表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~中編~
210/397

番外編:遍歴の旅

 東方圏では白の街道を巡回し危険な魔獣を退治して回っていた帝国騎士がいなくなった影響で軍事力の低い小国、小領地は荒れ始めていた。

威力、精度の高い銃器の生産能力は帝国と一部の大国にしかなく、帝国商人がいなくなった影響で流通にも影響している。こうなると小国は昔ながらのお抱え騎士と傭兵団に頼ることになった。


シャールミンは息子たちに王位を譲り、国を出て数年間東方諸国を周り、そんな小国を助け魔獣を退治して回っていた。


「有難うございます陛下」「シャールミン様!」「アーモロート王の暴虐を止めて下さい!」


魔獣を退治して戻ってくると人々は口々に彼を称える。


「私はただの遍歴の騎士『マクシミリアン』だ」


そういって政治には関わらなかった。

シャールミンという名は呪い除けの為に改名していたものであり、森の女神達と敵対していた地獄の女神が浄化され、帝国も滅亡し、王位も捨てた以上父母から貰った名前に戻す事にした。


「神獣クーシャントを連れていたら誰も信じてくれませんよ」

「むう・・・」


巨大な獅子の神獣クーシャント。

妖精宮の護り手だったが、敵対していた神獣アラネーアとキャスパリーグが滅んだ為、宮殿を留守にしてついてきた。

クーシャントとキャスパリーグは森の女神のペットだったのだが、キャスパリーグの方は森の女神が『神喰らいの獣』を封印する為、現象界から去った時に捨てられたと思い発狂してしまっていた。

