第40話 皇都夜話
「アリー、今日はもういいの?」
パーシアは皇都のとある宿の一室で拘束されていた。
そこは裕福な者が不倫相手などと密会に使うような場所で貴族による貴族の為の秘密クラブだった。彼女の密会相手はアルキビアデス、これまでにも二人で何度も利用している。
「ああ、今日はお前も乗り気じゃないみたいだからな」
「楽しみたければ楽しんでもいいのよ」
「あからさまに演技されてもつまらない」
そういってアルキビアデスは拘束を解き始めた。
◇◆◇
激しい行為を終えた後、アルキビアデスは尋ねた。
「で、どうしたんだ。今日は」
「どうしたって何が?」
「隠すなよ。普段と違うのは分かってるんだ」
アルキビアデスは抱き寄せて彼女にキスして軽い愛撫を行った。
それを手で押しやってからパーシアは答える。
「実はもうこの関係終わりにしようと思って」
「終わりってなんだ。俺達は従妹同士だろ。血縁関係に終わりはない、ずっと一緒だ」
「でも私達、結婚は出来ないじゃない」
「そりゃ仕方ないだろ。帝国法で決められてるんだから」
「じゃあ、お兄様が皇帝になったら法律を変えてくれるようお願いしてくれる?」
「ん~、それはちょっとな」
産めや、増やせや、世に満ちよを地で行く帝国人でも近親相姦だけは許されない。
他国では従妹同士は近親相姦に入らないとされている国もあるが帝国では無理だ。
「でしょ。だから私結婚することにしたの」
「なんだと!?誰とだ」
自分の女が他人に奪われるのはイヤだった。
関係を明らかに出来ないとしても。
「そう怒らないでよ。しょうがないでしょ、一生貴方の愛人なんて続けられないし、お父様に嫁げって言われたんだもの」
「だから、誰に嫁ぐんだよ」
「ドンワルド将軍よ」
「四十過ぎのおっさんじゃないか。しかもあいつの子は同窓生のマッカムだろ。嫁ぐんならマッカムの方じゃないのか」
「マッカムは将軍じゃないもの。それに彼は別に好きな人がいるのよ」
「だからって年の差がありすぎるだろ」
「あなたのお兄様の為、ひいては国家の為に犠牲が必要なのよ」
新王の時代を安定させる為に皇国の軍事大権を先王から預かり要衝を抑えている将軍を取り込む必要があった。
「くそっ」
アルキビアデスは怒りながらパーシアを押し倒した。
パーシアは逆らわずに好きなようにさせてやりながら背中に手を回して慰める。
「それに貴方って乱暴だし。いつも傷だらけにされちゃう」
「そういうの、お前が好きで始めたことだろ」
「まあね、蚊に刺されて痒い所を針で刺す感覚かしら。でも火遊びはもうおしまい。結婚前に傷跡が残ったら困るから」
「俺の事を誘っておいて捨てるなんて許さない」
「どうせ長続きしないってわかってたでしょう?」
アルキビアデスは無造作にパーシアのお団子頭を解く。
子供の頃からずっとパーシアはこの髪型を続けてきた。解けるのは自分だけだと思っていたのに。
「どうしても欲しいならお兄様じゃなく貴方が皇帝にでもなって法律を全部書き換えてから奪いになることね」




