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天に二日無し  作者: OWL
第二章 天に二日無し ~後編~
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第36話 雷神

第36話 雷神


 雷神トルヴァシュトラは当初エドヴァルドと戦っていたが、途中からレナートが引き受けた。


「新たな氷神よ。我々はお前と敵対する気はない。我々がお前に何かしたか?戦う理由があるのか」

「理屈っぽいおじさんだなあ」


東方の神々は風神や草木の神、薬の神などが多く軍神、武神の類は少ない。

トルヴァシュトラは数少ない武神である。人間の概念でいえば騎士道精神がある珍しい神だ。


「どうした、何故戦う?」

「そっちこそなんで?戦いの神様なんでしょ。さっさとかかってくればいいじゃん」

「私が戦う理由は父と兄の為だ。求められれば戦うのみ」

「相手が女子供でも?」

「剣は敵を選ばない」


四本の腕にそれぞれ武器を持ち、トルヴァシュトラはそれを構え直す。


「ならおじさんはボクの敵」

「お前が庇う連中も女子供を殺しているのにか?」

「じゃあそっちもとっちめる」

「面倒な奴だ」


思考が単純で駆け引きも通じない。

矛盾や罪悪感を感じる事も無い。


「ドムン、スクリーヴァ。やっちゃって」


控えていた戦士二人が前に出る。


「お前が戦うのではないのか」

「そうしたいんだけどねえ」


それなりに使える以上は上達しなかったので専門家に任せた。


「部下はこっちでやっちゃうから。いくよ、トウジャ」


地下から巨大な蛇が現れて神兵達を襲っていく。


「馬鹿な。地獄に封じられていた奴が、何故・・・」


トルヴァシュトラの疑問にスクリーヴァが答えた。


「気がつかないか?お前達が次々と降臨し、誓約を違えたせいで封印が緩んでいる事に」


大半の神は強制的に下界に引きずり降ろされただけなのだが、地獄の理同様、経緯は考慮されない。結果がすべてだ。


「そうか、シェーレも降臨して封印を自ら解いたのか。面従腹背の売女が!」


駄目押しで大神自らが封印と解き、トウジャを地上に招き入れたと悟る。


「母を侮辱したな」


スクリーヴァは殺意を高めた。


「お前も元は人間だろう。いいのか?地獄の邪鬼どもが地上に出てくるぞ」

「連中ならこの極寒世界を見て地獄に引き返したよ」


ドムンが言う。

大半の地域が蒸し暑い地獄で裸同然だった鬼達にとって、寒冷期に入った地上の生活は『地獄』だった。


「では五分といったところか」

「いいや二対一だ」


スクリーヴァとドムンはトルヴァシュトラの前後に回って挟み込む。


「それはどうかな」


トルヴァシュトラの後ろ側にもう一つの顔が浮かび上がり、四つの腕の武器はそれぞれターゲットに剣先、槍先を向けた。

スクリーヴァの武器は棍であり、尻尾でバランスを取りながらトリッキーな動きで翻弄する。ドムンは鎌槍で足を薙いで牽制した。

ドムンの方が未熟だが、傷を負ってもすぐに回復していった。

一方、トルヴァシュトラの方が腕は圧倒的に上だが、少しずつ傷が増え、回復せずに弱体化していった。風神の失態で彼の力まで衰え、反対にスクリーヴァとドムンには二人の女神が力を与えて支えていた。


「死にぞこないどもめ。こんなことならエドヴァルドと技を競っていた方がよほど納得いく」


スクリーヴァもドムンも弱体化するのを待つ無難な戦い方をしており、エドヴァルドのように戦士として技を競うつもりがなかった。


「贅沢なんだよ、貴様は」

「多くの人間は皆、満足できる戦い、人生なんて望めない、短い人生で巡り合える世界で納得をつけるしかない。だが、あんたら永遠の命を持つ神々はいつかもっといい環境に出会える無限の可能性があったから人生に折り合いをつける必要がない。だから永遠に満足出来ないんだよ!」


トルヴァシュトラは自分の為には戦っていなかった。

地上の生命に憐れみを感じていたし、敵が憎くて戦っていたのではない。

父と兄の為の戦いに過ぎなかった。

能力では圧倒していてもスクリーヴァにもドムンにも致命傷は与えられなかった。

天界でも鍛錬は欠かさなかったが、腕試しでしかなく、この戦いでも必殺の気迫は無かった。


しかしドムンには必殺の意志があった。

自分の力が通じるようになるまでずっとそれを秘めて悟らせなかった。


「ああ、そうだな。生き抜く必要が無いのだから、こうなるのも当然だった」


トルヴァシュトラはドムンの鎌槍を弾いたと思ったら、もう一本槍が出現してそれで胸を貫かれた。


「神の魂を砕くとは大した業物だ」

「本来は竜を殺す為の一撃だ。お前にも通じて助かった。これで思い残すことは無い」


トルヴァシュトラの体は光の粒子となって消え、ドムンも同じように消えた。


敵を倒し終えていたレナートはその光を手に取って別れを告げた。


ドムンとの別れについては急に感じたかと思います。話の流れの都合でこのあとレナート達がここに至るまでの経緯となります。

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2022/2/1
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