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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~前編~
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第41話 新王即位祈念大会

 ようやくオルスに活躍の機会がやってきた。

剣闘士として稼ぐための資金稼ぎで肉体労働をしている間、何のためにわざわざ皇都までやってきたのかバカバカしくもなっていたが今や世間は祝賀ムード。

レナートは聞くほど大怪我ではなかったし、あれから毎日会って稽古もつけてやっている。

そして剣闘士の組合とも短期契約し、さっそく試合も斡旋して貰えた。

装備は故郷から持ってきたが、次の試合は全て支給してくれるという。

ようやく物事がうまく回るようになってきた。


「ヴォーリャ、お前も今度ばかりはちゃんと装備品を身につけろよ。自前のもんじゃ出場出来ないんだからな」

「へいへい、わーってるよ」


北方人らしくいつも毛皮を羽織っていた彼女も今回は兵士用の鎧を身に着ける。


「それにしてもこりゃー、帝国正規軍のものと同じじゃないか?」

「官給品に似せたものだがちゃんと模造印が入ってるよ」


正規兵のフリをした犯罪を防ぐ為に目立つ模造印が無い正規軍風の鎧を身に着けると、それだけで犯罪になる。


「アタイもあんたも重装歩兵役なんて合わないっつーのに」

「グランドーンの戦いを模した戦場を作るんだそうだからな。仕方ない。この大規模戦を準備する為に闘技大会の開催が自粛させられてたってわけだ」


開催地は皇都周辺でもっとも大規模な競技場が選ばれた。

通常は戦車戦が行われる場所で一周4クビト《2km》、七階建て、地下に売店、浴場、出場者の待機場、水圧式エレベーターホールなどがあり収容人数約10万人の大競技場である。

古代に神々への捧げものが行われる盛大な儀式の為に建設されたもので現在ではこういった競技に使われる。


「出場人数は?」

「俺ら重装歩兵200、弓兵50、銃兵50、大砲3門」

「うは、マジかよ。帝都でもそんな大規模な模擬戦は無かったんじゃないか?まるで正規軍の演習だ」

「隊列から動けないから俺達に活躍の機会は無いかもしれないが、これが終わればようやく普通の試合も開催される。味方に踏みつぶされないようにだけ気を付ければいい」

「しかしよ。あの戦い、実際には総司令官も戦死してるし、参加した帝国軍も四個軍団くらい壊滅してるだろ?」

「表向きは勝利して天爵様の救出に成功してるんだからそんなヤバイ設定にはしないだろう」


模擬戦のモデルとなる戦いでは作戦目標であるグランドーン要塞とセオフィロス橋の奪回には失敗したが蛮族に拉致されていたツェレス侯の養女、後のエイラシルヴァ天爵の救出には成功した。


この戦いでは前線の帝国兵に女性兵士はいなかったのだが、雑兵になりたがるプロの剣闘士が少なかったのでヴォーリャも採用された。


「祈念大会だから子供も入場可で良かったな」

「ああ、雑兵役じゃなくて普通の戦いを見て欲しかったが、段々有名になっていくところを見られるのもいいだろうよ」


 ◇◆◇


 新王は即位式まで人前に姿を表さないので祈念大会の開会式自体はそれほど派手なものでは無かったが、各地から楽団が呼び寄せられ、大道芸人が辻々で芸を行い、露店も大量に出店し、剣闘士や希少な猛獣、魔獣のパレードが行われた。

ウカミ村にやってきたキロ達の一座もこの中に加わっている。

開会式の前段階として布告官や楽団を選抜する為の競技が既に行われている。

すなわち、より明瞭な音を出せるもの、簡潔に淀みなく読み上げる事が出来る者達を聴衆が選抜する。布告官、大会の進行役、楽団の出来次第で祭りは盛り上がり、評判は大いに影響する為、主催者からは彼らに莫大な褒美が与えられた。


 オルスやヴォーリャも行進する軍団に加わって会場に入った。

途中にあるパレード見物用に組み上げられた見物席にエンマやグランディ、そしてレナートもいて手を振ってくれていた。


闘技場内には既に大勢の観客が待機しており、主催者の開会宣言をいまかいまかと待ち構えていた。外でパレードを見物していた貴族達も会場に入るのを待ってからようやく主催者である摂政ベラトールが現れてその姿が魔術によって空中に投影された。


 魔術師がベラトールの声を魔術で拡大し、ようやく開会宣言がされた。


「諸君、まずは先代皇王が長い闘病生活の末亡くなられた事を報告する。そして新王としてアルシオン殿下が二か月後に即位することとなる。現在はまだ帝都で法務省に勤めておられるがめでたいことに議会より新皇帝候補として選定され他の皇王達より先んじた評価を選帝侯達から得ている。今日は先王の死を嘆くよりも新王と新時代の誕生を祝おうではないか。新王へのご加護を願う神々への犠牲式としてここに祈念大会の開催を宣言する」


古代よりの風習で神々には動物達の血と肉、そして魂を捧げる。

人間を生贄とした時代もあったが、文明化が進むと奴隷制も廃止され君主も横暴に振舞う事が非難されるようになり、生贄は剣闘大会を開きその勇者の魂を捧げる事に置き換わった。為政者としても残酷だと非難されたりすることなく、民衆は剣闘士達の戦いを娯楽として歓迎した。


