東方編⑤:その後
その後、しばらく滞在して娘達の機嫌を取っていたマクシミリアン達の所にアルヴェラグスが戻ってきた。
「あれ、お義父様は?」
イルンスールが腹心の騎士に問う。
「は、それがエーヴェリーンが見当たらず捜索すると言って聞きませんでした」
アルヴェラグスは一度報告に戻り相談することを提案したが、彼は聞き入れなかった。
「亡者に襲われた形跡はありませんでしたが、エーヴェリーンを影ながら見守っていたアルシアの兵士が行方不明です」
「旦那様や子供は?」
「そちらも」
その報告にマヤが舌打ちをした。
「どうかした?」
「うむ・・・。これでまた分からなくなった。実はヴェーナでコンスタンツィアの遺産が見つかったんじゃが、その封印を開けられるのは方伯家の血を引く女性だけという条件付けがされていた。エーヴェリーンはその条件に合致する。で、その封印が解かれて中身がいくらか持ち去られていたようなのじゃ」
「じゃあ、今回の亡者騒ぎはエーヴェリーンを連れ去る為だっていうの?」
「関係者が行方不明ではなんともいえん。単に退避しただけという可能性の方が高い。どこもかしこも無政府状態のようじゃからの」
アルベルドも人手を割いて捜索する余裕はないのでエドヴァルドに期待するしか無かった。
「では、私も加わろう」
マクシミリアンも協力を申し出た。
「まあ、それくらいしか出来る事無いよね」「ですね」
娘達のぼそぼそとした話し声にマクシミリアンはひきつり、ヴェイルは苦笑した。
「ここで頑張って成果を出すしかありませんよ」
「いうな。ところでイルンスール」
「はい?」
「エイメナース様には会えるか?ひとつ頼みがあってな」
「構いませんよ」
普段はもう少し奥の泉にいる姉達のもとへマクシミリアンを連れて行った。
◇◆◇
森の奥の聖なる泉には多くの動物が集まり、女神達は楽器を奏でて平和に過ごしていた。
「お騒がせして申し訳ありません。我が神よ」
「構いませんよ。妹を地上の争いに巻き込まない限り頼みは何でも聞きましょう」
エイメナースは何千年も母の宮殿を守り続けて来た妖精の民を高く評価して自分の力を割いて保護している。その王の頼みは何でも聞いてやるつもりだった。
「現在、地上を席捲している亡者達の種類のいくらかはそちらのエーゲリーエ様にアイラクーンディアが盛った呪いと関連がある様子。それを解く薬をお持ちではないでしょうか?」
神話では薬師の神がエイメナースにその秘術を教えたという話だった。イルンスールも教わっていたのでエドヴァルドの母を癒す事が出来た。
「それには解毒薬と解呪の儀式が必要です。お前達の力ではカーマとモレスの力が籠った呪いは解けないでしょう。解毒薬自体は人間が既に再現出来たと聞いています」
「同様の結果が得られても同じものとは限りません。差支えなければ伝授して頂きたい」
「いいでしょう。しかしそれでもしカーマの企みを頓挫させた場合、彼女は次の手を打ってくるでしょうからそれに備えなさい」
「どのような手段に出てくるかお分かりですか?」
「今現在二つか三つの地獄門が開いています。かつてわたくし達が封じた『獣』から逃れるためにいくらかの神が実体を捨てて残骸を石化させているので彼女は地獄門から直接亡者を送り出して奪いに来るでしょう。いずれ来る天神達との戦いの為に」
エイメナースはイルンスールを傍に呼んでまだ動く時ではないと諭した。
「わたくし達には知った事ではありませんが地上で大きな力を振るった神には報いがあります。当面続くと思われたカーマとモレスの代理戦争の構図に変化があれば次の局面に入ります。よく考えて動きなさい」
「畏まりました。我が神よ。ご助言に感謝します」
マクシミリアン経由で秘術はマヤへそして中央大陸へと渡っていった。
このあとあとがきを投稿して当面お休みします。
またちょくちょくPCが再起動するようになってしまいました




