第21話 転機
「エーヴェリーン様を巻き込む事は絶対に許しません」
温厚なノエムが珍しくキレている。
彼女の手元には手術用の鋭いナイフや鋏があった。
「わかっとる、わかっとる。今更彼女を呼び寄せる気はない」
「そうだ。あたしもそんな事は許さん。心配するな」
マヤの発言に加え、レベッカも保証した。
「貴方は・・・?」
ノエムはレベッカとは初対面だ、随分事情通のようなので疑問に思う。
「あたしゃエーヴェリーンの義理の姉、イルンの主治医のレベッカ。エーヴェリーンの事は7つの頃から面倒みてきた。帝国人を亡者から助ける為なんかにエーヴェリーンをまた苦しめる気はない」
「本当ですか?」
「ああ。心配するな、もし利用されそうになってもエドヴァルドが片っ端からぶち殺すだろうさ」
それなら良かったとノエムは落ち着きを取り戻す。
「でも、具体的にどうするつもりなんですか」
適当な事を言って煙に巻こうとしているのではないのかと疑う。
「アルベルドも今頃子供が何人か出来ているだろう。方伯家の血を引く娘であればいいのならその子に協力して貰うという手もある」
「最悪、エーヴェリーンに封印を解く為の研究に協力して貰う為に、こっちからアルシア王国まで行く事になるかもしれん。ま、海を渡るか転移陣を復旧させないととても行けないのでいますぐどうこうする話ではない。まずは第一の封印を解いてからじゃな」
コンスタンツィアの遺産は、今複数並行して行っている対策、研究の一つに加えられるかもしれない、という話に過ぎないので全力ですぐに取り組むわけではない。
「不本意じゃが、アウラとエミスの血を引く帝国貴族を保護することも検討せねばならなくなった」
「殺し過ぎるから困った事になるんだよ」
レベッカは他人事のように笑う。
沿岸部の大都市は完全に破壊されてその主の貴族はほぼ全滅しているのでフォーン地方、フロリア地方、ダカリス地方で探すしかない。
◇◆◇
「エーヴェリーン?誰さん?」
政治の話にはあまり関わりたくないレナートは外に出てソフィアに訊ねた。
天馬組なので昨年知り合った人々の中では一番親しい間柄になっている。
「帝国が滅んだ原因となったお姫様。あまり気分のいい話ではないわ」
ソフィアも話したくはない。
コンスタンツィアが残した娘、エーヴェリーン。
帝国滅亡の遠因となった王女。
方伯家の遺産を受け取る事が出来る唯一の女性。
「私達はただの伝令役。気にしないで務めを果たしましょう」
「そうですね」
天馬は幻獣として獣人達に尊重されており、管理者たる天馬寮監も同様である。
レナート達はシェンスクの獣人にお披露目し、顔馴染みになる為に天馬に乗って周囲の偵察に出た。
すると遠くから天馬が一頭やってくるのが見えた。
「あ、ゲルドさんだ」
「どうしたのかしら」
何やら不本意そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
ゲルドは指で遠くに見える砂塵を指した。
砂塵の中から現れた魔獣が何か大きな荷物を牽引していた。




