第9話 遠征隊の帰還⑤
マヤと別れ一行はレナート達が待ち伏せを受け墜落した現場にやってきた。
折れた木々も大分伸びているし、墜落時の痕跡はほとんどない。
「ゲルドさん、何かわかる?」
「レンさんはちょっと離れていて貰っていいですか」
相性は悪くないのだが精霊達は驚いて姿を消していた。
しばらくゲルドがうろうろ歩き回り、ある場所で止まった。
「ここの木、少しヘン」
ゲルドがサリバンを呼んで見せた木の皮が一部だけぐるっと円を描いたように色が違う。
「ここだけ若い。それになにかこびり付いてる。血かな?」
「俺にはわからないが・・・」
言われてみれば赤黒い物がついている気がしないでもない。
ゲルドが精霊と話し始めると木片を木の蔓が掴み、次から次へと渡されて移動していく。
「なにが起きてるんだ?」
「少し力を与えているだけ。今だけの幻」
妖精の民の幻力で木片が動き、ある場所にぽとりと落ちる。
「掘って」
「何があるんだ?」
「それを確かめる為に」
サリバン達が掘っている間、ヴォーリャとレナートはサイネリアを問い質した。
「どうやってお前達の部隊はあたしらがここを通ると掴んでいた?」
「私は知りません。監視所を同時に奇襲する為に分散して行動していましたから」
「魔導騎士だったら作戦の詳細を知っていたんじゃないの?」
「隊長が手引きをしてくれる者がいる、と教えてはくれましたが部下達に詳細は明かしませんでした」
複数の貴族の精鋭魔導騎士が集められていて誰かに出し抜かれるのを防ぐ為だ、とサイネリアは言われた。
「神器の戦車を絡めとるほどの力を持った人なんて目立つんじゃない?数十人はいたし」
「フィメロス伯がそういった特殊な部隊を持っていたとは聞いた事がありませんね」
レナート達を襲った兵士はフィメロス伯の遊撃兵らしき服装だったが、サイネリアはキャメル子爵家に仕えていた。別動隊がビサームチャリオットを襲っていたという話は聞いていない。
「アイガイオンに頼っていたくらいだからな。あんたの所は?」
「存じません。マルーン公に自家の貢献を示そうと参加していたのですし、フィメロス伯の部下に偽装するような家があるとも思えません」
「やっぱなんか疑わしいな」
「うん」
レナートも同意した。
◇◆◇
しばらくしてサリバン達は白骨遺体を二つ掘り起こした。
「身に着けてる物からしてケイナンとアルケロだ」
「襲撃者がご丁寧に埋葬までしてくれたのか?」
「ラターニャさん、何か分かる?」
地獄の女神の巫女たる彼女なら亡霊と対話できないかと期待されたが、そうそう都合よく霊魂は残っていなかった。
「カルロ様、お願いできますか?」
「ああ」
カルロは遺骨を詳しく調べた所拷問の痕跡を発見した。
「墜落しただけではこうはならない。肋骨の骨折だけでなく指先が折れたり切り離されている」
両膝が鈍器で砕かれており、かなり厳しい拷問が行われたと想像される。
「目的は何だろうな」
「さあ」
強奪されたビサームチャリオットは未だ発見されていない。
「返して貰わないと困る」
「カイラス族はバントシェンナ王に渡してない」
「また紛失?」
「あたしらは知らん」
「マルーン公の家臣が奪っていたのなら、そいつの資産はどうなったのかバントシェンナ王に聞いてみるべきだな」
テネスやヴォーリャは皆と距離を取っていたので奪われた神器の行方を調べてもいなかった。
「シャモア河の戦いで役に立つような神器でもないし、あの戦いの戦利品には入っていないだろうが、そのあと占領した時に奪っているかも。もしマルーン公側が奪っていたのなら」
「じゃあわたしはマヤに合流する」
「サイネリアもここまででいいぞ」
襲撃地点までは連れてきたが、ウカミ村までサイネリアを連れて行くとカイラス族の生き残りと悶着が起きそうなのでテネスは帰らせようとした。
「私も謎の襲撃者が気になります。ご迷惑でなければシェンスクまでゲルドさんに同行させて下さい」
「めいわく」
ゲルドははっきりと嫌そうな顔をした。
「そんな・・・」
天馬に乗っているゲルドと普通の馬のサイネリアでは移動速度も異なるし、そもそもゲルドは帝国人が嫌いだ。
「仕方ない。あんたは墓と花畑の管理でもしててくれ。もし騎士の力が必要になったら呼ぶ」
「は。カイラス族の皆さんが戦力を必要とする時が来ましたら何でもお命じ下さい」
サイネリアはケイナン達の遺骨をカイラス山へ持ち帰り、皆と共に弔った。




