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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~後編~
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第55話 フロリア派遣軍の戦い

 派遣軍総司令官グラントムのもとへはショゴスからの後退命令が来る前に別の伝令が来ていた。


「バントシェンナ軍に動きありだと?」

「はい、閣下。敵軍は約三万。報告によれば敵軍は半獣人を主力とし難民には構わず、突き破ってこちらに向かっております」


総司令部には精鋭の魔導騎士が待機しているが、兵力は一万もない。

獣人が侵入して何年も経ち繁殖した獣人、半獣人達が戦線に出てくる事を彼らは恐れていたのだが、遂にその時が来た。


「多いな。クロタールの五万では抑えこめまい」


獣人を抑え込むには三倍の軍が欲しい。要塞戦、地形を利用した十分に守られた陣地ならともかく広大な土地での会戦は密集隊形の帝国軍団では勝つのは難しい。


「はい、閣下。騎兵による小競り合いならともかく、参謀部は現在の戦力での会戦を避けるべきだと判断しています。ツェリン殿に至急こちらに集結するよう指示を出さなければ」

「うむ、念のため仮設橋の破壊に送った部隊も呼び戻せ」


ダカリス地方とフォーン地方の間には魔術で設置された臨時の橋もあり、ダカリス地方へ渡った獣人の退路を断つ為に、その破壊部隊を臨時編成して送っていた。


「全軍に集結をお命じになられるので?」

「傭兵も合わせれば二十万。ツィリアめに獣人撃退の戦功を欲しいままにはさせたくない。我々がこの中心領域を保持している限り、交易ではこちらの望むままだ。敗残兵などこの際どうでもいい。完全に撃破して我々がこの地を完全に征圧するのだ」


 ◇◆◇


 グラントムは決戦を行うべく集結命令を出したのだが、状況はすぐに変化した。


「敵の目的は我々の撃退ではないだと?」

「はい、閣下。クロタール殿に指揮を任せた傭兵団が受け持つ戦線で複数に穴が開き、敵部隊が進軍中。また工作員の報告によればガル判事領からはバントシェンナ王自ら率いる部隊が北西方向へ出撃したとのこと」

「『男爵』だ。間違えるな。で、目的地はどこだ」


参謀達は地図を示し、遅れて報告がきた戦線の穴、そしてガル判事領から北西へ伸びる街道を結んだ先にある目的地を割り出した。


「テソ大橋?まさか、あそこは要塞だぞ」


大地峡帯にかけられた橋はそう多くない。

大人数による魔術で橋を架けるのはそう難しくはないが、霊脈の変化でマナ濃度が変わり修正が頻繁に必要になる。交易には安定した街道を必要とする為、魔術ではなく人力で橋を架け、その両端には軍事基地を必要とした。


「しかし兵力はそう多くありません」


大軍が橋を渡ってこちら側に来ており、安全が確保されている為、守備兵力を減らしてグラントムの旗下部隊に組み込んでいた。


「仮に占拠がなった所で袋の鼠だろう。撤退を援護する為の牽制ではないのか?参謀部はどう考えている?」

「閣下のご判断の通り牽制の可能性が高いと思われます。ナグレブが敗退してから大規模な作戦行動を取るのは筋が通りません。ですが、実際に占拠されると兵士達への心理的影響は大きいかと思われます」


難民を非道に追いやる強引な作戦を成功させる為に傭兵を多用した。

その所業を見た兵士達の士気は低下し、自分達の正当性を疑い始めている。ここでさらに退路が断たれるとなると優勢な兵力があっても兵士達は動揺する。


「十分に戦果は得ました。後退して守りを固めてもよろしいのでは?」

「総意か?」

「いえ、敵の持つ兵糧を考慮するとやはり長期の占領は不可能ですから危険な真似はせず途中で進軍を止めるという意見もあります」

「だろうな」


参謀長はグラントムと意見を同じくする部下の存在も伝えた。


「二名ほどは敵が足を止めた所でこちらも集結させた兵力を対峙させるべきだと。そしてダカリス女王にも増援を依頼し退路を断ち敵の兵力を完全に消し去る事を提案しました」


グラントムが名を聞いてみるとツェリンと親しい参謀だった。


「冒険家の奴らしい」

「どうなさいますか」

「クロタールの傭兵団にはガル判事領を攻撃させろ。敵の進撃を遅らせ、分散させ、時間を稼ぎ敵の真意を図る」

「全滅することになるかと」

「構わん。どうせ儂が金を出したのだ」


グラントムは堅実で優れた指揮官だという評判があったが、それに加えて資産家で多くの傭兵にコネを持っていた。それをもってフィネガン公に総司令官として抜擢された。


「ツェリン殿に出した集結命令はいかがいたしましょうか」

「朝令暮改は総司令部の鼎の軽重を問われる。そのままでよい。ただし、第二種強行軍で一週間以内に到着せよと伝えよ」

「はっ」


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2022/2/1
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