番外編②:スリクとロスパー
「どうだった?」
「駄目だった」
簡潔過ぎる返事にロスパーがぽかりと殴った。
「いってえな!」
「ちゃっちゃとわかるように説明なさい」
「知った顔の獣人はいなかった」
「他には?」
「・・・・・・ダンとツィリアを殺してきた」
「生きてたの?」
「ああ。ついでにダイソンとかいう魔術師を殺した」
「なんでそんな余計なことをしたの?」
「あんまり悪趣味だったからムカついた」
スリクはレナートに貰った神器でフィンドル城を偵察してきた。
知った顔の獣人がいればなんとか話をつけてフォーン地方まで戻らせて貰おうとしたのだ。
「余計な事をして!追手が来たらどうするのよ」
「神器があればバレやしねえよ。それにしょうがなかったんだよ」
「本気で主君だとか思ってなかったくせに余計な情けかけて」
スリクは遠目にドルガスを見て、こりゃ駄目だとロスパーを連れてさっさと逃げ出した。
ほとぼりが冷めてから知った顔を探したが、そう都合よくここに来てはいなかった。
「どうするのよ、これから」
「北へ抜ければオレムイスト家とかいう連中の領土があるはずだ」
「そんなとこ行ってどうするのよ」
「そこからどうにかして北東に抜ければサウカンペリオン。獣人の同盟国があるはずだ」
「そうじゃなくて、そんなとこ行ってどうやってウカミ村に帰るのよ!」
「お前、まだ家に帰れるつもりかよ」
「村に帰ってレンに会わなきゃ駄目でしょ!」
「お前、あんなこと言っといて今更合わせる顔あるってのか?だいたいなんで正気に戻ったんだよ」
「うっさい、馬鹿スリク!」
地上に戻ってからずっと夢でもみているかのような状態だった。
夢の中だが、レナートに幼馴染に酷い事を言ったのは覚えている。
「だいたいアンタは操られてもいないくせに私のいうがままになっちゃって。だらしないわね!」
「俺はお前にもレンにも事実を話しただけだろうが!」
「フン!とにかく帰るわよ」
ロスパーは歩き出した。
「どうやってだよ!山の中は魔獣だらけだし、星もろくに見えないし、位置も変わってるって話だぞ」
「月ならさすがに見えるでしょ。ほら!」
といってロスパーが示した方角には薄い靄のような雲の向こうに月が見えた。
しかしそれはいつものように銀に輝いてはいない。
赤黒く不気味な色の月だった。




