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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~後編~
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第60話 裁き

 レナートは被害者として法廷に召喚された。

エニプスの街で捕えられた野盗達の多くはまとめて強制労働処分を言い渡されていたが、アルハザードや幹部らは一人一人法廷で重い罪に問われている。


法廷には王であるショゴスや貴族院の議員達も傍聴席にいる。

他の国では王が最高裁判官でもあったが、この国では王でも司法判断に異議申し立ては出来ても結果を曲げる事は出来ない。


三権分立という概念は無かったが、神々に倣って司法の独立を尊重している。

法の神エミスと契約の神アウラなどへの誓いは太陽神モレスであろうと違約は許されない。


判事は貴族だけでなく狭き門だが平民もその地位につくことができ、王や議会の決定にも異を唱える事が出来る。最高の名誉で市民にも尊敬され、多くの若者がその道を目指して来た。


被告だけでなく証人も法廷でアウラとエミスに誓って、虚偽を述べない事を誓わされレナートが席に着く。


「君の名前はレナート・ペレスヴェータくんで間違いないかね」

「はい」

「出身はフォーン地方フィメロス伯領ウカミ村、母方の家系は最後の北方候と同族だとか。それも間違いない?」

「はい」

「君は我が国の人間ではないが、祖先と王妃パーシア様のご友人であることを鑑みて貴族に準じた扱いであるべきと当法廷は定義しました」

「ご自由にどうぞ」


貴族であろうと平民であろうと公正に裁くことを判事達は宣誓している。

ただ法律自体は貴族と平民では量刑も異なる。

外国貴族が被害にあった時と同様の基準で処分は下されると決まった。


「個人的で具体的な被害については話す必要はありません」


判事は10代の女性には酷だろうと具体的な性被害については話さなくてもいいと伝えたが、レナートは不要だと断った。


この裁判では暴力と性被害にあった女性達が多く証人として出席していたが、被害者は傍聴席から姿を確認出来ないように入室前から黒い布を被せられ、証言台も囲いに覆われていた。レナートは不要だと断って外して貰っている。


「お気遣いなく、彼に何をされてもそれは勝者の権利ですから」

「そんな権利はありません」

「この国ではそうなんですね」

「我が国の法を尊重すると誓約して頂けますか?」

「もちろんそうします」

「よろしい」


異文化を持った外国人であることを考慮して判事は神に誓った虚偽答弁をしないことだけでなく、自国の法に従う事もレナートに求めた。


「君はエニプスの街で野盗の一味に遭遇し、暴行を受け、鎖に繋がれて、・・・一晩連れ回された。間違いありませんか?」

「はい」


毅然として答えるレナートに傍聴席で動揺の声が広がった。

これまでの被害者の証人は皆、姿を隠されていたので初めて年頃の若い娘が酷い被害にあっていた現状を知る事が出来た。それも外国の高位の貴族にあたる女性が。


「静粛に」


判事長が木槌を打ち鳴らし、黙らせた。


「後ろの席に座っている容疑者の中に君を暴行した野盗はいますか?いれば指を差して特定してください」


これまでの被害者はプライバシー保護の為に姿を隠していた事もあったが、トラウマから容疑者と顔を会わせるのを拒否した為、犯罪者の特定が出来なかった。

犯罪者であるらしいことが分かっていても罪に相応しい罰を与えなければならない。だが、検事が求める罰に値する証拠が得られなかった。


容疑者達は鎖に繋がれ、首からは名前を書いた看板をぶら下げている。


「ボクを殴ったのはあの男、アルハザードです。他の男達には何もされていません」


一般市民達は野盗なんかまとめて縛り首にしてしまえばいいのに、と考えているが裁判所としてはそんな乱暴な事は出来ない。他の幹部らが貴族に対して犯罪を犯していないのならそれは裁けない。

