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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~前編~
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第24話 フォーンコルヌ四大貴族会議

 フォーンコルヌ皇国は約500州からなる帝国本土のうち75州を占める広大な国家である。

古くは大陸中央の高原地帯を領して東西交易で発展していたが、海洋交易が発展するにつれてその地位は下がっていった。


帝国を構成する30ほどの皇国のうち最大の国家ではあるが、あまりにも広大な為各地の総督に統治を委ねており、滅多にその総督達が集う事は無い。

北部の山岳地帯をダークアリス家が、東部の平原、荒野をクールアッハ家が、南部の肥沃な大地をルシフージュ家が、西部をフォーンコルヌ皇家本家が支配している。

人口は約三千万、大都市の多くは西部に集中している。


 その西部を支配している皇家の摂政ベラトールが各総督を招集し、会議を開いていた。


「さて、諸君。事前に知らせていた通り昨年、先王陛下が病没された」

「昨年?昨年とは聞いていないが」


でっぷりと太った南部総督が荒い息と共に不満を呟いた。


「ルシフージュ公、帝都の混乱の詳細が判明するまで伏せる、と私が判断しアルシオン殿に許可を貰った。アルシオン殿が三か月後には新王として戴冠式を行う」

「『帝都の混乱』とは亡者がどうの、神喰らいの獣がどうの、という話か」

「その通り」


ベラトールは髭を撫でつけ、三公の反応を伺ったがどうやらそれぞれ何らかの手段でその情報を確認しているようだ。


「それで、何故アルシオン殿が王位を継ぐことに?ご長男のアルヴェラグス殿が継ぐべきでは?長年失踪していたが、最近帝都に現れたと聞いている」

「序列を重んじるダークアリス公らしい物言いだが、アルヴェラグス様は二十年間お戻りにならなかったのだ。今さらお戻りになったところで家中を仕切る事は出来ぬ。長年病に倒れていた先王陛下を補佐してきた実績のあるアルシオン殿が王位を継ぐに相応しい。もし不満なら三か月後の戴冠式を欠席されるがよい」


戴冠式では各総督は新王に忠誠を誓わなければならない。

忠誠を拒否すれば戦争になる。


「ワシは久しく会っていない。貴殿から見て適任だと思うか?」

「無論だ。クールアッハ公。先王陛下からも引き続き摂政として補佐するよう頼まれている」

「しかしな。アルシオン殿は選帝選挙に出る為に長く帝都にいるではないか。留守の間全ての実権を貴公が担っている。外から見れば若君を蔑ろにして貴公が国家を専横しようとしているようにも見えるな」


総督達にとって上位の立場にあるのは王であって摂政ではない。

こうして呼びつける彼を快く思っていない者は多かった。


「この私を侮辱するなら戦を覚悟して貰いたい。天馬に命じて明日にはマクダフ将軍に東進するよう伝える」

「止めろ止めろ、くだらない。どうせ我が家が食料を売ってやらねばいくさなど長続きしないくせに。時間の無駄だ。それに選帝選挙中の現在、内乱を起こそうものならアルシオン殿の当選は無くなる。そうなれば次の皇帝は誰だ?オレムイスト家か?連中の家から皇帝が出てみろ。すぐに北伐を開始して負担を求められる。冗談じゃない。ベラトールが国政を壟断しようが俺の知ったことではない。ほっとけ」


南部総督が宥めつつも、微妙に摂政を軽んずる発言をした。

先王が亡くなり新王は当面帝都にいる以上、摂政には後ろ盾が少ない。

唯一後事を託された軍のトップである将軍が彼を擁護していたが、財界の支持が無い。

彼が意気がった所で、それをが通じるのは西部だけ、というのが総督達の共通見解であった。


「ルシフージュ公の物言いには不満があるが、今はそれどころではない。新王陛下の戴冠式は盛大に執り行う。各総督にも財政面について協力を願う」


戴冠式にはそれなりの儀式、宴会、祭りが行われ、神殿に寄付し、神々からの祝福を授けて貰う。市民にも無料の食事や新王からの振る舞い金が施される。

日頃貴族に不満を持っているような貧民でもこの時ばかりは新王陛下万歳と叫ぶ。

当面の治世の安定を確保するため、必要な事だった。


「仕方ないな」「よかろう」「どうせうちのメシを期待しているんだろう?」


三者三様に同意した。

これは新王への貢納であり、民衆への施しは古代からの貴族の伝統的な慣習である。


「で、用件とはこれだけか?」

「まさか。このくらいの話であればお三方全員に直接招集は願っていない。本題は皇帝選挙にあたり、各国の密偵、工作員が入り込んでいる事への対策だ。ここ十年で百人以上の集団が徒党を組んだ反乱の数は過去百年分にも匹敵する。帝国議会に統治能力を疑われぬよう各々反乱の目は早期に摘んでもらいたい」

「外部からの扇動にも気を配らなくてはならないのか」

「とても手が足りないな」

「いっそ武器工場を国営にするか」


時代は既に一部の英雄の力が戦場の勝敗を左右する時代ではない。

砲兵が戦場を支配し、火力がものをいう時代だ。

兵器の生産は民衆が労働力となり、経営もしている工場で行われている。

反乱の際には当然それを持ち出してくる。


「反乱といえば・・・」

「何か?クールアッハ公」

「うむ。先王陛下の時代に遊牧民達が反乱を起したことがあったが古代の盟約がどうのと持ち出してきて先王陛下のご命令で高度な自治を約束することになった。あれはなんだったのだ?」

「その件か・・・学者に調査させたところ確かに千五百年ほど前に帝国政府が契約の神アウラの名において彼らにかの土地を支配することを許したらしい」

「そんな古い契約が有効なのか?」

「古代帝国の魔術が生きている時代だ。もし破れば神の呪いが降りかかる。真実か嘘か試したいなら止めはしない。是非結果を教えて欲しいものだ」

「フン、で何故あんな辺境の民に政府がそんな契約を?」

「古代帝国が滅んだ際。旧都を脱出した近衛騎士サガの一行は我らの土地を横断した。そのころはまだフォーンコルヌ皇国は成立していなかったがな。当時の人々はサガらを襲ったそうだが、最終的に保護して通過させてやったそうだ。その礼として新帝国は彼らに土地の所有を許した」

「なるほど。連中は盟約はあるといったが、詳細を伝えてこなかったのはそういうことか。失伝したか、貴族の血を引かぬゆえ盟約の効力を正確に把握していなかったか」

「だろうな。彼らが定住に同意して移動したのは僥倖だった」


法と契約の神を守護神とする彼らはオルス達遊牧民が想像している以上に几帳面に記録を残していた。子孫が同意したことで盟約の効力はかなり薄れてしまっている。

神の呪いが降りかかるとしても現地を直接支配するフィメロス伯であって彼らには関係ない。


「話はそんなところか?」

「いや、ダークアリス公。まだ続きがある、非常に込み入った話になるが、一度休憩を挟もうか?」

「いや、お気遣いなく。どうぞ、続けられるがいい」


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2022/2/1
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