主だったエイファーナが現象界に戻ってきた時に襲いかかってきた為、仕方なく始末している。それ以来クーシャントも元気がなく、時々姿を消して戻らない日もある。


「ヴェイル、お前も他の騎士達のように散ってくれていいのだぞ」

「私くらいはお傍にいさせてください」


他の騎士達は新王ではなく今後もマクシミリアンに仕えたいといって旅についてこようとしたが、騎士の力は各地が必要としている為、分散させた。


 ◇◆◇


 ある日、宿に王の使いを名乗る者が現れた。


「マクシミリアン様、我が女王が話し合いたい事があるとのこと。どうか聞き届けて頂けませんでしょうか」

「シュリ殿には申し訳ないが、私はもはや王でも何でもない。私が特定の国に肩入れしていると思われると困る」


使者はどうしても駄目かと念押し確認したがマクシミリアンはあくまでも拒否した。

すると、使者と入れ替わるように女王が部屋に入ってきた。


「シュリ殿!こういった真似は困る。国の問題は大陸諸国会議でアンヴァールに伝えて頂きたい」


さしものマクシミリアンも驚き、立ち上がって抗議する。


「出来るだけ秘密裡に済むよう配慮はしました」

「女王自らお越しになって配慮ですか、使者は形式でどうせ無駄だと思っていたのでしょう」


大国の王で、妖精の血を引き寿命の長いマクシミリアンが東方大陸諸国会議に長く関わると否が応でもなく専制化していくのが目に見えていた。

早期に王位を降りて政治に関わらないよう辺境の小村にいたというのに、女王に押しかけられては迷惑だ。少しばかり彼女に対し憤然としてみせた。


「使者は確かに形式ですが、私一人で参りました」


目立たぬよう配慮はきちんとしている、と彼女は少しばかり胸を張った。


「なんてことを!」


家臣の混乱が目に浮かぶ。


「まさか自分で馬を走らせてきたのか?」

「無論そうです」

「相変わらずだな」


帝都留学時代は騎士になるといって周囲を困惑させていた姫君だった。

小国では魔導騎士の成り手が少なく、強いマナを持つ王族が騎士となれば戦力になると強引に望みを押し通していた。

周囲としてはそんなことより後継者をたくさん産んで増やして欲しい所なのだが。


「世界の危機なのです」

「大袈裟な。ここらの魔獣は倒した、依頼されずとも残りも適当に始末してから隣国へ行く」

「そうではなくて最近子供が生まれないのです」

「そういう相談は医師へしてくれないか」

「そうではなくて!」


口下手なシュリと話を切り上げたがっているマクシミリアンでは話が進まないのでヴェイルが仲介して入った。


「マクシミリアン様、先日産婆が最近仕事がないと話していたことに関係があるのでは?」


田舎の村で依頼を受けていた時にしばしばそんな話を雑談で聞いた。


「そう、それです!」

「エイダーナ様かノリッティンジェンシェーレに祈りを捧げればいいのでないか?」

「そういう祈念式や不妊に良いとされるものもやって努力しているのですが、我が国ではもう半年も誰一人妊娠すらしてないのです!」


 ◇◆◇


「実は周辺国でも同様の状況だといわれています。諸国を旅していらっしゃるマクシミリアン様は何かご存じありませんか?」

「私は辺境地域を旅してきたからさっきのような産婆の話しか知らない」


主な街道は関所が設けられて各国、大貴族の睨み合いが続いている。

帝国が滅亡した後も帝国系自由都市連盟の各都市は交通、交易、海上貿易の要衝にあり周辺国との戦争が続いている。極東地域の自由都市でも数十万人という人口を誇る規模であり、強大な武力を持つ都市なので緩衝地帯として作られていた近隣の小国にとっては脅威である。


最近は情報の拡散が以前より遅くなり、マクシミリアンは最新情勢を知らなかった。


「何かの間違いではないのか?」

「領主達も皆そう思ってなかなか情報共有が進みませんでしたが、間違いありません」

「しかし、私に相談されてもどうしようもないぞ」

「マクシミリアン様なら神々と交信する方法をご存じありませんか?これは私達にどうにか出来る問題とは思えません」

「そういう話なら神殿の巫女に相談すべきだろう。森の女神の件なら私達は何もしていない。本人が自分で姉神達に交信していただけだ」


神々を敬いはするが頼る事はなく、巫女や預言者のように神の言葉を貰ったという体験もない。


「本当に無理ですか?」


シュリは藁にも縋るような思いで言った。このままではいずれ人類が滅亡してしまう。


「試しに祈ってみるが・・・・・・・・・うむ、そうそう都合よく神々が返事をしてくれるわけがないな」


駄目だった。

妖精の民は寿命も長いし、出産に呪いをかけられたりもしたし、息子は二年間も母親の腹の中にいたし何かとトラブル続きだがなんとかやっている。そのうちなんとかなるんじゃないか?と口にしたら何を能天気な!と怒られた。


「あいや、これは失礼」

「いや、構わないぞ。随分新鮮な気分だ」


今は女王と遍歴の騎士の立場なのでマクシミリアンは怒鳴られた事は問題にしなかった。


「そういった事は医者や学者、神に仕える者達に対策を任せておくしかないのではないか?折角だから昨今の世界情勢でも教えてくれ。最近は気温が下がって作物が育たなくなり皆が困っているようだが」


このまま帰すのも悪いのでしばし雑談を振った。


「新しいフランデアン王からこの気温低下は数十年は続くので寒さに強い作物を育てるようにとの話がありました。種苗も各国に配布する準備をしているのだとか」

「ほうほう、なかなか頑張っているな」

「はい。この気温低下の原因は二年前の火山噴火によるものだそうで南方圏は壊滅し、船で逃げた人は海竜に襲われてあまり生存者はいないようです」

「内海に竜が?」

「はい。そのせいで内海交易が出来なくなり、情報も以前よりさらに遅れるようになりました。いちおう獣人達が帝都の転移陣を仮復旧させて文書くらいは送れるようになりましたが、完全復旧とはいかず旧帝国人の転移陣技術者を呼び寄せています」

「ほう、しかしそれでのこのこと出ていく帝国人はいまい」

「ですね」


帝国滅亡によって世界は平和になるかと思えばそうではなく、群雄割拠の時代となった。

そして自然災害、寒冷化、謎の不妊と続いている。


「終わりの時代・・・か」

「はい。中央大陸の旧帝国領では1500年前の旧都のように亡者が全国的に大量発生しているようです。スパーニアは長大な防壁の建設を開始したとか」

「亡者なら時々クンデルネビュア山脈から霧と共にやってくると聞くな」

「南のバルアレス王国でも大量発生したという噂があります」

「そうか。ではちょっと行ってみるかな」

「通行証を出しますので急いで確認をお願いします。南部の王国は国境を封鎖し始めていますからマクシミリアン様が押し通ろうとすると何かと問題が出るでしょう」

「感謝する。何か分かれば使いを送ろう」


マクシミリアンは魔獣退治の旅を中断し、亡者の噂を確認しにバルアレス王国へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、ご感想頂けると幸いです

2022/2/1
小説家になろうに「いいね」機能が実装されました。
感想書いたりするのはちょっと億劫だな~という方もなんらかのリアクション取っていただけると作者の励みになりますのでよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