第10話 行軍再開
北方戦士団は後方に周り、ピトリヴァータや東方勢が先頭部隊を務めるようになった。
レナートは再び神輿に乗り、夢魔の妨害を防ぐ為に薄く神域を展開しながら進む。
トウジャはたまに周囲の怪物を散らす為に巨体を露わにした。
ある程度進んだところでトウジャの巨体の頭に乗って遠方を監視する。
「かなり遠いが行列が見えるな」
はみ出た者を鬼が突き殺していた。
視力が高いエドヴァルド以外は望遠鏡を使わないと見えない距離だ。
「酷い事をするねえ」
トウジャが語る内容によれば、死んだ者は河原からやり直して怪物に食われる事もある。地獄の刑期はいつまでもなかなか終わらない。
「これまでの話からすると生前にそこまでの悪事をしていた奴も少ないだろう」
「鬼達はアイラクーンディアに忠実だと思っていいのかな?」
”ウム”
単純な役割を持たされた生物で知性の高い鬼はごく僅か。その鬼にトウジャは牢獄で話を聞いていた。
”イタブッテ苦シメル事ヲヨロコビトスル残虐ナ生物ダ”
道の両脇には磔台があり、皮を剥がされ、血まみれになって苦悶の声を上げている。
さらに先には大釜があり、亡者が煮詰められていた。
蒸気のように立ち昇るマナが上空の禍々しい太陽に輝きを与えている。
「酷い光景。これが地獄か」
「創造主は何故あんな愚かで邪悪な生き物を作ったのだろうか」
”賢く作ったらこんな任務を続けられはしないからだろう”
「アルコフリバス老師」
カルネアデスに代わって彼が先頭部隊の魔術師を率いる。
”単純で愚かな鬼はトウジャを見れば去って行くだろう。知恵も勇気もあるようには見えない”
知性の高い者は奇襲をしかけてくるかもしれないが、歯向かえない亡者しか相手にしたことがない鬼と何千年も戦争の技術を磨いてきた人間とでは大きな差がある。
アルコフリバスが空から偵察して待ち伏せを受けそうなポイントを確認し、潜伏に長けた獣人が逆に強襲をかけて先へと進んだ。
◇◆◇
いくつかの道が合流し、かなり近代的な舗装路となった。
他の地獄門に通じる道もここに至ると思われた。
「ここからは軍隊でも数日とかからないとおもう」
襲撃も完全に無くなったので乗馬して急げば一日とかからない。
地平線の向こうには城からの明かりらしきものも見えた。
鬼の奇襲は途中から無くなり、亡者が押し寄せて来た時、それが攻撃的な意図かイルンスールに救いを求めてやって来たのか判別できなかった為、接近される前にレナートが氷の中に閉ざした。
「これが氷結地獄って奴だな」
とスリクが軽口を叩き、気分を悪くしたレナートはしばらく抱かれるのを止めてこれみよがしにドムンと親しくした。
「オルスの奴が要る筈じゃ。アイラクーンディアと対面するまでお前は森の女神達と一緒にいろ」
ヴァイスラに面倒を見るようにと頼まれているホルスはレナートにそう言い渡した。
「もし、お父さんに会ったら・・・」
「父ではない。別の誰かじゃ。お前は儂の事も記憶と肉体を共有しているだけの別人じゃと言ったじゃろ」
「そうなんだけど、イルンスールさんに頼んで苦しめずに眠らせてあげて欲しい」
「相当余裕がないと無力化なんて出来んぞ。何が出てくるかわからんし」
「とりあえず城門までは一緒に行くよ。いきなり突入するわけじゃないだろうし」
道が広くなったので前衛部隊を増やし複数の方面からアイラクーンディアの城を包囲するように各軍団は接近している。
最近抵抗が無いとはいえ、レナートが後方に下がるにはまだ早い。
もともと少数精鋭なので分散するとかなり薄い編成になる。
彼らが城門まで辿り着いた時、危惧されたように伸びきった戦列に対し敵の猛攻が始まり、分散した方面から砲撃音が聞こえてきた。




