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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~後編~
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第49話 天の救い

「盗賊達に告げる。武器を捨て降伏し捕虜を引き渡しなさい」


アルハザードらは突然包囲されていた。

気が付いたら見張りは死ぬか捕えられており、慌てて武器を構えてテントから出ると騎兵に包囲され、上空には降伏勧告をしてきた天馬の騎手がいる。


「天馬だと!?」


アルハザードも遠くを飛行しているのを一度見た事があるだけで非常に珍しい生物だった。

野盗達は「兄貴!どうしたら」と助けを求めた。


「こりゃ、無理だな・・・」


天馬を皇帝から与えられた者は十数人いるが皆、高名な騎士達ばかり。

騎士でなければ皇帝の勅使となる天馬寮監の一族だ。

騎兵の後ろには砂塵が上がっておりさらなる大軍が予想される。

天馬に上空から捕捉されていては逃げる事も不可能だ。


”だから手放せと言ったろう”


近くの木に鷹が止まってアルハザードに語りかけてきた。物音もせずに見張りが倒されていたのはこの異様な鳥の魔術によるものだろう。


「あんときの烏かよ。ちっ、お姫様を連れてこい」


テントの中で息を潜めていた女達にレナートを連れてこさせた。


「ソフィアさん!助けに来てくれたんだ」

「レンちゃん!無事でよかった。それにしても・・・このゲスが!」


ほとんど裸になっていたレナートの様子を見て、ソフィアはこめかみに青筋を立てて罵倒する。

アルハザードとしてはこんな怒りをぶつけられるのは日常茶飯事なので、意にも介さない。


”人質にして逃げ切れると思うな”


「思わねーよ。ま、悪くない人生だったさ」


包囲の輪を狭める騎兵たちにアルハザードは魔剣を抜いて相対する。

力尽きるまで雑兵を何人殺せるか、一度試してみたいと思っていた。

相手に魔導騎士がいるのならそれもいい。


 ◇◆◇


 あっさり討ち死にをすることに決めたアルハザードを見てレナートは止めに入った。


「待って、待って!別に殺し合わなくてもいいじゃない」

「レンちゃん、どうして止めるの?まさかこんな男に情でも湧いたの?」


昨日の街で見た暴行と救出した女性達の話からソフィアは憤慨していた。


「違うって。そういうのじゃなくてここで殺し合いなんか始めたらみんな巻き込まれちゃうよ」


レナートを連れ出した女性達、他の女性達も怯えている。

大量の騎兵が突撃してきたら殺そうとしなくても踏みつぶされかねない。


「アルハザードさんも武器を収めて。ボクが弁護するから」

「はあ?縛られて惨めに吊るし首にされるくらいなら俺はここで戦って死ぬ」


法廷が開かれる筈もないし、仮にあってもまともに裁かれる筈がない。

結論は決まっている。


「そうよ、レンちゃん」

「違うってソフィアさん。連れてきた人達が何処の誰だか知らないけどみんな勘違いしてるんだよ。死刑にするほどの罪は犯してないから」

「はぁ?」


ソフィアもアルハザードも皆、顔に疑問符を浮かべる。

アルハザードと一緒に戦って死ぬと覚悟を決めた野盗達もだ。


「だってそうでしょ。この地域の人たちは帝国でいう追放刑処分を受けたんでしょ?やってきた事は残酷だけど法じゃ裁けない筈だよ」


理屈ではそうなる。


「でもレンちゃんは違うでしょ」

「ボクはなんともないよ。この人は自棄になってボクを殺そうと思えば出来たのに人質にしようともしなかったし、意外と誇り高い人みたい」


あっさり戦って死ぬことを選ぶ潔さにレナートもちょっと感心していた。

この男の腕なら包囲されていてもあてつけに自分を殺すくらいわけないと思っている。

しかし、しなかった。


「なんだ、お前。俺に叩きのめされて惚れたのか?」


アルハザードはにやついて彼女の裸の細腰を抱き寄せた。

何が何だかわからないが、北方候の娘に惚れられて戦死するのも男として本懐だ。


「調子に乗るな!」


エゼキエル鋼の重たい手錠をレナートは真上に思い切り振った所、アルハザードの顎に当たり、その一撃で気絶させてしまった。


「あら?」


 ◇◆◇


 アルハザードが昏倒してしまったので残った野盗らもあっさり降伏した。

女性達は解放されたがどうしたらいいのかわからず軍隊がひとまず安全を保証して確保した。

それからレナートはソフィアにどういうことかと問う。


「アルコフリバス老師が天馬を連れてきてくれたの。私達の所に向かう途中に雲の中で見つけたんですって」


そしてもともとあの街を征圧しようとしていた軍隊を連れて追跡させた。


「凄いですね・・・どうやったんですか?」


”あまりやりたくは無かったが指揮官の精神に少しばかり干渉した”


正確には部隊に従軍していた魔術師の手を借りたのだが、アルコフリバスは説明を省略した。


「そうでしたか、どうもありがとうございました」


もう一生囚われて慰みものにされるのかと絶望していたレナートはアルコフリバスに心からの感謝を述べた。


「信用しちゃ駄目よ。レンちゃん。この人、私にレンちゃんを殺せなんて言ってたんですから。これはその罪滅ぼしなのよ」


”違う”


「違うと思うよ」


レナートとアルコフリバスの言葉が重なる。


「こんな人のこと庇うの?簡単に信用しちゃ駄目よ」


付き合いも浅いし、いくら伝説的な魔術師とはいえ人格面では信用出来ない。


「間違った事は言ってないと思うよ。ボクがあのまま暴走してたら世界中の気候を変えちゃってたかもしれないし。殺してくれて良かったんだけど、優しいソフィアさんにそんな事出来るわけないから発破かけただけだと思う」

「本気で説得させる為にあえて厳しい事を言っただけだっていうの?」

「そう。だよね?」


”うむ”


鷹は器用に頷いた。


「ほらね。本気だったら今だって助けになんか来てくれなかったよ」


レナートは久しぶりに笑顔になり、ソフィアもそれに和んで追及は止めた。


「レンちゃんは甘すぎるわ」


”ほんとにな。甘くて優しい夢を見たがる子供のようだ”


鷹から苦笑している雰囲気が伝わってくる。


 ◇◆◇


 予定は狂ったが、救出してくれた軍隊はこれから街を征圧しに行くという。

レナート達は使命があるので天馬でショゴスの元へ急ぐことにした。


「お爺ちゃん。アルハザードさん達が私刑にあわないように連行するよう説得出来る?」


”やってみよう”


アルコフリバスのおかげで王都まで連行し王の裁きを受けさせる事が決まるとレナートは胸を撫でおろした。さすがにあんな経緯のまま武人が処刑されては哀れに思えた。


「レンちゃん。まさかほんとに一晩の間にあの男に惚れちゃったの?」

「違うって、そんなんじゃないから」


ソフィアは気にはなったが、「実は・・・」と言われるのも恐ろしく、それ以上追及するのを止めた。

学友のペレスヴェータを思い出すまでもなく、これまで見聞きした話だけでも割とこの子も男癖が悪いように思えた。


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2022/2/1
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