第28話 鷹の騎士
ゲルドと共にスパーニアからは一人の騎士がやってきていた。
その騎士は使い魔の鷹を常に側に置いていた為、獣人達からも鷹の騎士として知られていた。彼は亡者の件で困っているマヤ達に話があるという。
「皇子の代わりにやってきた。そうそう何度もソラ様をこちらに送るわけにはいかないからな」
「それで?」
「陛下からのお言葉だ。亡者については恐らく姿を消したシャフナザロフが関わっているだろう。奴の魔術体系とは違うが弟子のアーティンボルトを通じてコンスタンツィアの知識を得た可能性が高い」
禁忌を犯したシャフナザロフは帝国追放刑を受けたが、弟子達は一部しか処分されていなかった。マヤもアーティンボルトの名には覚えがある。
方伯家やガドエレ家に雇われていた魔術師であり芸術家の名だった。
「奴は方伯とシャフナザロフの両方に仕えていたのか」
「可能性の話だが、アーティンボルトを発見出来れば何かしらわかるだろう」
「残念ながら奴は昔、俺とソラとエドヴァルドで殺してしまった」
カルロは以前コンスタンツィアを拉致したアーティンボルトに復讐しようとしたエドヴァルドを助けて一緒に戦っている。
「死霊魔術師がそう簡単に死ぬかな?シャフナザロフも一度殺されたが、ヤクが連れ去った筈」
「ヤクが?何故そんなことをお前が知っておるのじゃ」
「ティラーノ様は長年奴に苦しめられてきたが、奴の唯一信教の組織を乗っ取って戦力とし、スパーニアを奪還することに成功した。奴がまた報復に動かないようその動向はずっと注視してきた」
騎士は肩の鷹にちらりと視線をやる。
「ちっ、大精霊の一角まで向こう側とは面倒な。もっと早く知らせてくれればよかったものを」
「俺達は長年貴様らに生かされてきた側。大精霊は獣人達でも中々会えない格上の存在ではないか」
「それはそうだが、何故奴がヤクと繋がっていたのかまでわかっておるのか?」
「知らん。だが古い神々を嫌う貴様らの事だ。普通に真の唯一無二の神の到来を願うという妄言に感化されていたのではないか?」
「信徒を利用していたくせに妄言とは酷い奴じゃのう」
「新しいスパーニア国民として優遇している。文句を言われる筋合いはない」
皇帝ティラーノと鷹の騎士ラウルそして旧スパーニア王国を追放された人々は、ヴェーナの新人類帝国打倒と同時に新たな国家を打ち立てた。
古い民は昔ティラーノを裏切った報復に農奴に落されて、王国奪還に協力した唯一信教徒が主人となっていた。
「ソラが戻ってこないのは陛下に拘束されたからですか」
「反抗的な息子でもティラーノ様は大事に思っていらっしゃる」
ソラやカルロは帝国を混乱させてスパーニアから帝国の影響力を削ぎ、独立した共和制国家を作るつもりだったので農奴制を始めた父王と折り合いが悪い。
「スパーニアは海岸からノンリート山脈までサウカンペリオンに長大な防壁を築くことにした。獣人の往来も制限される。ヘルミアにも告げておいてくれ」
「亡者がそこまで行くと懸念しておるのじゃな」
「そうだ。だが帝国人と獣人達数億人がそっくり亡者になられては防壁が役に立つかもわからない。しばらく私も亡者討滅の為に手を貸すとしよう」
「お前のような老いぼれが役に立つかな?」
「老いぼれだから役に立つ事もある。こちらには帝国社会を混乱させる為にブラヴァッキー伯爵夫人が送り込まれた筈だ。カルロが探しているヴィターシャとも接触している。彼女の捜索もしなければならない」
意外な所でレナートも会った事がある人物の名が出てきた。
「ブラヴァッキー伯爵夫人ですか?昔会いましたよ、外国貴族だっていってたっけ」
レナートにとっては幼児の頃に知り合った優しい老婆だった。
「やはりフォーンコルヌ皇国にいたか。カルロはその件について話したのか?」
「いや・・・関わりがあるとは思っていなかった」
「ふむ。私も来て良かったようだな。お前達は自分が帝国をこのような破局に導いたと話して恨まれるのが嫌だったのだろう」
帝国で育ったソラやカルロには住民たちに罪悪感もあり積極的に口を開いていなかった。
その点、ラウルにはそんな遠慮はない。
「ブラヴァッキー伯爵夫人は普通に優しいお婆ちゃんでしたけど、何をしていたんですか?」
「西方の終末教徒の一団と協力関係にあったようだ、シャフナザロフが追放刑に会う前に逮捕された地域に奴らの本部がある。そしてコンスタンツィアの祖母メルセデスの弟子でもある。女魔術師の秘密組織に入っていたようだが、それはメルセデスの弟子達の組織だろう。それと革命を目指すヴィターシャとは共闘関係にあった」
複数の組織の共闘関係、上下関係がありレナートにはちょっと難しかった。
「えぇと誰と誰の陰謀なんです?」
「皆、それぞれ目的がある。皆が現状に向かって陰謀を張り巡らせたのではなく、それぞれの行動の結果こうなったのではないかな」
レナートは首を傾げていたがカルロは頷いた。
繋がりをいえばカルロやマヤにも関係があるのだ。しかし亡者の大量発生を目指していたわけではない。それぞれが目的の為に利用しあった結果が今の現状だ。
「首謀者はいない。だが、もしいるとすればあの夢魔だろう」
ラウルの発言と共に彼の鷹が不吉な鳴き声をあげて飛び立っていった。




