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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~後編~
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天界編:月の女神

 アナヴィスィーケ。

清浄なる霊魂と復活を司る月の女神である。

彼女は今や死の床に伏しており、多くの神々が見舞に来ていた。


「皆、下がって。天女たちも」


二人で話があると他の神々を退室させ、大地母神ノリッティンジェンシェーレだけを残し、彼女の報告を聞いた。


「時の神と共に議事堂がある神界も消滅しました」

「ええ、森の女神達は?」

「貴女が授けた舟で天界を離れました」


月の女神の舟は異界を自在に渡る力を持つ。

天界で会合や宴会がある時はその舟で多くの神々のもとに伝令として赴いていた天女達はそれを他の女神に与えてしまった事を残念に思っていた。


「いいのですよ。あれは遥か昔、彼女達の母アクシーニから貰ったもの。本来の持ち主に返しただけです」

「そうでしたか」

「追手は?」

「ウィッデンプーセの消滅騒ぎで誰にも気づかれなかったようです」


それを聞いてほっと安堵の溜息を漏らす。森の女神達は戦いに秀でた神ではないので天界で他の神々に絡まれては勝ち目がない。


「貴女はどうしてついていかなかったのですか?」

「さて・・・あの子はまだ人としてやり残したことがあるので地上へ向かったようですから」

「水の女神達も後押ししたみたいですね」


裾で口元を隠し、ふふと笑う。

その拍子に咳き込み、ノリッティンジェンシェーレが水差しから水を注いで手渡した。


「わたくしの死も近い。貴女も備えを」

「地上の人間は8割が死に絶えました。私が後を追う日も近いでしょう」

「いいえ、貴女の死はまだしばらく先。大神として務めを果たしなさい」

「それをいうなら、貴女にこそまだ頑張って貰わなくては」

「いいえ、御免なさい。わたくしにはもう抗う力は残っていない。そして死に抗おうとも思っていないのです」


霊界を支配し、無垢のマナを新たな生命として肉体に宿す役割を負っていた彼女だが、汚れた霊魂の蔓延によって彼女自身も汚染された。


「無理に助けようなどとしなければ」

「助ければわたくしが汚染され、助けなければもっと早くに地上が汚れ、どちらにせよ結果は同じでした」

「母よ、これから私達はどうすれば?」

「ふふ、貴女のそんな心細げな顔を見るのは何万年振りでしょう。でももう母に生き方を尋ねるような歳ではないでしょう?」

「もはや亡者の数は億に達し、地上の災厄は人間では対処不可能です。多くの神々は地上へ降り、亡者を焼き払い、地獄へ侵攻することを企図しているようです。誓約を破って」


その投票はウィッデンプーセの消滅によって延期となった。


「愚かなこと。ですが抗うのも生あるものの務め」


神々でも誓約を破れば呪いが降りかかる。


「モレスも?」

「はい」


さすがにそれは止めるべきだと月の女神は考えた。

創造と再生を司る太陽神さえ無事なら、他の神々が呪いに倒れても世界は再起できる。


「彼をここへ呼んでもらえますか?太陽神まで降りれば地上は消え去ってしまうでしょう」

「貴女を死から救う為だとしても?」

「わたくしはもう手遅れです。地上へ降りるのは彼でなくても良いでしょう。貴女に頼むのは気が引けますが」

「お気になさらず」

「天界に戻ってからまだ会っていないのでしょう」


ノリッティンジェンシェーレにとっては父たる創造主であり、同時に愛を交わした相手でもあるが、神々の争いを引き起こした責任を取らされて地獄へ落とされた。


「もうなんとも思っていません」


といいつつも憎しみの感情が垣間見える。


「彼の独断ではなかったのです。一発引っ叩くくらいで許しておあげ。他の愛人たちからも見放されて肘鉄を受けてますからね」

「道理で新たな神がいない筈です」

「では、任せましたよ」


任されたくは無かったが、光輝溢れる太陽神の世界には力の強い神でなくては入る事も出来ない。仕方なくノリッティンジェンシェーレは引き受けた。


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2022/2/1
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