番外編⑧:シャフナザロフ
世界各地の英雄達が地獄へ向かう中、西方圏は取り残されていた。
エーヴェリーンに故意に負債を負わせ、フリギア家にクーデターを起こさせ、東方諸国が反乱を起こすように仕向けさせた彼らは世界中から憎まれていた。
人口も少なく険阻な地域で連絡が困難だった事もあり、放置された。
対神武器については戦前にフッガー商会が特殊弾丸の製造法を買い取っていたので、今更彼らに利用価値は無かった。
西方人は半獣人と有効的な関係を結んでいた為、獣の民が帝国を打倒した後もそう酷い扱いは受けていないと思われたが、西方商工会が侵略した遥かに西の離島で金の卵を産む希少な獣人などを奴隷化して財を成していた事がウルゴンヌにある自由都市系の新聞社に暴露されると獣人の怒りを買いついに侵攻を受けた。
西方候と西方商工会の会長がアルヴェラグスに暗殺されたまま、後継者がおらず西方人も帝国人同様に壊滅的な状態に追い込まれつつあった。
◇◆◇
とある霊廟でその混沌とした様子を眺めている男が二人いる。
「予想された事だが、この地域では亡者は役に立たなかったな」
個人主義で操りづらく、地形的にも亡者の活動に向いていない。
土地が狭いので火葬して細かく砕いて、骨壺に閉じ込めたり海に撒いたりして使える遺体が少ない。
信仰の形も特殊で漂う霊魂も少ない。
いくつか死霊魔術を研究したが、どれも適していない。
「あの時、マーシャ殿を殺さずにおいて良かった。まさかこんな事になるとは」
エーヴェリーンのスキャンダルを報じたので、帝国打倒を目指す西方商工会系の新聞社は敵ではないと思ったが、自由都市系の新聞社はさらに突っ込んだ原因を調査し、彼女の負債は仕組まれた事であると報じた。ガドエレ家に債権ごと売り飛ばし、さらにフォーンコルヌ家が選帝選挙の成り行きでそれを買い取った。
イルンスールの資産を管理していたフッガー商会は新造艦を納品時にマーシャやアスパシアを連れて潜入調査に協力し、奴隷化された獣人を確認した。
西方商工会が扱う特殊な薬品の製造工場は悍ましいものだった。
「神々も地獄で亡者からマナを搾り取っているが、人間も人間でこの世に地獄を造り出したな」
生まれてすぐに薬漬けにされ、脳の一部を削り取って大人しくさせ、植物状態のまま成長させて体の部品を採取し、チューブから体液を絞りだす。繁殖にはかつてシャフナザロフが死霊魔術の実験台を量産する為に使った技術が応用されていた。
「お前をここまで復元するのは苦労したぞ。マミカは実に役立ってくれた。さあ、西方の大君主ブラッドワルディンよ。民を救いたければ神を呼ぶがいい」
ブラッドワルディンは帝国歴1412年から始まるマッサリアの災厄において北方圏西部に獣人を誘導し孤立させた帝国軍を壊滅させサウカンペリオンまで導こうとしたが、フランデアン王国が大国スパーニアとガヌ・メリ、リーアン連合と戦いながらアル・アシオン辺境伯領を救った為、辺境伯率いる帝国軍は攻撃を持ちこたえてしまい計画は失敗した。
ブラッドワルディンは計画の失敗を悟ると後事を商工会と後継者に託し、自身の関与が追及される前に獣人と戦い、華々しく戦死した。
強制的に蘇らせられたこの虚ろな眼差しの老人はかつて山中に隠れて人体実験を繰り返したこの死霊魔術師とも激しく争ったが、今は使役されその命令を聞く立場でしかない。
彼は金貨を積み上げて神々を呼び始めた。
それが彼の、彼らの信仰を示す儀式だった。
生き残りの西方人達も彼に続いて祈りを捧げた。
”幸運なる神よ。商いを司る神よ。盗賊を蹴散らす剣神よ。終末に光輝をもたらす神よ。我が民を救いたまえ。地中に眠れる神よ、鉱物の神よ。財宝を守る番人よ。契約を司る神よ。アーフよ、断ち切る神よ。降りよ、顕れよ”
ブラッドワルディンは次々と神を召喚し始めた。
「ふふふ、いいぞ。さすがだ。この世も既に地獄のようなありさまだが、地獄門がある限り完全には混じらぬ。しかしながら他の世界はかなり近づいてきた。せっかく火神を落したのに水神が消えて元の木阿弥かと思ったが、これでいい。世界の調和は大きく揺らいだ。メルセデスが成功しようと私が成功しようと結末は同じ。これでもう誰にも止められはしない」
降りてきた剣神に貫かれながらも意に介さず、シャフナザロフは呵々大笑した。
番外編はこれにて終了です。
恐らく中編はなく、後編で決着がつくと思います。
今回はあとがきも無しです。一ヶ月くらいは休もうかと思いますのでしばらく間が空きますm(__)m




