第25話 フォーンコルヌ四大貴族会議②
「では、続けよう」
ベラトールは召使に水を注がせた後、全員出ていかせた。
広間に残ったのは総督だけ。
盗聴を防ぐ魔術具を作動させると会議を再開した。
「昨年発生したと伝えられる帝都の亡者騒動の件だ。あれは皇帝陛下が魔術師達に死霊魔術の再興を命じた結果らしい。有力議員達も承知しているとのことだ」
「本当か?そんなことが広まれば皇帝の威光が汚れ、地に落ちることになるぞ」
「早まるな。魔術師達が実験に失敗し、その痕跡を隠したから証拠がないとアルシオン殿から通達があった。しかしながら、陛下の判断に閣僚たちも同意しているとのことだ」
「一体どうしてだ?禁呪に指定されたのでは無かったのか?」
この中で帝都に最も近い領地を抱えているのは東部総督クールアッハ大公爵であり、他の総督たちの中で特に警戒を露わにしていた。
「世界中を駆け回っている帝国騎士や調査団の報告によると各地で亡者が発見される頻度が上昇しているらしい。自然発生的なものか、従属国の何処かが実験しているのかは不明だ。しかし亡者の軍団が組織され帝国に向かって進軍してくると厄介な事になる。実験の失敗はあったとしても防衛政策上、死霊魔術の研究はやらざるをえない」
「侵略目的ではなく、防衛時に逆に支配し、制御する為に、と?」
「一応議会の軍事委員会からは蛮族戦線に投入する為、ということで話は通っているそうだ」
「しかし、それで自国で被害を出しては本末転倒ではないか」
「ごもっともな話だ。故に完全に隔離された環境で実験を行う必要がある」
続ける気なのか、と他の総督たちからも疑問の声があがる。
「危険過ぎる上に人体実験を伴う。これは違法行為だろう。世間一般的に受け入れられるとは思えない」
「確かに生者を死者に変え、操るのはそうだ。人為的に亡者を作る過程には拷問を伴うそうで反発が大きくなる。アルシオン殿も法務大臣となり真っ先に凌遅刑の類は完全に失くすと宣言しておられる。これはエイラシルヴァ天のご意思でもあった」
「天爵閣下の?神喰らいの獣を封印し、姿を消した筈では?」
「封印前にアルシオン殿に依頼されていたそうだ。残酷な刑罰と遺体の放置は亡者発生の原因ともなりうる、と」
「しかし天爵殿の御意思に逆らい人体実験は続けるのか」
「生きた人間では実施しない。死んだ直後の人間を使う、遺族がいなかったり引き取り手がいない犯罪者なら探せばいくらか見つかるだろう。それならば違法行為とまでは言えない」
総督たちはベラトールの話の目的が分かってきた。
「我々にもそういった死体を供出しろ、ということか」
「そうだ、といいたいところだが現実的には難しい。可能ならば提供して貰いたいが夏にはすぐ腐敗してしまうだろう。魔術で冷蔵して運搬する事は可能だろうが関わる人間が増え、世間に露見する可能性も大きくなる。諸君に協力して貰いたいのは優れた魔術師を派遣してもらう事だ。他の皇家も我々同様に研究を始めるだろうが、この魔術の危険性を考えると一ヵ所で集中的にお互い監視しあいながら研究を進めるべきだと思う。もしお三方がそれぞれ勝手に研究するようであれば判明次第、残り二家と皇家が同盟を結び制圧することも考えている。それくらいのつもりで話を聞いて欲しい」
「ふむ。で、死体はどうする?」
「このフラリンガムであれば定期的に一定数身寄りのいない死者は出る。それを使う。そして新王陛下の即位に伴い大規模な闘技大会を開催し、犯罪者に希望するなら出場し勝利すれば罪の軽減を行うものとする。新王即位に伴う恩赦の一環としてな」
ベラトールの物言いにクールアッハ公は渋面で吐き捨てるように呟いた。
「合法的に殺し合わせ、死体を得るとは悪趣味な」
「そうか?実に合理的じゃないか。そういうことなら我が領地からも出場者を出そう」
「よろしく頼むダークアリス公」
こうしてフラリンガムでは故意に死体を量産する為、人間対人間の闘技大会が開催されることになった。
貴族達の権力闘争の実験材料となることを知らず、新王即位が公表され民衆はお祭り気分で皇都へと集まり始めるのだった。




