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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~後編~
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第29話 逃避行と竜退治②

「いやー、ちょうど困っていた所なんだ。竜を倒せるという人間が現れてくれて良かったよ」


ダンは朗らかに笑いながらスリクとレナート、ソフィアらを城の地下へと案内する。


「本当に竜がいるんですか?」

「うむ。我が家はそれを秘匿してきたが、今さら隠す必要もあるまい。君らこそ竜退治が出来るなんて本当かい?」

「俺達が持っていた神器とか竜殺しの槍を求めてバントシェンナ王は下らない陰謀をしかけてきやがったんだ・・・です」

「ははあ・・・なるほどなるほど」


ダンは訳知り顔に頷いた。


「分かるんですか?」

「父らは皇王から何か聞いていたようだ。君らの父祖がフォーン地方東部でクールアッハ公に服従せず土地を明け渡そうとしなかった理由を。アリアケス塩湖やシャモア河周辺の利権の為では無かったか」


不意に代替わりする事になった為、ダンにも知識の継承が行われていなかったが、スリクの情報でだいたいの推測がついた。


「サガとかいう人に譲られた神器は世界各地から奪ったものなので獣人はバントシェンナ王に各国への返却を命じました」

「いいね。我々もやりやすくなる。他になにか情報はあるかな?」

「えっとボクらが隠れ住んでいた所に神器やスリクの槍もあったんですが、そこに地竜エラムもいて目覚めた所を封印済みです」


レナートの報告にダンはにっこりと頷いた。


「君はほんとうにいい子だねえ。何の交換条件もなく情報を渡してくるなんて」

「?」

「休戦を成立させたいならバントシェンナ男爵の戦力が弱体化している情報を私に伝えたら不利になると思わなかったのかい?」

「実の所、ツィリアさんと交渉が成立するって誰も思ってなかったんです」


帝国軍を裏切ってオレムイスト家の本国を攻めたし、家臣の多くを粛清したし、猜疑心が強く会話が成立すると思われていなかった。しかけたニキアスもまさか重臣を集めて問答無用で軒並み首を刎ねるとは思わなかったので唖然としたものだ。


自らの手足を引きちぎるに等しい事を彼らはやった。


「なるほど。まあ、我々からすればオレムイスト家は国軍を自家の為に流用し、本来友人であるフランデアン王を攻めた。フリギア家を帝都から追い払うために東ナルガ防衛軍に回すべき東方軍を引き上げてアル・アシオン辺境伯領の防衛体制に穴をあけた。バンスタインの戯けが大軍で北へ東へ南へと右往左往していたおかげで全戦線に綻びが出た。あの無能こそ帝国崩壊の原因であって我々に責任を転嫁するのはおかしい」

「はあ、そうなんですか」

「東方の国が先に反乱を起こしたんじゃなかったんですか?」


結果は知っているものの少し情報と食い違う所があり、レナートとスリクは問いかけた。


「フランデアン王は帝国に対して軍を起こすと東方諸国会議で宣言したが、先に攻めたのはオレムイスト家だ」


交渉の余地はあったのに、戦果をあげて選帝選挙で有利に立ちたいバンスタインが暴走したのだ、とダンは言う。


「おまけに戦争中だから無理だとこちらへの債務返済を拒否していたおかげで我々も困窮し、生きる為に連中の本国を攻めた。君らに言ってもどうにもならんがね。これから各地に使者として赴くのならその辺りを弁えておいて貰いたい」


ダカリス領は資源が豊富で昔から鉄器、兵器の生産、資源輸出で潤ってきた。

食料についてはコルヌ、フロリア地方からの輸入に頼る事も多く支払いが滞ると領民が飢える。


「お話はわかりました。機会がありましたら皆様方にもそう申し上げましょう」

「よろしく頼むよ、ソフィア殿」


政治的な事をレナートに理解して貰おうとしても無理だろうとソフィアがダンとの応対を代わった。


「君らは休戦を、と言うが現に我が領土を荒らし始めた獣人がいるだろう?少しは意見を調整してから来てもらいたいものだね」

「休戦に応じる気がおありでしたら、マヤ殿に人虎族の集団を止めて頂きます」

「自主的に引き上げてからなら話に応じてもいいが、我々が追い払った後だとそちらの条件は不味くなると思ってくれたまえ」

「上空から見る限り阻む者はいないようでしたが・・・粛清しすぎたのでは?」

「この城で迎え撃つさ」

「領民はどうなさるのです?」


ダンは答えず肩をすくめた。


 ◇◆◇


 話している間もずっと地下への階段を下り続けた。

普段は明かりを灯していない領域なので、警備の兵士達の松明が頼りだ。

一応何ヵ所か地面や壁に目印代わりの太陽石の欠片が埋め込まれている。松明の光を反射してきらきらと光っていた。


「カイラス山みたいだ」


滑車やトロッコなど鉱山として利用された様子が伺える。


「あ、もしかして」


スリクが思い当たる。


「うむ。気づいたようだな。我々の財はこの地下に眠る黄金竜エクニアから取ったもの。奴の体は希少鉱物だらけでな。この周辺の地下資源が豊富なのも奴のおかげかもしれない」

