天界編②:大地母神
神々はそれぞれ己の神界を持つ。
月の女神の神界には銀に輝くすすきの草原があり、天女たちは神酒を作り、天界中の神々に振舞う。
大地母神は長い間天界を離れていたので、己に仕えてくれる天女もおらず、娘達に手伝って貰い再び黄金の麦が実る神界を創り上げた。
かつての神兵が長大な鎌で麦を刈り、その恵みに感謝して女神に差し出した。
「スクリーヴァ、お前も地上へ降りるつもり?」
「いいえ、母よ。俺はお側に」
「他の者達は?」
「全て死に絶えました」
何千年も管理者がいなかった為、初代皇帝として神格を与えられ、独自の信奉者もいたスクリーヴァ以外の眷属達は転生の時を迎えていた。
「そう。では、後でお前に話があります」
「は」
猿人スクリーヴァは一度下がって、二人の女神に場所を譲る。
「アウラ、エミス」
「母上」「叔母様」
契約の神アウラ、法の神エミス。
二人の女神は大地母神と比べると同系統の神族では珍しく少しほっそりしている。
「エミス、エロスは?」
「いまだ戻りません。母の元にあるかと」
「そう・・・。で、お前達はどうするつもり?」
「私達も降りるつもりはありません」
「しかし、もう罰を与える力も残っていないでしょう?」
ドゥローレメが反対しても多くの神々は地上へ降り、亡者達を焼き払おうと計画している。
「アナヴィスィーケやお母様は?」
「抗う者達を止める事は出来ないでしょう」
誓約に違反し、神々にもいずれ呪いが降りかかり破滅するだろうと言われているのにそれでもなお火神達は地上に降りる事を主張している。
「守護する土地が壊滅してしまったのです。仕方ないでしょう」
神々の時代と違って故郷を離れて活動する人間が増えていたおかげで、南方人はまだいくらか各地で生き延びている。だが残りの南方人達の生存も風前の灯にみえた。
「子孫達を守ってやりたいというのを止められません。好きにさせておやり」
「では、何故森の女神達を地上へ逃がしてしまったのですか。火神達が荒れ狂えば、彼女達にも被害が及びイルンスールまで死んでしまうかもしれません。そうなれば希望が潰えます」
「人としての未練がまだ地上にあるようです。もし猛火が彼女を襲えば、水の女神達が介入するでしょう」
「なし崩し的に神々の介入が増えるだけではありませんか。地上の人間に対処させるべきです」
亡者を焼き払って人間を救っても世界自体が滅んでしまっては本末転倒だ。
「人間達はよくやっていますが、8割の人口を失いました。妹も手を貸している以上、人間達だけではどうにもならないでしょう。それは貴方達も話し合ってきたのでは?」
「ええ、確かに」
生き残った人間達が手を取り合い始めたが、もう遅いと神々は諦めている者が多い。
絶望が広がり、さらにアイラクーンディアの力が増している。
「ドゥローレメはともかく何故母上たちはそうも落ち着いていらっしゃるのですか?」
慈悲深い水の女神はともかく大地母神と月の女神がこの事態で何の動きも見せない事が不思議でならなかった。
「誕生した時から世界に生命が溢れ、人間達に囲まれていたお前達にはわからないでしょう」
神々の中でも原初の神々と、概念の後に誕生した神々とでは感覚が違う。
「お前達は私達に従う必要はありません。人間でも十年もすれば巣立ちます。お前達はいったい何万年私達に導きを求めるつもりですか。下がりなさい。そして自分達のしたいようになさい」




