第40話 搦め手
「お前、ほんとにレンの事好きだったのか?記憶奪われたのもその時から操られてたんじゃないか?」
翌朝、親密にしている二人から話を聞いたスリクは身もふたもない事を言った。
「そうね。当時のドムンがそんなこと言うとは思えないし」
ヴァイスラも納得がいってない。
「今が幸せならそんなことはどうでもいいの。みんな余計な事言わないでよね」
ようやく長い恋愛が実ってレナートは幸せそうに腕にしがみついていた。
だいたいヴァイスラが当時脅しすぎたせいでドムンが付き合いを内緒にしたがったのだと疑っている。
「お前その体で人間と子供とか残せるのか?」
アルハザードが問う。
「仮初の体だから無理だ。でも神霊的な意味では別だ。レンの中にいる水神みたいに残ると思う」
「本人そのものじゃないけど分身みたいな感じかな」
「なあ、レン」
うっとりして抱き付いているレナートに諭すようにドムンは言う。
「昨晩はちゃんと話してる暇無かったから改めて話したいんだが・・・」
「なになに」
期待して顔を輝かせている様子にドムンは口ごもった。
「愛してる」
「ボクも」
人前だが熱烈なキスをする。
「おい、ドムン。お前別の事言おうとしてたろ。日和ってんじゃねーよ」
「そうなの?」
また傷つける事になるのが辛くて言い出せなかった。
しかし時間が無い。
「俺にこの体を与えてくれた大地の女神もいずれ地上に降りてくる。俺達を寄こしたように彼女は森の女神の味方だが、本人は天界に残る事で真っ向からの対立は避けている」
「うん」
「かつては地獄の女神アイラカーラだった彼女も地獄を無くすつもりだし、時機を見て地獄門の封印を解くつもりだ」
「いい事じゃない、それがどうかしたの?」
「今の地獄は神々を生きながらさえ、天界を支える為に理不尽な世界になっているが、それを無くすと言う事は神々にも死を受け入れさせるということ。つまり彼女自身も死ぬつもりだ」
「えーと・・・?」
「つまり俺もその時完全に死ぬ」
「何か、他に方法とか。別の体に移るとか」
動揺しながらも手段を探した。地獄の泥人形とかアルコフリバスみたいに別の動物とか何か生きながらえる方法はある筈だと。
「ごめんな、レン。俺はお前に謝罪してお前を守って戦いの中で死ねるならそれで十分だったのに・・・こんな未練がましいことになっちまって」
その言葉、抑揚でドムンに他の手段を探す気はないと悟る。
地獄でメルセデスにさえ会わなければ過去の事だと割り切って死ねたのだが、自分たちの関係に他者の思惑が介入していたと知るとそのままで終わらせるのが納得できなかった。
「生きるつもりはないの・・・?」
「もう死んでるんだ。そんな無理を選択すれば地獄の理不尽さに怒る理由が無くなってしまう。そうだろ?」
オルスの死を受け入れて、別れを告げたようにドムンの死も受け入れなければならない。
「俺は未練があって迷い出て来た幽霊だ。そう思ってくれ」
「ドムンはちゃんとドムンだったんだね」
「なんだそりゃ」
「いいの。こっちのこと」
確かにドムンならこういう選択をするのだろうと受け入れられた。
◇◆◇
しばらくして、地獄に取り残されていた人々がカイラス山から地上に出て来た。
別の地獄門からも脱出した人々がいて遠征隊は世界中で散り散りになっている。
カイラス山にはアルコフリバスもやってきてレナートにひとつの依頼をした。
”泉の女神から水神には水を通して移動したり遠くのものを映し出す力があると聞いたが、君にも出来るか?”
「出来ると思いますけど、その必要があるんですか?」
”そうだ。神々はいずれ森の女神を襲う事になると思う。その光景を東方人に見せて信仰を失わせ力を削いで欲しいとバルアレスの王子に頼まれた”
「随分な手を考えますねえ」
”東方大陸では人口の半数が生き残っているそうだ。これまでに遭遇した神とは桁違いの強さになる可能性が高い”
東方圏の元の人口は一億から二億と推定されている。せいぜい数百万程度しか生き残っていない中央大陸とは文字通り桁が違う。
”王子は森の女神を主神とする新興宗教を起こしたそうだが、全土には及んでおらずまだ大神には及ばないと思う”
勝機を得るために出来るだけの事はしたい、と協力を求められた。
「わかりました練習しておきます」
OSを移行したらこれまで使えていた記号が使えなくなったりちょっと環境が変わってしまいました。




