第8話 蛇神ナルガ・トウジャ②
”ねえ、キミまだ喋れる?”
レナートは周囲を氷のドームで覆い、自分達を外界から隔絶させた。
そして巨大な槍を何百本も作りドームから伸ばした氷の蔓でトウジャを雁字搦めにして凍結させた。
”殺スナラ殺セ。嬲ルナ”
”うーん。キミってば不死と再生を司る神でしょ?殺してもすぐ沸いて出てこない?”
エイメナースから聞いたイルンスールからの又聞きなのでまだこの怪物について詳しくしらないがあてずっぽうで尋ねてみた。
”試シテミタラドウダ?”
”随分味方を殺してくれたみたいだけど、ボクは別にキミと敵対してないから殺す必要を感じないし、この状態維持しても別に疲れないからこのままほっとく”
”・・・・・・”
虚勢を張っているだけなのかどうか図るような視線を感じた。
”ボク達はキミの棲み処を荒らす気はないし、アイラクーンディアと話して不妊の呪いを解いて貰うのが目的だから。・・・キミはアイラクーンディアの命令でボク達を襲ったの?というかイルンスールさんを狙ってたよね?”
しばらく沈黙してからトウジャの意志が伝わってくる。
”ソノ前ニ、貴様ハダレダ?何故ナルガノ力ヲ持ッテイル”
”ボクはレン。叔母さんがグラキエースの転生した魂を持っていたんだけど、ボクに引き継がれちゃったみたい”
”ナルガハ?”
”この前水神達が地上に降りてきてボクに力を預けていなくなった。そのうち消えてなくなると思う”
レナートは火神達が降臨してきて地上の人間や怪物と争って全滅し、世界の調和を取る為に水神達もこの世界から消え去る事を選んだと伝えた。
”わかった?今度はキミの事を教えてよ。キミ達は神罰で閉じ込められてたんじゃないの?アイラクーンディアに解放して貰って命令を聞いてるの?”
”違ウ。封印ガ弱マッテヴェルハリルガ飛ビ出シタ時ニコチラノ牢獄ガ腐リ落チタ”
”あいつろくなことしないなあ・・・。じゃあアイラクーンディアとは何の関係もない?”
”ナイ”
それからトウジャは身じろぎしようとした為、ドーム全体が揺れた。
”駄目だよ”
”寒イ。殺ス気ガナイナラ解放シテクレ。モウ二度ト閉ジ込メラレタクナイ”
何千年もずっと封印されていた事を思うと哀れになってドームはそのままに束縛からは解放した。
トウジャは嬉しそうにぐるりぐるりととぐろを巻く。
それから巨大な頭を寄せてくる。
”オ前、少シ素直スギルゾ”
”その方がよくない?駆け引きなんかわからないし、こっちの方が話が早いでしょ”
”呆レタ奴ダ”
”それで君は誰?どうしてイルンスールさんを狙ったの?”
”旨ソウダッタカラ。随分長イ間ナニモタベテナイ。泥人形ハ灰ノヨウナ味ダッタ”
”そりゃあ気の毒に。でも彼女やボクの仲間を食べちゃ駄目だよ。で、ナルガとはどういう関係?どうして封印されてたの?”
それからようやくトウジャは経歴を話し始めた。
”我ヤナルガ達ハ元ハ一匹ノ巨大ナ蛇ダッタ”
彼は複数の頭を持つ一匹の大いなる蛇だったが、同胞を増やす為に分裂して各地へ散った。
ナルガはそのうちの片割れの一つで彼らは兄妹婚をしてたくさんの河を作った。
モレスが世界を栄えさせようと世界各地に五大神を配し、彼らの土地に乗り込んで来た為争ったが負けてしまった。
破れた彼らは服従したのだが、モレスはトウジャだけ地獄に押し込めた。
トウジャだけ最後まで激しく抵抗したというのもあるが、彼の持つ毒腺を引っこ抜き、地獄に毒の沼地を作るのが目的だったという。
トウジャを殺すと毒も消えてしまって、復活してまた暴れるので生殺しの状態で地獄で飼われていた。
その話をしている内にトウジャのモレスに対する激しい怒りが伝わってくる。
”神々ガ弱ッテイルナラ丁度イイ。妹ヨ再ビ一緒ニナロウ。共ニ繁栄シ、モレスヲ倒スノダ”
”あー、ごめんね。ボクは本人じゃないし従妹婚はいいけどさすがに兄妹はちょっと・・・”
”ダイジョウブダ、頑張レ、グラキエースノ魂ヲオ前ノ力デ塗リツブスノダ”
レナートの中にいるナルガの魂に話しかけて来た。
”やめてよ、もう。それにアイラクーンディアの呪いを解かないと子孫繁栄どころじゃないよ”
”ナラ倒ソウ”
”え、いいの?”
”無論ダ、妹ノ望ミナラ何デモ叶エテヤロウ”
◇◆◇
「そんなわけでなんだか仲間になってくれました、こちらトウジャさんです」
ドームを解いたレナートは周囲の仲間を集めて経緯を説明した。
トウジャは巨大すぎるので小型化して貰うと上半身が蛇のような瞳をした人間、下半身が蛇の体となった。
対話をしている間、本陣から凍った蛇の体を破壊する為に騎馬砲兵隊が来援していた。
油断なく包囲しながら彼らはレナートの話を聞いた。
「犠牲者も出て複雑かもしれないけど、構いませんか?」
本陣から来たマクシミリアンに直接問うた。
「一度刃を交えた相手と共闘することもある。それは構わないが、大丈夫なのか?」
「ボクは裏切られても抑え込めるから平気だけど、みんなが嫌ならよそに行って貰う」
”愛スル妹ヲ裏切ッタリスルモノカ”
”だから本人じゃないってのに”
”イヤ、オ前ナラ出来ル筈ダ。変化シテミロ。頑張レ”
どういう理屈なのかはわからないが、半人半蛇ならなんだか出来そうな気がしたのでやってみたら出来た。すかさず抱き着かれそうになり、アルハザードが割って入る。
”き、キミ。衝動的すぎない?”
神代の蛇神なので現代人には思いもよらぬ行動をする。
慌てて元に戻ったレナートに恨めしそうな視線を向けて来た。
”ハラヘッタ”
「・・・マクシミリアンさん。何かご飯持ってきてあげてくれます?たぶん美味いもの食べてれば仲間になってくれると思います」
かなり動物的ではあるが、敵ではないと理解したトウジャは大人しくなり地獄について知り得る限りの情報を話してくれた。
当面、マクシミリアンは怪我人の治療と軍団の再編でこの場で動きを止め、別部隊を編成してヴェルハリルがいた付近の土地の水を魔術で廃し、偵察を送った。
◇◆◇
しばらく休養が与えられたのでレナートはクーシャントの治療をしているイルンスールの様子を見に行った。その時、茶目っ気をだしてナルガの姿になったらギャーと悲鳴をあげられてしばらく会ってくれなくなった。




