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天に二日無し  作者: OWL
第二章 天に二日無し ~前編~
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第9話 会談直前 ~フロリア~

 フロリア地方。

フォーンコルヌ皇国の南部にあり、水源も豊富で中央高原でもっとも耕作に向いた土地であり、流通する食糧の多くがここで生産されていた。

気候も温和で暮らしやすいこの平和な土地にも遂に亡者が襲来した。


山岳部には亡者避けの聖なる木があるが、それをすり抜けてくる亡者を警戒する為、感染防止措置が施された部隊が巡回していて、そちらからの侵入は防げていた。

大地峡帯の谷底には亡者がひしめいていたが、定期的に発生する鉄砲水で押し流されてしまうので登ってくる事は無いと思われていた。


「しかし、警戒した甲斐はあったな」


運河と長城を作ったおかげで出現した亡者の大規模侵入は阻まれた。

外郭に近い辺境の村々は全滅したが、都市部は無事であり十分な土地は確保出来ている。


「犠牲者は30万といったところか」


長城の上からショゴスはひしめく亡者を見下ろした。

亡者間で感染し自滅する薬剤を手配してあるので余裕である。

報告した領主と近隣諸侯が同様に集まって、下を見下ろしていた。


「原因は何だ、ツェリン」


断崖が崩落するような地震や大雨は無かった。

諸侯には定期的に巡回して状態を確認するよう厳命してあったし、急に大地峡帯から上がってくるには何か理由がある。


「貴方ですよ、陛下」


ヴォルジュ伯ツェリンはゲシっと壁からショゴスを蹴り落とした。

彼は自分が何をされたのか理解できないまま、歓迎するかのように両手をあげて自分を迎える亡者達に飲み込まれていった。


 ◇◆◇


 中央から来た重臣達は何が起きたのか理解できず呆気に取られ、護衛の騎士も数瞬反応が遅れた。

その戸惑いの内にツェリンの部下は護衛の騎士達を銃撃して撃ち殺し、耐えきった者には魔導騎士が直接魔剣を振るって殺害した。


「ツェリン。お前一体何を!」


最初に言葉を発したのは元上官のエティション伯グラントム。

彼は殺害リストに入っておらず見逃されていた。


「先ほど言った通り、この状況を招いたのは大公殿下だ。だから私が人々に代わって処分した。まあ人々も自分で恨みを晴らしたようだが」


バラバラに引き裂かれていくショゴスをツェリンは横目で確認した。


「殿下に命じられた通り作った実験農場で収穫は確かに増えた、この気候でも。しかし、その畑に他の植物を植えても何も育たなくなった。そして地下深くで根が腐り、泥のようになって土地ごと腐っていった。それが地下で大地峡帯にまで通じて崩落が始まった」


ツェリンの領地だけでなく、外郭部各地で崩落が始まり、亡者は多数の地域から侵入して対処は間に合わなかった。


「陛下は貧しい外郭部の土地を救うために貴重な苗を貸与されたのだ!それを逆恨みして殺すなど・・・」

「実験台に使われただけだ。失っても惜しくない土地に」


そういった点は無いとは言えない。


「陛下が本当にお前達の事を軽く見ていたらこんなに早く危険な最前線まで来るわけがあるまい。なんという早まった真似をしてくれたのだ」

「これだけが決起の理由ではない。我々が奇行を行う者が増えたといってもそちらから派遣された医師はこんな時代では精神が不安定になる者が増えて当然だとまともに話を聞いてもらえなかった」

「奇行については報告を受けている。全国的なもので君らの被害妄想だ」

「巡礼者達の話を聞く限りまったくそうは思えなかった。頻度が違う」

「君達は亡者の谷から近かったからより一層不安定な精神状態の者が多かっただけだろう」


ツェリンは派遣された役人や医師と同じことを何度も話してきた。

彼の権限が及ぶ範囲の土地では比較も出来ないので中央に頼るしか無かったが、国による本格的な統計調査は行われなかった。どうせいっても無駄だと次の話に移る。


「殿下を殺したのはそれだけが理由ではない。彼の命令に従っていたら人類は消えてなくなる」


反獣人派の急先鋒のツェリンに対し、呆れたようにまたその話か、と返す。


「獣人との共存は陛下だけの意志ではない。議会でも承認され、エンマ殿も連中と手を組んだ。今となっては仕方ないことだ」

「その結果、各地で邪教が蔓延った」

「邪教?獣人との融和を説く者達のことか?そんなことより地獄の女神との対決する為の会合も直前だというのに何という事をしたのだ貴様は!貴様のやった事は人類を分断し敵を有利にしただけだというのがわからんか!

「邪教集団は隠れて獣人と乱交を繰り返し、生まれた子供は皆奇形。中には生まれた後、母親を襲って食い殺す例もあった。発覚を恐れて子供を殺し自殺する母親もいた。哀れだが自殺した者は皆地獄に落ちて永遠の苦しみを味わう。殿下の決定は地獄の敵を有利にし、民を苦しめただけだ」


ツェリンは堕落する領民を涙を呑んで処断した。

そうせざるを得なかった。


「もし会合を破綻させた事で人類が滅びるなら私は一向にかまわん」

「何という事を・・・」


人類絶滅さえも良しとするツェリンをグラントムは理解できない。


「地獄の女神との戦いで生き残れたとしても、それはもう人類でも何でもない。獣人にも差別される半獣人が生き残り、どちらにせよ『人類』は存在しなくなる。そんな事の為に戦う必要がどこにある?そんな事の為に我が領民達は死んでいったのか?滅びるなら人として滅びる。獣人の出来損ないとして滅びるなど堪えられん!」


ツェリンは亡者に襲われた領民の多くを見捨てざるを得なかった。

出来れば救ってやりたかったが手持ちの対亡者の薬剤では対処しきれないほどの数がいた。


「それでこの後どうするつもりだ。人として死にたいなら勝手に喉に剣を突き立てれば良いではないか」

「私も友人達も感情的になって殿下を殺害したわけではない。フォーン地方の実力者とも連携はとってある。ダフニア様なりフィネガン公なりが我々の要求を呑むのであれば地獄の女神との対決にも協力する」

「それで私を生かしておいたというわけか?」

「まあ、そうだ。戻って公に伝えて欲しい。我が国から獣人を追い出し帝国の再興に協力するのであれば我々は今後とも忠誠を誓うと」


ツェリンは数年前の獣人との戦いでも大軍をよく指揮して人望がある。

グラントムは死んでしまった王の事には見切りをつけ主君とダフニア、そして人類の為にツェリンの意向を伝えに戻った。


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2022/2/1
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