第63話 里帰り
ソフィアはレナートと分かれて単独でシェンスクに帰還しショゴスの休戦受け入れを報告し、アルハザードらの通行許可を貰い、ウカミ村に住む事になる事を報告した。
レナートとパーシアは一度ウカミ村に帰って早速ヴォーリャに謝った。
「ごめんなさいヴォーリャさん。帰るのが遅れちゃって・・・」
「いい。お前が無事なら。大変だったな」
ドムンとスリクはもう戻ってこない。
迷惑はかけられたが、それよりもレナートの心境を慮った。
「で、なんでパーシアさんまで?」
「私、離婚してレンと暮らす事にしたの。獣人達も私にヴェーナまで来て欲しいみたいだし」
「ああ、そうか。でもいいのか?ここの暮らしは大変だぞ?」
お姫様に田舎の暮らしが耐えられるのかと訝しんだ。
「これでも修道女達のお手伝いをしていたことがあるのよ。ある程度、苦労したことはあるつもりです」
「そういやそうだったな。で、家はどうする?」
「出来れば新築したいかな。村の中かもうちょっと山の方に建てるかは後で考えるけど」
「これからは夫婦ですしね。心配しているお母様には申し訳ありませんが、レンと二人で暮らせる家がいいわ」
しばらくはヴァイスラやホルスとも共に暮らすがオルスが建てた家では手狭だし、パーシアを住まわせるにはプライベートな空間が少ないので新築することにした。
後から二十名ほど移住してくる事もマリアに伝え、木材、石材がもっと必要になるので準備しなくてはならない。
「夫婦?」「近くに住むなら別に構わないけど」
ヴォーリャもヴァイスラも目を白黒させる。
「だって十年後、まだ独身だったらお嫁さんに来てくれるって約束してたし」
「ね」
パーシアの血筋など知らないし、知っても気にしない、誰憚る事の無い土地で恋人として暮らす事が出来ると幸せそうだった。
「別にあたしらは気にしないが、ここの連中や爺さんはどう思うかなあ」
奴隷同然の男の使用人か女性しかいなかったパヴェータ族出身の二人は女性同士がパートナーになる事を気にしなかったが、ウカミ村の大部分の人間は違う。
「じゃあやっぱり山の中にしようか。カイラス山でもいいかな?」
レナートは上目がちの視線でヴォーリャに問うた。
「あたしや旦那に気兼ねする事はない。あそこもお前の家だ。静かに暮らすつもりだったがお前にも暮らす権利はある。チビどもも懐いちまったし」
ヴォーリャがテネスの所に帰るというとついていきたがる子もいた。
「じゃあ、アルハザードさん達が到着したら相談して決める」
「誰だって?」
レナートは移住者が増える事を伝え、マリアにも事後承諾だが報告した。
「王からはこれ以上移住者を増やすなと警告されています。我々はこれ以上いがみ合う事を止めると手打ちをしたところなので了解を取り付けて下さい。君が言えば彼も承諾するしかないでしょう」
「一応ソフィアさんが連絡しに行ってます」
国境になっている大橋で足止めを食らう事になるのでソフィアが通行許可を貰ってくるついでにその件の了解も取り付ける予定だ。
「なら構いませんが、我々はニキアスでなくても警戒される戦力を持つことになります」
元遊牧民の連帯、アルハザード、サイネリア、マリアの三人の魔導騎士に皇家の姫まで加わり軍事力、政治力ともにそこらの領主よりも強大な力を持つ。
「大丈夫、もうそれどころじゃなくなってるから」
「確かに」
ダカリスを除いて戦争は終わり、平和となる筈だが激変した社会の安定がいつまで続くかわからない。不妊の病がどこまで広がっているのか情報共有も行われ、認識した時、不安に駆られた人々がどう動くか。
「とりあえず豊穣の女神様達に子供に恵まれるよう祈ってみましょう」
「そうですね、パーシア様」
「あら、レン。もうパーシアって呼んでっていったでしょう?」
「あ、そうでした」
マリアと別れ、レナートとパーシアは腕を組んで次の目的地に向かう。
◇◆◇
「よう、帰ったか。真っ先に俺の所に来るかと思ったが」
レナートは最後にエンリルの家にやってきた。
「ごめんね、ボクが逃げた後、エンリルが足止めしててくれたんだって?」
ヴェニメロメス城でレナートがスリクを連れて天馬に乗り、嫌がる天馬に強引にいうことを聞かせている間、弓兵の射程距離内で危ない所だった。エンリルがニキアスの部下達を止めてくれていたおかげで逃亡に成功することが出来たのだった。
「まあ、いいさ。あんなとこで死なせるには勿体ないからな」
エンリルは家の外のベンチにどっかりと座り、レナートの太ももに手を回してひょいと持ち上げて自分の膝の上に乗せた。
「あら、大胆」
獣人と実際に親しい所を見せられたパーシアが目を白黒させた。
「こっちの姫さんは?」
「ほんもののお姫様だよ。パーシア、ボクのこ、恋人だから食べたりしちゃ駄目だからね」
「ほー」
じゃあ、お前も来いと言ってパーシアも招き寄せ、匂いを覚える為にくんくんと嗅いだ。
「俺を間近に見てもビビらないんだな」
「パーシアは昔、闘技場で傷ついた獣人さんの手当をしてたんだ」
「へえ、物好きな」
「そうね。結局すぐ傷つくことになるし手当をすることがいい事なのかずっと悩んでたわ」
馬鹿げた血の饗宴に手を貸しているのではないかと修道女達の悩みは尽きなかったが、それでも苦しみを和らげる為に治療することを選んだ。
「こっちは変わりない?」
「あー、なんか港が駄目になったとか、なんとか聞いたな。詳しい事はマヤに聞け」
「そうする」
孤児達についてはウカミ村のご婦人達も面倒を見てくれていたし、ファノやラスピーも大きくなってきたので任せてレナートも翌日すぐにマヤの所へ向かった。
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