「しかしアルキビアデス様とパーシア様は従妹同士では?」

「だからなんだ」


この国では近親相姦とみなされる。

しかしアルキビアデスは開き直った。


「結婚できないってだけで違法行為でも何でもない。俺に文句でもあるのか?」


開き直って凄まれると皇家の三男坊に対して記者は何もいえず引き下がった。

しかしすぐに新聞各社は報じて皇家の不品行を非難した。


 ◇◆◇


 ベラトールは寮にいるアルキビアデスを宮殿に呼びつけて真実を確認した。


「こ、このバカ者が!娘を傷者に。天下の晒しものにしおって!!」


激怒したベラトールはアルキビアデスを殴りつけた。

さしもの傲慢なアルキビアデスもこの一撃は父親の権利だとして受け止めた。


「俺は違法行為をしでかしたわけじゃない。おかしいのはこの国の法律だ。少なくともパーシアと俺は愛し合ってるし、獣人とヤルような娘じゃなくて良かったろ」

「貴様なんぞ獣と同じだ。二度と娘に近づくな」


ベラトールは直ちに新聞各社に人を送り込み、それ以上の報道を禁じ、特に下品な記事を書き、皇家の尊厳を貶めた者達を逮捕拘禁させた。


そして幽閉中の娘に会い真実を確認した。


「お前、本当なのか?あのアルキビアデスに襲われていたのか?何故言ってくれなかった」

「襲われていた?まさか、誘惑したのは私です」


謹厳実直なベラトールには理解できないことだった。


「なんだと?」

「いつも何処へ行っても監視ばかり。監視もなく会えるのは親族だけ。だったら彼と楽しむしかないでしょう?」

「こ、この馬鹿ものが!嫁入り前だというのに!!」

「その娘を年寄りに嫁がせて青春を散らせようとしておいて、私を非難しないでよ!」


パーシアにとって親しく出来る相手はアルキビアデスだけだった。

アルキビアデスの12歳年上の長兄は生まれる前に失踪し、8つ上の兄は病気で倒れた父の代わりとなるべく皇都を離れて帝都に留学して勉学に励み、戻ってくるなり父の仕事を継承してほとんど会えなくなった。


母も自由奔放な人で日々を贅沢に暮らしていた。

どうも不倫しているらしく、あまり子供にも構わなかった。

放っておかれたアルキビアデスは宮殿で小動物や虫などを遊び相手にして暮らしていたが、七つの時に魔力に覚醒した。


しばらく制御出来ず何度か暴走させてしまっている間に遊び相手を殺してしまった。

世間には公表されず、母は代わりの遊び相手を用意してくれた。

彼にとって遊び相手、命とは代わりが効くものになっていった。

自分の力に魅了されてしまっていたアルキビアデスは死体の山を積み上げた。


使用人たちは気味悪がり、自分も殺されてはたまらないと逃げ出した。

そんな彼を止めたのはパーシアだった。


自傷癖のあった彼女と嗜虐趣味のアルキビアデスは馬が合った。

もっと大きな獲物としてパーシアは自分自身の体をアルキビアデスに提供した。


彼女を本当に殺しかけてしまい、背中に大きな傷を残してしまった時初めて母親に叱られた。その事は皇宮内の事で処理されベラトールも知らずに済んだが、それでようやくアルキビアデスも悪癖を止める事が出来た。


その代わり彼らは深い親密な仲となった。

ベラトールは娘に起こった出来事を何も知らず、縁談を用意した。


「将軍はまだ壮年で年寄りなどではない」

「そうかしら、お父様と同年代なのに」

「生意気を言うな。お前を将軍にめあわせる事の意味が分かっていないのか?」

「アルシオン様の為に軍事大権を持つ彼を取り込む事でしょ」

「そうではない。昨今の平民の増長を防ぎ、貴族と平民の対立の激化を防ぐためだ」


ベラトールは大局の為に娘に犠牲になれというが、当事者としてはたまったものではない。

他に代わりはいくらでもいる筈だった。


「そんなのプロメア様でもダフニア様でもいいじゃない。結局お父様がアルシオン様の政権下でも力を持ち続けたいだけでしょうに」

「馬鹿を言うな。誰が好き好んでこんな立場を続けたいものか。他に適任者がいればいつでも代わる。だが、私以外に総督達を抑える事が出来るものがいるか?たった一人で三人の総督と渡り合おうという気概を持つ貴族が何処にいる。何処にもいない。貴族の中には。出来るのは将軍だけだ。マクダフ・ドンワルド将軍だけが唯一この十年間、大地峡帯に陣取り、周囲に睨みを効かせて彼らを抑えてきた。王が病に倒れて長く、民衆の間には貴族を軽んじて革命だのなんだのを言い出す者も増えた。あと十年、二十年は今の世を保てたとしてもその先はどうなるかわからない。万が一貴族の世が倒れる時代が来るとしても平民の将軍に嫁いだお前の身は無事だ」


ここ百年、北方圏、西方圏で大規模な市民戦争があった。

何百万人もの犠牲者が出る大戦争となり、鎮圧に成功はしたものの貴族側も大損害を蒙り革命は成功しかけていた。帝国政府は市民革命の帝国内への波及を恐れて意図的に市民の間に貧富の差を作り、平民貴族を増やして分断を図ろうとしている。


その必死さをみればベラトールも警戒する。

現代では流通を支配する市民が情報を握り、自力で多国籍間の工業規格を決め、貿易を主導し、兵器工場も建設し、武力も彼らに頼らざるを得ない。


「そんなの政治の問題じゃない。摂政ならそんな世の中が来ないように努力でもなんでもすればいい。出来ないなら私が代わってあげましょうか?」

「馬鹿を言うな。女に何が出来る。そんなことよりこれからどうするつもりだ。こんな醜聞が広まっては将軍は勿論誰もお前を娶りはしない」


従妹間の近親相姦は獣扱いされるのが帝国の国風だ。もうパーシアにとってまともな結婚は望めない。


「外国に行くなり修道女でも何でもなるわ」

「お前が懇意にしていた修道院長は贈賄の容疑で逮捕した。これ以上我が家の恥を広められては困る」

「なんですって?あの方がそんな真似をするわけがありません」

「事実かどうかは関係ない。お前が逃げ込む先など与えん。外国に行きたいなら騒ぎが収まったころ、南方王の後宮にでも送り込んでやろう」

「はぁ?娘を異国の後宮へ売り飛ばすの?そこまで自分の威厳を傷つけられたのが許せない?つい先ほどは娘を思うような事をいっておいて所詮自己欺瞞だったってわけね」

「獣同然のお前には似合いだろう。そんなに自分を傷つけたいのなら望みどおりにしてやる。南方王の後宮で奴隷と一緒に鎖で繋がれて生きるがいい」

「それが実の娘にいうセリフ!?」

「外道に落ちたお前に相応しい処遇だ」


ベラトールは責任感の強い男だったが、良くも悪くも帝国人の価値観に染まっていた。

娘をもはや娘とみなさず幽閉し、時機を見て南方の適当な王に与える事にした。


2022/9/11 誤字修正

対局⇒大局

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2022/2/1
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