第52話 アルメシオンとブラヴァッキー伯爵夫人
アルメシオンの腕の治療はかろうじて間に合った。
魔導生命工学も会得していたマミカによって腕は繋ぎ直された。
しかし激痛に意識を失い、その回復の為夫人が呼ばれた。
アルメシオンが意識を取り戻した時、彼は自分の腕が元通り繋がっている事がなかなか理解出来なかった。
「俺の腕、俺の腕・・・うごく?」
痛み止めで飲まされていたケシの薬のせいで朦朧としていたが、腕が切り落とされた事は覚えていた。
「ええ、動きますよ。でもしばらくは安静にしていた方がいいそうです」
「だれだ?」
「貴方の治療に呼ばれたものです」
「腕が元通りならもう必要ない・・・」
「いえ、必要ですよ。貴方の心は助けを求めています」
「お前に何がわかる」
「わかりますとも。貴方が本当は心優しい青年で、今も幼い頃のことを悔やんでいる事も」
「なに?」
ブラヴァッキー伯爵夫人はアルメシオンが幼いころ、事故とはいえ大量殺人をしでかしてしまった事を語った。
「なんの話だ」
「ふふ、貴方の記憶にははっきりと残っています。でも周囲が貴方の記憶を歪めてしまった為に、何故だかわからない後悔の念だけが残っているのですね」
夫人のいう通り、アルメシオンの記憶は捻じ曲がっている。
「この国にも記憶を操る事ができる魔術師はいたようですね。しかし封印が甘い。わたくしが思い出させてさしあげましょう」
夫人によってアルメシオンの記憶はたちまち修正された。
「ああ・・・あぁ・・・俺はなんてことを」
「貴方の心にまだ悔やむ心が、受け止める事が出来る強さがあってよかった。廃人になってしまうかもしれませんでしたからね」
「酷いじゃないか。なんで俺にこんなことを思い出させた」
アルメシオンの瞳から滂沱の如く涙が溢れた。
「貴方は正しい事をしなければなりません。・・・おや、まだ古い記憶があるようですね。この際全て思い出させてあげましょう」
次の記憶はアイガイオンとレアが愛し合っている場面だった。
幼過ぎてアルメシオンは理解できていなかったが、記憶は残っていた。
「うあ、うあああ・・・」
「おや?少し気が触れてしまいましたか?やはり師や同志のようにはいきませんね。少しばかり脳を弄らなければなりませんか。御免なさいね。貴方がレナートに優しくしていたらわたくしも少しは手加減していたのですけど」
夫人はアルメシオンにいくつかの示唆を与えてから解放した。