「名前の通り金でも産んでくれれば良かったのに」

「ははは、その通り」

「でも倒しちゃっていいんですか?財を生んでくれるなら不味いんじゃないんですか?」

「ここ数十年の地震活動で城が崩れ、地下にこんな場所があると分かった。ずっと石化というか鉱山の一部のような状態だったのだが、昨年の天災から呼吸をするようになった。目覚めが近いと思われる。君らが封じられるというなら試して貰いたい」

「上手くいったら俺を仕官させて貰えますか?」

「礼儀作法を身につけて貰わなければならないが、竜狩人として迎えようではないか」


よっしゃ、とスリクは気合を入れた。

そんなスリクにレナートは否定的だった。


「スリク、ボクはみんなに戦いを止めてもらいたいんだよ」

「好きにしろよ。俺も好きにする。俺は復讐を諦めない」

「亡者はどうするの?」

「それは・・・、ダンさん何か案があるんですよね?」


先日初めて亡者の大群を見た事を思い出し、スリクは上目がちに問う。


「父らは摂政ベラトールらと亡者の研究をしていたようでな。宮廷魔術師達から寄生虫の事も聞いている。根本的な対策は難しいが我が領地を守るだけなら問題はない」


ダンの自信ありげな態度にソフィアも根拠を問う。


「閣下の知識を全人類に共有して頂けませんか」

「我々は慢性的な食糧不足に苦しんでいる。ショゴスの奴が食料を寄こせば協力してやってもいい」

「あぁ、それで・・・」


領民が獣人に襲われていても見殺しにする気なのだ、とソフィアは感づいた。


「ニキアスに妨害されず、食料を運び入れるには亡者から枯れ谷城を奪還する必要がある。奴に会ったら伝えておいてくれたまえ」

「承知致しました」


ツィリアは被害妄想が酷く女王としては最も相応しくない人物という噂だったが、彼女を支えている兄は冷静に事態を見ている。外から見ると狂ったような行動を取っていたが、理由と勝算があっての行動だとソフィアは納得した。

交渉不可能な狂人国家という周囲の思い込みは修正する必要がある。


ダンとツィリアは獣人だけではなく亡者を撃退する手段も確保しており、今は手の内を明かす気はないようだ。


 ◇◆◇


 地下最深部は溶岩地帯だった。

黄金竜エクニアは半ば鉱山と一体化しているが顔や胸が露出して息をしているのがわかる。


「あの顔の辺りは特に希少なエゼキエル鋼の材料が取れてね。首の辺りにある宝珠は天然魔石だ。あれは壊さないようにして貰いたい」

「やってみます」

「奴の吐息を浴びると鉱物になるから気を付けたまえ、そらあれを見るといい」


エクニアの向いている方角の先、溶岩の河を越えた対岸には黄金の門があった。


「あれも地獄門・・・?」

「君らの伝承を聞く限りそのようだな」

「じゃあ、やるか」


スリクが槍を投擲する準備を始めた。


「スリク、本当にやるの?寿命を縮めるって聞いたけど」

「二回使わなければ大丈夫だ」

「エクニアの体は見ての通り鉱山と一体化している。外す事は無いだろう」

「それなら楽勝ですよ」


地竜エラムは完全に目覚めてしまっていたが、エクニアはまだ動けない状態なので外しようがない。レナートはスリクの決意を翻せる言葉を見つけられなかった。


 ◇◆◇


「その槍は誰でも使えるのかね?」

「駄目みたいですね。うちの・・・神兵の家系だけみたいです」

「ふむ、ではうまくいけばどんな娘でも与えてやろう。ああ、うちの妹以外だが」


もし本当にエクニアを封じる事が出来るのであればスリクにさっさと子を残してもらう為、ダンは貴族の子女でも与えるつもりだった。神兵の家系というのが何なのかは分からないが竜狩人で神兵だという肩書を与えればあてがわれる女達も嫌がるまい。


「え?あ、ああそれは有り難いですが・・・」


スリクはちらりとレナートを見る。


「ここの家来になるならスリクは好きにすればいいじゃん。ボクだってもうドムンを殺したスリクなんか御免だし」

「なんだ、君らは男同士で出来ているのか?」


ドゥローレメの真っ黒なマントに覆われていると体型がわかりづらいので今日のレナートはどちらだか不明なままだった。仕草、歩き方などは男っぽい所がある。

ダンは昔、男だと聞いていたし、他の女性陣に求婚して回っていたレナートを普通に男性だと思うしかない。


「同性愛者でも子を作れれば構わん」

「いや、俺は普通に女好きですよ」

「ならよし。最近なかなか子供が出来ないという噂があるようだから、相性のいい女が見つかるまで何十人でも試すといい。レナート君も妹に求婚したくなったらまた来たまえ」

「ボクならいいんですか?お断りですけど」

「北方候の家系であれば釣り合いもとれよう・・・って意外と失礼だな」


可愛い物好きのレナートはあのぎょろっとした目が苦手だった。


 ◇◆◇


さて、雑談も終わり。準備運動を済ませたスリクは改めて己の魂を槍に吸わせた。


「スリク、ドムンを殺したことは許せないけど命を粗末にしないで」

「ああ、ごめんな。レン。でも、お前は亡者も蛮族もいない世界で幸せに生きてくれ」


スリクは槍に魂を吸わせ、全力でエクニアの額に槍を投擲した。


しばしお休みします

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2022/2/1
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