第22話 スリクとの再会
「スリク!よく無事で!」
シェンスクにやってきたレナートは久しぶりに会ったスリクの無事を喜んだ。
「無事に見えるか?」
獣人に囲まれたスリクは気まずそうにしている。顔面は傷だらけだった。
凶暴性の高い獣人はダカリス地方に移住している筈なので理由なく暴力を振るう者はいないというのに。
「どうしたの?」
「爺ちゃんにやられた」
ホルスはスリクとロスパー帰還の知らせを聞いて早速、シェンスクに会いに来たが事情を聞いてボコボコにした。
「何があったの?」
「このバカはこの期に及んでニキアスに報復する為にガルの判事と組んで陥れたんじゃ」
スリクは今もなおカイラス山の襲撃を恨んでおり、自力で暗殺するのは難しかった為、つけ回している間に得た情報を利用してニキアスに恨みをもつであろう者に情報を流した。
その結果、ガル判事エッゲルトは人類にとって大事な時でありながら反乱を起こしたらしい。
「ニキアスの野郎はまだ生きてる。今度こそ殺す」
復讐は終わったと思ってシェンスクで保護されているロスパーの所に戻ってきたのにニキアスはカーバイドに助けられてヴェニメロメス城まで戻ってきた。
地獄の女神を討伐する為に人類の戦力を集める予定だったが、地方の諸侯にまではまだ伝えていない。情勢を知らない彼らはニキアスが死に、ガル判事やフロリア地方でも再び半獣人連合が結成されたと聞いてそちらに加わり始めた。
危険な獣人や魔獣が去って恐怖を忘れ彼らは獣人を甘く見てしまった。
徹底的に武器をはく奪されていた第三、第四市民階級領は反乱に参加しなかったが、いくつかの諸侯は既に反乱に加わって獣人を攻撃し始めている。
「バカたれが!」
こういった状況でも未だに復讐に拘るスリクをホルスは殴りつけた。
ヴェルハリルのような怪物に出会ってしまった今、いくら恨みがあっても人間同士で争っている場合ではない、とホルスでさえ考えている。
「まあまあお爺ちゃん。とりあえずスリクが無事に帰ってきたんだからいいじゃない。ニキアスさんの事は後回しにしていったんマヤに会おう。ロスパーも無事なんだよね?」
「ああ」
ロスパーとスリクの別れはレナートにとって辛い事だったが、時が癒してくれた。
過去は過去だ。
「ロスパーはあの時、正気じゃなかった。許してやってくれ」
「そうなの?」
「ああ。どうも地獄で記憶や人格を操られてたみたいだ。本心じゃない。ずっと謝りたいって言ってた。俺も、ごめん」
「うん、いいよ」
スリクのレナートの最後の記憶は泣きじゃくって走り去った後ろ姿だった。
割とあっさり許されたので拍子抜けする。
「あ、服がボロボロだね。繕ってあげる」
「え、ああ。後でいいよ。お前、繕い物なんて出来たっけ?」
「パーシア様に習ったの。いいお母さんになるにはそれくらい出来ないと駄目なんだって」
「なんかすっかり女らしくなっちゃったな」
「スリクは男の子の方が好きだったっけ?でも御免ね、もうこのまま生きるって約束したの」
パーシアは一応ショゴスに義理立てしていたのでフロリア滞在中は浮気せず、そういう約束を交わしていたのだが、離婚して出て行った以上もう関係ないが特に訂正していなかった。
男好きにされたスリクは慌てて否定する。
「いや、そのままでいてくれ」
「そう?じゃ、行こうか」
◇◆◇
レナートの面会依頼はすぐに通り、マヤはラターニャ達と共に待っていた。
そこには異形の騎士もいた。右手は茨で覆われていて他の騎士達とは明らかに気配が違う。亡者のようにマナは鼓動していないのに邪悪な力は感じない。精霊に近い印象だった。
「レナートが会うのは初めてじゃったな。こやつはアルヴェラグス。フォーンコルヌ皇国の長子。お前は出身に興味ないじゃろうがな」
「うん」
「パーシアの叔父じゃ」
「初めまして!叔父さん!」
レナートは礼儀正しく挨拶した。
「ああ」
相手は無口のようで短く返した。
「森の女神の神兵で、今度の作戦の準備の為に来ている」
「へえ」
「月の舟の話は知っとるじゃろ。色んな物資を持って人間達を援助してくれておる」
「だが、もう打ち切りだ」
アルヴェラグスは冷たく言い放った。
彼も人間同士が再び争い始めた事を聞いている。
援助物資の配布を委託した人間が独占し、価格を釣り上げて流していた事も。
「我が神は帝国人の現状を哀れんで寛大にも援助することを許された。その結果がこれか」
「まあ、そんなもんですよ」
レナートは別にショックを受けていない。とうの昔に達観している。
「マヤは彼らをどうするつもり?」
「どうもせん。無視する。最優先は地獄の女神アイラクーンディアを打倒することじゃ」
点在している獣人達が虐殺されるのを防ぐ為に、集結を指示しているが反乱軍の要求に応えて撤退したわけではない。
「不足する戦力を補う為に、各地の獣の民をいったん引かせるが連中が勘違いしたとしても知った事ではない。そんなことよりレン」
「なに?」
「悪いが、火の神オーティウムとやらを始末してくれ。援護はする」
「あれ、地獄に行くのを優先するんじゃないの?」
「オーティウムがうろうろしていると森の女神達が来てくれん。彼女らの天敵じゃからな」
「いいけど世界の寒冷化はますます酷くなるかも」
「仕方ない。連中は人間も儂らの事もなんともおもっとらん。去ってくれるならともかくこの世を不浄として丸ごと焼き払うなら排除する」
「うーん、酷い連中だけど積極的に人間を皆殺しにするつもりまではないみたいだったよ」
エンマは怒っていたが、これまで会った生物の中では特に邪悪な部類では無かった。




