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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~後編~
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東方編:親娘

 マクシミリアンはようやくバルアレス王国の南東部エッセネ地方に辿り着いた。

道中、かつては同盟市民連合と言われた反帝国都市同盟の地域を抜け、エルセイデ大森林に入り樹木が枯れているのを確認した。

噂の亡者はどうやら彼らが到着するまでに追い払われたらしく、住民もいくらか戻っていた。

王国は既に崩壊して、近隣の領主達も統治能力を失っていたが、エッセネ公領にはまだ秩序があった。


それまでの道中は完全装備の二人の騎士相手でも襲ってくるような愚かな山賊がいたが、この地域に入ってからは一切無くなり、とある村では村長が彼らの素性を聞いて急いで城に使いを出してくれた。


歓待を受けた後、ゆっくり出発し亡者に襲われて半ば廃墟と化した城に到着すると出迎えの騎士がやってきた。


「これはこれはお久しぶりです。陛下、ヴェイル殿」

「私はもう退位した、アルミニウス。噂では黒竜が現れたと聞いたが、ヴェルムスニールか?」

「はい、そうです。シャールミン様」

「すまんが名前も生来のものに戻した。マクシミリアンと呼んでくれ」

「承知しました」


ウルゴンヌの湖に住んでいたヴェルムスニールが寒冷化に伴って姿を消した。

どこに行ったのかと思えばここに来ていたのだった。


「ところで、神獣クーシャントがこちらに来ておりますがあれもマクシミリアン様の来訪と何か関係が?」

「なんだ。先に来ていたのか」


妖精の森に住んでいた頃から姿を消すのはよくあることだが、途中までついて来たのにもう随分長い事姿を消したままだったので心配していた。どうやら先に来ていたようだ。


「私達は亡者の噂を聞いて調査に来た。道中で黒竜が現れて追い払ってくれたと聞いたが、信頼出来る情報が少なくてな。確かか?」

「間違い御座いません。道中はそんなに危険でしたか?」

「ああ」


周辺一帯は無法地帯と化していた。

領主や資産家の館には火が放たれて略奪され、生産的な活動を止め、奪い合うことしか頭になかった。


「エッセネ公のところには秩序があると聞いた」

「はい、陛下。実はイルンスール様がお戻りになられました」

「あの子が?」

「ご存じではありませんでしたか。実はしばらく前からこの城の裏手にある森に滞在していたそうなのですが、アルベルド様は秘密にしようとしていたのです。しかし、派手に亡者を鎮められましたので隠しきれなくなって私達にも打ち明けてきました」


ここの住民は迷信深く外国人嫌いで、昔は養女としてやってきたイルンスールの事を嫌う者もいたが、今の人々は感謝して神殿を建て復興に力を注いでいる。

聖域として侵入が禁じられていた大森林にも立ち入り、採集、狩猟が許された事で、生活の糧を探せる場も増えた。


「そのようだな。だが多くの者が北へと向かっていた」

「はい、ここにも雪が降るようになりました。北の方がまだ暖かいという噂ですが、本当ですか?」

「ああ、そうだ。だが、どこの国も入国を拒否して追い返しにかかっている」


さもありなんとアルミニウスは頷いた。


「それであの子は何処に?神殿か?」

「いえ、オルタ・エイペーナの聖なる森にある泉に小屋を建てられまして主にそちらにご滞在です」


大森林の木々はほとんど枯れてしまったがそこだけはまだ健在だという。


「なんでまたそんなところに?」

「直接この世界に関与はしたくない。させたくないようです」

「あの子に負担をかけたくは無いが、世界のこの現状では神々の関与も必要だろう」

「さて、それはどうでしょうか。神器もありますし、十分に助けて頂いています」


アルミニウスは助けを求めず、主をそっとしておきたいようだった。


「アルベルドもそうなのか?」

「はい、イルンスール様を娶るには神格を得る事がもともとの条件でしたし」

「ぬう。奴は何処だ」

「イルンスール様と共に泉の小屋に」

「城主が城にいないのか?」


まだ朝だというのに、不在とは珍しい。


「子供の足でもさして時間のかからない距離ですから。昔は姫様がよく籠っていたものです」

「では、行ってこよう」

「昼にはお戻りになられますよ」


少し後ろで控えていた侍女がここで口を挟んで来た。


「旦那様、陛下にそんな失礼な。私がお呼びしてまいりますからお茶でも出してさしあげて下さい」

「いや、構わんよ。グリセルダ。相変わらずよく尽くしてくれているようだな」

「はい」

「後で、君の子供達にも会わせて貰う。もう大分大きくなったか?」

「はい、有難うございます。陛下」

「二人と話したいからちょうどいい。行ってくる」


城の塔の上からでも見える距離だったので、供もつけずにマクシミリアンは聖なる泉まで行く事にした。グリセルダはそれを見送ってから主人に苦言を述べた。


「もう、実の父親が今のお二人の所に行ったらきっと揉め事になりますよ」

「あぁ、それは確かに。しまったな」


 ◇◆◇


 マクシミリアンとヴェイルはそれらしき小屋に辿り着いたが、随分と静かで誰もいないようだった。


「手分けして探そう」


小屋は何軒か建っていたので、二人は一軒一軒覗いていった。

陶器がいくつも並んでいる作業小屋らしき物もあれば、普通の人家らしい物もあった。


「イルンスール様、姫様。いらっしゃいませんか?」


ヴェイルはある小屋で、人の気配を感じて立ち入った。

鍵は無かったので勝手に開けてしまった。

さほど大きくもない小屋だったので、奥の寝台で寝ている三人の男女も見えてしまった。


「おっと失礼」


慌ててヴェイルは扉を閉めて下がった。


「どうした?」


気付いたマクシミリアンもやってくる。


「いたのか?」

「それが・・・」


言いかけた所で、扉が開いて裸にガウンを引っかけただけの黒髪の娘が出て来た。


「はぁーい、なんですか?」


寝ぼけ眼で手のひらで目を抑えながら出て来たのできわどいところも見えてしまう。


「こ、こら!なんて格好だ!もう昼も近いのに!!」


寝ぼけたままの娘の肩を掴んで後ろを振り向かせた。


「おーい、どうした・・・って。げっ!」


部屋の向こうに見える寝台からはアルベルドが裸の体を起こして、驚きと恐怖の声をあげた。

隣にはやはり黒髪で一房だけ金色の髪の娘がいる。


「アルベルド!貴様!娘だけでなく他の女にまで手を出したか!!」

「な、なに?なんなの?」


起き抜けに怒鳴られてイルンスールが目を白黒させていた。


「申し訳ありません。姫様、ひとまず服を。陛下。いったんここは・・・」


常識人のヴェイルが怒るマクシミリアンをなんとか抑えて小屋の外に出し、住人達が身支度を整える時間を与えた。


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2022/2/1
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