第48話 シェンスク会談
既に地獄門周辺に展開している部隊とは別に、少数の指揮官らがシェンスクに集結した。
会談が終了次第、月の舟で出発する。
集められた人間の代表者はクールアッハ大公エンマ、バントシェンナ王ニキアス、そしてヤミス教団のヤミス。神々は森の女神が七柱揃い、加えて氷の女神グラキエースもいる。
獣の民からはマヤ、そしてミア、ガ・ウル・ナクサス、ヴィガ、スヴァジル、シャバービ、ネドラフなどいくつかの種族の代表者。旧帝国軍の司令官も数名出席しているが末席扱いである。
東方諸国やアル・アシオン辺境伯領からも特使が来ており旧帝国の軍人には監視がついている。
「儂らは古い馴染みじゃが、お前達の多くは初めて会うから紹介しよう。こちらが森の女神イルンスールじゃ」
最上段の上座にイルンスールが座り、傍らのマヤが皆に紹介した。
先日、レナートと会った時と違って多少威厳のある格好をしていた。うっすらと青い透明の幕のようなものが張られて彼女を守っていた。
「彼女に何かあれば作戦は破綻する。死んでも守れ」
一同は頷いた。
「エンマ、ニキアス、ヤミス」
「はい」
「ここにいる者達の大半は地獄に行くがお前達は地上に残り人々をまとめよ」
「ええ」「はい」
「儂らが戻ってきた時、我が民が虐げられているようなことがあれば容赦なく残った帝国人を絶滅させる。肝に銘じておけ」
フロリア地方が滅び、その分戦力を地獄に振り分ける必要が出た為、獣人側の投入を増やすしかなかった。
「儂らがいない間にまた神々が降臨してきたら戦うなり、従うなり好きにせい。どうせろくな目的ではないがな」
「おわかりになるのですか?」
「森の女神の長、エイメナース殿やスクリーヴァが天界で紛糾する天神の議論を見てきた。三界を流れるマナの循環に役立たなくなった地上もそこに済む人間も一層して新たな世界を作るつもりじゃ。神々の議事堂を管理していたウィッデンプーセが消滅して議論は棚上げになったようじゃがオーティウムの蛮行をみれば分かるじゃろう」
無論水の女神達や月の女神は反対していたものの、彼女達には戦う力が無い。
「ニキアス。もはや貴様が支配する土地は僅かでしかない。今後はエンマを中央大陸に住む人間側の盟主とみなす。よいな」
「仕方ありませんな」
「儂が口出すような話ではないが、エンマは大公国の王となり、ニキアスはその配下の公爵とでもするがよかろう」
「もともと東部総督とその部下ですから元の関係に戻るだけです」
「うむ。これまでご苦労だった。引き続き治安の維持に務めよ」
「はい」
エンマは若い女性ながら無難に務めている。さすがに大公家の長女だった。
「ヤミス、お前も半獣人達と共に行動して人々の意識変革に務めるがよい」
「はい、必ずや争いを治めましょう」
「うむ」
シェンスクにはミアが残り、遠征部隊と地上の人々の連絡役となる。
遠征部隊に継続して寄こす補給物資などの話をし、それから最後に壮行会として軽い祝宴を開いた。