 ベラトールの宣言終了後、神官たちが哀れな動物達を生贄として捧げた。

肉は焼かれて、魂は煙にのって天へと旅立ち神々に捧げられる。

場外でも犠牲式は行われており、何百頭もの牛や羊の肉は人々に振舞われる。


そういった事後の作業の間に初戦の準備が進む。


大砲が運び込まれ、剣闘場を魔術師達が調整して大人数での大規模広域魔術により観衆の前でみるみる地形が変わっていく。あっという間に構築された砲兵陣地に大勢の観客が驚きの声をあげた。


それからオルス達も入場したが、訓練を受けていないので行進も不揃いだった。

しかし観客の目には華々しい恰好をした貴族の士官ばかりが映り、雑兵の動きはあまり気にされない。祝祭魔術師達が士官の周辺に魔術で派手な演出と火花を散らし、どこそこ家のだれそれでどこ地方の現れた魔獣を倒した英雄だとか宣伝をして盛り上げていた。


「あんなお坊ちゃん達が魔獣を?ほんとかねえ」

「おおかた、奇形の熊だの希少な鹿だのと間違えたんだろ」

「それならそれで狩猟経験があるだけマシだが・・・」


オルスが見た所、正規軍の将兵はいないし祭り好きの貴族が浮かれた気分で参加しているだけに見える。総指揮官は引退した軍人で現役時の最高階級は大隊長らしいが、歩兵大隊の指揮官で砲兵や銃兵を指揮したことは無く、士官役を務める貴族達に丸投げしていた。


歩兵隊も十名ほどの貴族の士官がついているが、自分が目立とうと必死である。


「足を引っ張り合わなきゃいいがね。後ろから味方に撃たれるのは御免だ」


『帝国軍』の準備が終わった後、蛮族側の陣地も準備が行われた。

地面が左右に開き、巨大な昇降機により陣地ごとせりあがってくる。

そこには鎖に繋がれた獣人と獣達がいた。

戦闘開始の合図とともに鎖は地下から解放される仕組みだ。


「なんだありゃあ。魔獣どころか野良犬じゃねーか。心配する必要はなさそうだな」

「さすが。よく見えるな」


見渡す限り一面荒野で暮らしていたオルスの視力はヴォーリャよりもかなり良い。

まだ相当距離があるのに『魔獣』に変装させられた獣たちの正体を見破っていた。

大半は犬だが、一部には鹿や大型のネコ科の動物も混じって仮装されていた。


犬や猫は多産、安産の象徴としてこの国では大事にされているので放っておくと増えすぎてしまう事になるので飼育許可はなかなか下りない。


「野良犬処分も兼ねてんのかよ。予算ケチりまくってるな」

「おっと象も出て来たな。あんなのうちらの地域には住んでないのに」


象には大きな鎧が着せられ、巨大な牙をいくつか鎧に付け足されて歪な姿に偽装させられていた。


「なんかよたよたしてるぞ。病気か?それとも重いのか?」

「あれには近づかない方がよさそうだな。それより獣人は?」

「いる。だが痩せ細ってるな。万が一にも『帝国軍』が負けないようにとの配慮だろう」

「ま、初戦だし、目の肥えた観客は多くないだろうからな」


オルスやヴォーリャが雑談をしていると周囲の兵士役の者達もほっとした声で話に加わり始めた。


「ほんとですか?おれちょっと不安だったんですよ」

「ああ、心配ない。この戦いは派手に大砲ぶっ放して大会を景気よく盛り上げる為のもんだ」

「よかったあ。あ、俺はパン屋のヨハンっていいます。今度独立して開店するために資金稼ぎで参加したんですよ」

「素人か?なんでまた。命がけでやるほどの報酬は出ないだろうに」


予想はされた事だが貧乏人や無学なものが騙されて参加しているケースが多いようだった。


「んじゃ、始まったら俺らから離れるな。興奮した味方に踏みつぶされないよう気をつけろ。あと味方の射線上に出ないよう後方にも気を配れ」


オルスがベテランとして周囲の新人たちの質問に答えて安堵させてやっていると、貴族の士官が注意を飛ばしてきた。


「おい、貴様ら。口を閉じて隊列に戻れ!貴様らは私の指示に従っておればよい!!」


確かに私語が広がって隊列が乱れ始めていたのでオルスは黙って兜の面頬を下し戦闘隊形に移った。


「馬鹿もん共が!最前列の者は大盾をしっかり構えて何があっても動くな!第二列は油断なく槍を構えていろ。第三列は一歩引いて戦列に穴があいたらすぐに割って入れ!」


指揮官達は事前に打合せを行っていたが、兵士は寄せ集めなので動きがバラバラだった。

オルスの部隊はまだよかったが、他の部隊ではずっと士官の怒号が鳴り響いていた。


そしていよいよ楽団のファンファーレと共に、開始の合図がなされ『蛮族軍』の鎖が解き放たれた。


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2022/2/1
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