第21話 エンマとレナートの選択
第21話 エンマとレナートの選択
「で、どうして急にわたくしの元にやってきたのかしら」
脅威は去り、市民の救助活動が始まるとエンマが陣頭指揮を執る必要もなくなり部下に任せてレナートから話を聞く時間が出来た。
「えっとですね。うちの村に埋まってた腐竜ヴェルハリルって奴が急に起きてきて、シバいたのは良かったんですけど村は使い物にならなくなったので皆をカイラス山にまた迎えたんです。で、ラターニャさんをマヤの所に送って状況説明して貰ったらロスパーが現れて・・・」
これで地獄の案内人が出来たと喜んでいた所、地獄から持ち込まれた種についてロスパーから説明があった。葉肉、果実の恵みは得られるが、代わりに土地を腐らせる力が宿っていると。地獄には地獄の炎があるので腐った土地は焼き払って元に戻るが地上はそうはいかない。
栽培を止めるようにフロリア地方に使いを送ったが、違法にフォーン地方に持ち込まれている事も発覚した。
「村の果樹園は無事だったんでボクは山と村を行き来したり、いつも通り東の山々を偵察してたんですけど村に突然あの連中が現れてヴェルハリルの残骸を調査に来た人達を焼き払ったんです」
幸いあまり被害が出る前に神兵を倒したレナートは一応彼らの弁解を聞いた。
ヴェルハリルの残骸から汚染が広がるので仕方なかったと言われると、確かにそうかもと納得はした。
彼らを解放した後、パーシアと相談していまいち信用できないしマヤに伝えた方がいいだろうとパーシアをシェンスクに送りレナートは神兵の追跡を始めた。
「そしたらあいつらあちこちの街や村を焼いて回ってたんですよ」
レナートに詳しい土地の名を聞くとエンマが最近気にしていた違法流通している植物の栽培地域と同じだった。
「わたくしの所にはホリンという名前で報告が上がっていたけどたぶんそれね。神兵達は地獄の植物を焼き払って回っているのだわ」
「そうかもしれないけど、あいつら大雑把に住んでる人達ごと燃やしちゃってるんですよ。凄い速さで」
レナートは世界の気象に影響を及ぼさないよう慎重に神域を作って自力で消火に努めたが、そのせいで追跡が遅れた。
「たぶんそのうちエンマ様の所にも報告が上がってくると思いますけど・・・」
後に公都の被害と合わせて領内で十数万人が焼死していたことが判明する。
それはそれとしてレナートは昔と違って随分遠慮がちに話していた。
「もう何をそんなにそわそわしているの?」
エンマよりも大きくなったというのに妙に縮こまっている。
「ふしだらな生活を送っているから怒られるとでも思ったの?」
しばしば訪れるソフィアからレナートの近況は聞いている。
びくっと震えるレナートに苦笑してエンマはとりなした。
「わたくしの領民ではないのだからあれこれはいいませんよ。うちの子だったら引っ叩きますけどね」
「ほっ」
「お相手はレンの事知っているのかしら・・・。そういえばロスパーさんが戻ってきたという事はスリク君っていう子も?」
「それがスリクはロスパーを送り届けた後姿を消したらしくて。槍はお爺ちゃんの所に戻ってきたんですけど、あ、そうだ」
「なに?」
「ラターニャさんがうちのお爺ちゃんがヴェルハリルと同じだって言ってましたけどどういう事でしょう?」
と言われてもエンマにはヴェルハリルの詳しい情報が無い。
「後でわたくしの顧問魔術師にでもお聞きなさい」
「はい。で、会合が予定されてたと思うんですけどどうします?」
「今はそれどころじゃないわ。といっても別の意味で情報交換が必要になったけれど。レンはどうするの?あの神兵達を追うの?」
「神兵とかいう連中はともかくさっき聞いた怪物が出るならパーシア様が心配だし、キリがないからマヤとも相談しようかなって」
「マヤさんとパーシアにはわたくしからベルレフォンを送るからレンはわたくしの領地を焼き払う賊を始末してくれないかしら」