別件でその罪に相応しい罰を与える事になる。


「分かりました。証言に感謝します。どうぞ退席してください」


ようやくまともな証言が得られたので判事は心から感謝して退席を促した。


「いえ、待ってください」

「まだ何か?」

「検事さん達がアルハザードや他の野盗について出した告訴内容に異議があります」

「なんでしょう。実はその・・・もっと酷い被害を受けたと?」


先ほどの証言で死刑に出来るのでそれ以上は必要無いと思ったが、判事は一応訊ねた。


「違います。彼らに罪はありません。少なくともあの街の出来事については」

「どういうことです?君の母方の故郷の風習については詳しくありませんが、君はフォーン地方で生まれ育ったと調書にあります。我々とそれほど違いはないでしょう」

「はい。だからこそ間違っていると思います。あの街は陛下に逆らった領主の街で法の保護下から外されていた筈です。犯罪は成立していません」

「しかし、彼らの部下から強姦、殺人の常習犯だったという自白を得ています。凶器の押収もあり疑いは確かなものです」

「それは本当にこの国の領土内の犯罪ですか?証明は」


全てエニプスのような街での行為であって全て無罪なのではないかと問い質した。


「証言者にそのような意見は求めていません」

「それならアルハザードからこの国での被害は受けていないと証言します」

「外国貴族だろうと王妃の友人であろうと当法廷で誓約をたがえ、偽証するのであれば偽証罪に問いますよ」


判事は警告する。


「ボクの発言は何も変わっていません。あなた方が厳格に自分達で定めた法律を運用するのか。状況次第で都合に応じて解釈を変えるのか。それだけです」


レナートとしてはこの法廷が開かれる前に議員達から働きかけて貰い告訴を取りやめにして貰いたかったのだが、それは叶わなかった。

法廷を侮辱せずにどうにか事を収めたい。


「判事の皆さん、法務官の皆さんに問いたいんです。彼らは確かに目を背けたくなるような事をしていましたが、それはこの国の法の保護下に無い土地でのこと。王に逆らい捨てられた土地でのこと。仕方なく加わった者もいるでしょうし、もとから悪人だった者もいるでしょう。でも今問題なのはそこじゃない。あなた方は犯罪など成立していない事を知っていて、何故裁こうとするのかってことです。持ち込まれた仕事だから?事務的に?」


王や貴族達に忖度して?とまで言いそうになったが、それは慎んだ。


「アウラとエミス。そして良心に誓った筈です。間違いだと分かっていて裁くべきじゃない。皆さんのお仕事に名誉はあっても地位は無く、給与も低い。それでも何故この道に入ったのか。人類五千年の歴史が培ってきたあらゆる法分野に精通するほど青春を捧げて狭き門を潜り抜けてきたのは何の為なのか。あなた方なら他の道を進んでも大成して、裕福で安楽な生活を送れた筈です」


レナートはパーシアに相談して自分の言いたい事をどう表現したらいいのか添削して貰った。告訴を取り下げさせる事は出来なかったが議員達からも助言を貰っている。


「ボクが受けた被害は戦場でのこと。外国の、この国の法の及ばない所でのことです」


戦場で敵兵に殺人行為を行っても罪には問われない。非戦闘員への暴行も帝国の定めた国際法のルールに準じて裁かれる。


「アルハザードの始末は自分につけさせて欲しい。司法の独立を尊重し守ろうとするあまりに今回の件は皆さんも陛下もお互い忖度しあっているように思えます」


ここで傍聴席からまばらな拍手が聞こえた。

国王と議員達から始まり全体に広がった。

判事は再び「静粛に!」と木槌を打ち鳴らす。


「陛下といえど、法廷に圧力をかけることは許されません」


判事は今の拍手を圧力だと牽制した。傍聴人はただちに拍手を止めて顔を見合わせた。


「傍聴人には発言権も無く、判断に影響を与える事は許されません」


ショゴスは頷いた。


「ですので、後ほど陛下と議会に質問状を送らせて頂きます。帝国が滅んでも万国法は有効であり、人類が守るべき最低限の倫理と心得ますが我が国は諸外国と調印、もしくは何らかの宣言をしていたでしょうか」


ショゴスは周囲の議員達に直ちに議会を招集すると命じた。


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2022/2/1
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