第32話 カイラス山地獄門
「あれ、おじさん?」
カイラス山で母の仕事を手伝っていたファノの所にアルハザードがやって来た。
血まみれの姿で疲れ切っている。
「おう。母ちゃんはいるか?」
「ちょっと待ってて」
水だけだしてファノは畑にいる母を呼びに行った。
しばらくしてヴァイスラがやってくる。
「どうかしたの?なんで貴方一人だけ?」
まさかレナートの身に何か、と危ぶむヴァイスラにアルハザードが手を振って違う違うと言う。
「まだ無事だ。ここは危ないから逃げた方がいい」
「貴方怪我をしてるの?」
「いや、平気だ。これは返り血だ」
アルハザードはフィンドル城に上がろうとしたが、嫌な予感がしてしばらく地獄門付近の警備を観察した。一体の魔導装甲歩兵が現場を離れて別行動を開始したのを不審に思い、つけていったらカイラス山の地下に辿り着いた。
スリクにもう必要ないから持っていくよう言われて使った姿隠しの指輪を使って観察していたら工事を開始し、さらに爆発物をしかけ始めた所で驚いて姿が露見してしまった。
地下の工作員と魔導装甲歩兵を何とか倒して地上にどうにか辿り着いた。
「うーむ、いくら念じてももう姿が消えなくなっちまったんだよな」
指輪を外してしげしげと眺めるも、もはや何の変哲もないただの指輪となっている。
「私はヴォーリャとテネスに話してくる」
「おう、まだよそ者はいるかい?いたら気をつけろ」
「遺跡の調査団が来てるわ。皆の遺品もついでに回収してくれていたから好きにさせていたけど」
地下は崩落の危険があるのでヴォーリャ達は深入りしなかった。
シェンスクやニキアスの所から神器の発掘などで以前から出入りはあったから、よそ者についても好きにさせていた。
「一度逃げてエンマの助けを借りた方がいい」
「また逃げるのね・・・」
「仕方ない。安全を確保してレンを助けに行けばいい」
ここにはカイラス山の襲撃を生き延びた子供達がいる。
彼らを抱えて危険は冒せない。
「ま、いいわ。遊牧民の流れを汲む一族が土地に拘って滅亡するのも馬鹿みたいだし」
ヴォーリャ達を呼んでくるから手当をしてやるようファノに言い残して、ヴァイスラは去った。




