第16話 遠征隊再出発
サリバン達が戻ってから三日後、ヴェニメロメス城に向かう人間が決まった。
ラターニャ、ブルクハルト、カルロ、ラウル、レベッカがビサームチャリオットに乗り込むのでウカミ村からはあまり派遣できない。
「ボクとスリクとムッサさんにエンリルだけ?」
レナートはてっきりマリアも来るものだと思っていた。
「レンとスリクはドムンに会いたいでしょう?エンリルもたまには仲間に会いたいでしょうしね」
スリクが出かけている間、子供らの面倒はヴォーリャとテネスが見てくれることになった。
「エンリルがいない間、はぐれ者の獣人に襲われたら困るので私が村を守ります」
「ニキアスさんにはマリアさんから問い質して貰った方がいいと思うんだけど・・・」
「その件ですが、王への疑いが濃厚になっても問い質すのは止めて下さい」
「え、どうして?」
「亡者対策で獣人と他の大公達が協力するにも彼が必要です。ビサームチャリオットは返却しますが、皆に再三確認している通り私達はここに住み続けます。万事解決した後、獣人の代理人として人の王が必要なんです」
「でも・・・」
「もともと王に不審点を問い質したところで認めるわけがありません。疑いが事実だったとしても誰もが不幸になる結果に終わるだけ」
マリアはきっぱりこの件は忘れる事にした。
「でも信用できない人と協調出来る?」
「協調するしかないんです。それに王なんてみんなもともと嘘つきですよ」
レナートも一時の悲しみは薄れたが、それは考えようとしないだけ。
父や皆の事を思うとやはりまだ辛い。
「でも悪い事していたのなら罰は受けて貰わないと」
「なら貴女が神罰でも何でも与えなさい。その上で代わりに王になって大公達と獣人の間を取り持てばいい」
マリアはそういって突き放したが、スリクはその案に乗り気になった。
「そりゃいいな」
「スリク?」
「いいじゃん、それ。俺もドムンに言ったんだよ。あいつ信用できないから騎士なんかやめとけって。もし叔父さんが元凶だったらアイツも騎士なんか止めて帰ってくる。レンだってその方が嬉しいだろ?」
「ドムン帰って来るかな?」
「そりゃ来るだろ。アイツ、お前がもう死んだかもって思ってたし。オルスさんの槍はお前が持つべきものだし。爺ちゃんも取り戻せってうるさいし」
レナートが獣人に理解を示していた事もあり、普通の人間なら忌避感を持つがドムンも柔軟になっていたのでバントシェンナ王に仕えやすかった。
「あいつは王様がニキアスでもレンでも構わないだろ」
「ボクには王様なんて無理だよ」
「んじゃあエンマ様に任せちゃえばいいじゃん。他の大公だか王様だかにも協力求めるんだろ?」
「そっかあ」
マリアは本気で口にしたわけでもない事を本気にされて話の軌道修正に入った。
「ふざけないで下さい。王の首を挿げ替えるなら最低でも大精霊とエンマさんの両方に話を通してからです。せめて亡者対策が終わってからやる話で今、この状況を混乱させてはなりません」
スリクの悪ノリのような提案も、計画を立てて順序を踏んでやれば最もこの地方の帝国人にとって一番まともな結果になるかもしれないとマリアも思い始めてしまう。
「ちょっと不安になってきましたね。貴方達を送るべきではないかもしれません」
「ボクが行かなかったらマヤちゃんが変に思うよ。やっぱりマリアさんも来る?」
「私は・・・行けません。カイラス族の生き残りを最後まで守ります。お目付け役としてヴォーリャさんについて行って貰いましょうか」
「あ、駄目。これ以上ヴォーリャさんには頼らない」
ペレスヴェータとヴォーリャはレナートにとって母親代わりだった。
二人とも失ったら耐えられない。
それにヴォーリャはもう夫と世捨て人の暮らしを望んでいる。
「では、慎重に行動してください。ムッサ、任せましたよ」
無口なベテランの遠征隊員はいつも通り静かに頷いた。