神兵に勝てるのは現状レナートしかいないので、役割分担が必要だった。
「う、うーん・・・」
パーシアが心配だし、護衛無しで戦うなと怒られた事もあるのでこれ以上の単独行動はレナートもちょっと避けたかった。
「おねがい。貴方しか頼れないの。不利になるようなら無理しなくていいから」
「はい!頑張ります!」
子供の頃から尊敬している人に頼まれたら仕方ない。喜んで大公領を飛び回って神兵を蹴散らして回った。相手は逃げる一方だったので戦いにもならなかった。
◇◆◇
しばらくしてパーシアとベルレフォンが公都までやってきて、レナートもまた戻ってきた。
「あいつら逃げ回ってばかりだし、あちこちに散らばっちゃってもう手に負えないよ」
天馬は速いが持続力が無いので迎撃は出来ても追跡には向いてない。
「仕方ないわね」
「一応、もうフォーン地方にはいない筈だけどいつ戻ってくるやら」
氷神との戦いを避けて彼らはフロリア地方へ渡ってしまった。
レナートはエンマに頼まれた事は終わったのでもう十分だと判断した。
「パーシア様はどうしたの?」
「会合を予定してたガル判事が突然ニキアスを襲ったそうでね。彼は逃げたけどグランディは捕えられたみたい。ついでにいうと・・・私の元夫のショゴスも殺されたって」
双方獣人の領内からの退去を条件に地獄の女神討伐に協力すると言っている。
「ディーは?」「グランディお姉ちゃんはどうなったの?」
「ニキアスはアンチョクスの蟲に感染させられたって言ってるけど、それだけならまだ大丈夫。人質にしているだけでしょう」
「マヤはどうするって?」
「グランディを助けてやる筋合いは無いし、交渉する気はないみたい。フロリアも」
「地獄の事はどうするの?」
「予定通り。地元の人間が協力しないならそれはそれでいいって」
諸外国の連合軍と獣人だけで予定通り侵攻する。
ロスパーも見つかったので今は魔術師達が詳しく調査している。
役に立つようなら案内をさせる。
「わたくしは一応参加するつもりなのですけれど」
エンマは彼らと志を共にしていない。何の相談も受けてない。
「エンマ、貴方の所からはガル判事領を通らないと大軍は送れないでしょう?軍を派遣している間に連中に攻められかねないわよ。だからニキアスも動けない」
「わたくしの所に攻めてくるほど愚かではないでしょう。それにレンの話の通り神兵がフロリア地方に入ったのなら向こうも焼き尽くされるわ」
エンマは規模を小さくして環状山脈沿いにどれほど軍を送れるか、将軍に試算させることにした。
「こちらには違法に流通していたものだけだからあまり地獄由来の植物は広がっていない筈だけど大規模に栽培していたフロリアは違う。レン、悪いのだけれどフロリアも助けてあげてくれないかしら?」
「うー?」
「駄目よ、レン。これ以上危ない真似しないで」
エンマとパーシアはそれぞれ別の事を口にした。
「レンを失ったら地獄の女神討伐なんて無理よ」
「今度は天馬がいるからベルレフォンも護衛につける。何の罪も無い民衆ごと連中は焼き払っているのよ」
「護衛なら叔父様にお願いする。一度シェンスクに戻りましょう。救援に行くなら叔父様やダカリスに渡る為の月の舟で皆と行けばいい。幼馴染のスリク君もシェンスクに戻ってきたし会いたいでしょ?」
行方不明だったスリクも再び姿を現して接触してきた。ニキアスがもう死んだと思って出て来たのに想定外に生き残ったので予定がくるったようだ。
「うー」
エンマはレナートが簡単に火の神とその家臣を追い払ったので軽く考えているが、オーティウムとはまだ直接対決していない。よく知らない騎士と一緒に追跡して戦うのは心もとなかった。
「じゃあ、戻る。エンマ様は反乱起こした連中の味方じゃないって伝えて来るから」
「そう。仕方ないわね。無理をいって御免なさい」
「じゃあ、また近いうちに」




