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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~後編~
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第5話 遠征隊の帰還

 春になり、遠征隊はカイラス山へ向かった。

道中、預けていたビサームチャリオットの引き取りと天馬を借りに高原にあるソフィアの牧場へ寄った。そこは人馬族が多く住み着いていて他の危険な獣人からは護られていた。

彼女の息子らも仲良く暮らしている。


「息子さん、いらっしゃったんですね・・・」


しかも結構大きいのから小さいのまでたくさんいる。

ペレスヴェータの学友なら当然かもしれないが、意外だった。


「今は未亡人だからレナートくんなら大歓迎よ」


レナートがどきどきして見つめていたのも気づかれている。


「ちょ、ちょっとボク、いまは忙しいので」

「はいはい、聞いているわ。私も行くから今日はここに泊まっていってね」


牧場には天馬以外に普通の馬もいるが、人馬族にしては珍しく人間が家畜として飼う事を許容している。


「いろんな考え方があるかもしれないけど、少なくともうちの子達は馬小屋の事は気に入ってるし。安心して休める我が家だと思ってくれてるから」


天馬と共にあるゆえの特例扱いで、温厚な人馬族のテリトリーでも他の地域では人々は家畜を解放させられている。出荷する必要も無くなった、出来なくなったので大きな牧場、農場はもはや維持されていない。


かつて世界中から集まってきた人々でごった返していた帝都に続く街道に人影はなく、郊外の農村地域では自給自足で生きていける範囲の暮らしで人々はなんとか生き延びている。


 ◇◆◇


 その日は大部屋で雑魚寝となった。

レナートは指先を少しだけ切ってマヤに舐めさせてやる。


「これだけか?」

「ごくごく飲んだらまた酔っちゃうし、長旅になるのにそんなにあげられないよ」

「研究の為にちょっと姿を変えてくれんか?」

「研究?」

「男の時と女の時で味が違うか幼い時とそうでない時で違うかどうか。気になるじゃろ?」

「意識的にやると疲れちゃうからやだなー。平和になったら研究につきあってあげるから頑張ってね」


マヤとは昨年来話し合った通り、カイラス族を保護して貰う代わりにフォーンコルヌ地域での帝国人の抵抗を諦めさせ亡者との戦いに協力しあう為、同行して貰っている。


「おぬしも人間達が従順になるよう説得せい」

「北方圏ならともかくこっちじゃ無理だよ」

「北方候の権威とかでどうにかならんか?お主が着とった奴、アヴローラが着てたもんじゃぞ」


儀式の時ジャラジャラつけてくれた奴は北方候としての衣装だったらしい。


「うわー、そのうち返しにいかないと」

「フランデアンから転移陣の部品が届いたら転移で戻せばよい。しかし貰っておけばいいのではないか?」

「着る機会ないって」


装着者にあわせて大きさが変わるマントはレナートの必需品なので貰っておくが、宝飾品は必要ない。


「おぬしはなかなか美人さんじゃが、そのままだと世界に溶けて消えそうなくらい白くて存在感が薄い。飾り立てた姿も良いと思うぞ」

「んまっ、マヤちゃんったら嬉しい事いってくれるなー」


レナートは綺麗なものを見るのは好きだが、自分がごちゃごちゃ身に着けるのは好きではないので、今は仕舞い込んで皇帝の宝物庫にあったシンプルな服装にしている。


「今後もし儂と別れた時の為にいっておくが、毛皮を着こんでいると獣の民に因縁をつけられる可能性が高くなるから同胞にもよくいっておけ」


温厚な草食系の獣人でも筋力は人間を遥かに上回るのでひとひねりにされてしまう。

ある意味肉食系の獣人より危険な力を持っている。


「そりゃ気分は良くないだろうけど必要なんだよねえ・・・」


逆の立場で人間の皮を使って服を作るような獣人を目の当たりにしたら、レナートでもさすがに平常心は保てないかもしれない。

そんな話をしていたら男女共に雑魚寝しているので聞きつけたカルロが口を挟んで来た。


「獣人達だって戦利品として爪だの牙だの角だの体の一部を身に着けてる奴がいるじゃないか」

「儂は駄目だといっているわけではない。因縁をつけられても自力で追い払えるなら好きにせい」

「まだまだ冷えるし、今後ずっと寒冷化が進んで春も夏も寒くなるとますます生存が困難になるな」

「己に不釣り合いな文明を持つべきではなかったな」

「いつかはお前達の番がくるだろうさ」

「そりゃそうじゃろうな」


盛者必衰、マヤは遠い将来の獣人の末路など気にしていない。


「はいはい、ぴりぴりしない。もうねよー」


レナートはマヤを押し倒してぴっちり抱き着いた。


 ◇◆◇


「なんじゃおぬし、震えておるのか?」


しばらくされるがままだったが、いつまでもそのまま離れないレナートにマヤは声をかけた。


「ちょっとこわくて」

「儂らとは手を組むんじゃし・・・亡者のほうか?連中がえっちらおっちら登山してくるとは思えんし高い山にいれば大丈夫じゃろ。おぬしの場合、その気になったら吹雪でも起こせば魔術を使えん亡者なんぞ近づけもせんだろうし」

「・・・そうじゃなくて帰ってくるのに半年以上かかっちゃったこと」

「ふむ・・・・・・」


急いでもどうにもならなかったので努めて意識しないようにしてきたが、故郷が間近に迫ると皆はどうなっているのだろうか、という心配から目を背けられなくなってくる。


「大丈夫。お前が庇ったヴォーリャが先に帰って皆に警告しているだろうしオルスは強い。武器として使える神器もあるんだからそこらの貴族が攻めて来たって負けやしないさ」


変な気を起こす奴が出ないように、と近くで横になっていたサリバンがそんなレナートを勇気づけた。


 ◇◆◇


 疲れ知らずのビサームチャリオットは長距離の行軍となると天馬よりも安定した速度を出せた。天馬は世界最速ではあるが、持久力が無いので何時間も飛び続けられはしない。


故郷が近づくにつれレナートは口数が少なくなり、情緒不安定になっていった。

毎晩抱き枕代わりにされているマヤがちょくちょく気にかけて話しかけてやる。


「マヤちゃんは優しいね。人間が憎くないの?たくさん酷い事されてきたんでしょう?」

「まあな。じゃが少々死を見過ぎた」


マヤの声には少し疲れがあった。


「帝国人は少々数が多すぎる。お主らのようにあまり数を増やさず小さな集団で満足して暮らして貰えればいいのじゃが」


レナートは頷いたが焦燥感は日増しに強くなり、故郷が近づくとサリバンの許可を得て天馬でソフィアやゲルドと先にカイラス山に向かった。


RTX4080、4090が発表されました

日本での販売価格は1$200円くらいの計算・・・

PC買い替えは当分先になりそうです

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2022/2/1
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