第27話 鬼神コンスタンツィア
娘を弄んだ者を殺す。
嘲笑った者を殺す。
助けなかった者を殺す。
何もしなかった者を殺す。
地獄に落とした者を殺す。
地獄を創った者を殺す。
全て殺す。
命あるものは殺す。
命なきものも殺す。
人を殺す、獣を殺す、神を殺す。
大地を殺す、風を殺す、月を殺す、太陽を殺す。
何もかも殺し尽くす。
この世もあの世も何もかも殺して殺して殺し尽くす。
◇◆◇
世界は苦しみに満ちている。
死んだ後にも救いは無い。
地獄が罪人の罪滅ぼしの為にあるのならまだ良かった。
神々は罪人への罰として地獄の苦しみを与えたのではない。
苦しみは懺悔の為にあるのではなくただ燃料を搾り上げるだけの為にある。
娘は手遅れだった。
コンスタンツィアは己の命と引き換えに産んだ娘の末路を知った時、決意した。
しかし永遠に続く地獄の苦しみを終わらせることは出来る。
それは地獄の存在そのものを無くしてしまう事だ。
天界に住まう神々は地獄で苦しむ人々から力を吸い上げている。
地獄の女神の補佐をしながらずっと機会を待っていた。
全ての苦しみを終わらせる時を。
そして機会は来た。
◇◆◇
地獄門は小さな力しか持たない亡霊は素通り出来るが、地獄の女神を取り込んだコンスタンツィアには通れない。
だから待っていた。
己が地上に残して来た素体がやって来るのを。
地獄門が物理的に開くのを。
地獄にいるコンスタンツィアと連れてこられた現象界のコンスタンツィアは結界を境にお互いに手を伸ばした。吸収した地獄の女神の力ごと、昔、分離した己の人格を再統合しコンスタンツィアは再び地上に舞い戻った。
「こ、コニー様?」
「久しぶりね、ノエム。ヴィターシャ」
「どういうことなんです?何をなさるつもりなんです?」
いつもおっとりとマイペースだったノエムもさすがに焦る。
地獄門を警備していた人々は全員、死んでいる。
地上の勇者達が亡者と疫病の女神を倒す為に遠征に向かっている間、守備を任されていた人々だ。何の罪も無い人々だ。
それをコンスタンツィアはあっさりと皆殺しにした。
「ノエムには関係無いわ」
そういったコンスタンツィアが力を振るい、ノエムも倒れた。
「こ、殺したんですか?ノエムを?」
ヴィターシャは健康を害しており、歩くのもやっとだった。
血の海の中、畏れ、慄いた眼でコンスタンツィアを見上げる。
「まさか。夢を見ているだけ。ま、いずれ死ぬ運命だけれど」
「ノエムですよ?貴女が貧民に落された後もずっと助け続けてきた」
「だから?私の意志を知った上で『私』をここまで連れて来たのでしょう?」
「で、ですが」
「今更引き返せないのよ、ヴィターシャ。これは貴女が望んだ事。世界を変えるのでしょう?家族を捨てても、自分の利益の為に私を売っても選んだ事でしょう?」
世界に革命をもたらす、ヴィターシャは人生のすべてをその為に捧げてきた。
「貴女の願いは叶う。世界は再生されるわ」
ヴィターシャとコンスタンツィアでは『世界』の解釈が違った。
ヴィターシャがそれに気が付いた時にはもう遅かった。




