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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~中編~
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第19話 サリバンの南征

 サリバン率いる遠征隊12名はレナート達4名と別れた後、飛行船を追って南下し続け、道中さまざまなトラブルに遭遇していた。

蛮族から逃げる為、山の中に逃げ込む人々を避けてより険しい山岳地帯を通る事になった。

山中に逃げ込んだ人々はわずかに持ち込んだ物資を巡って争い、足りなくなると組織化し山村を襲って山賊となっていた。


彼らを避け人が踏み入れないような秘境を通れば飛行船の情報がなくなる。

ケイナンからマナの痕跡を辿る道具の使い方を習っていた動物学者のギデオン・マンセルに頼って追跡はしていたものの、やはり目撃者の情報が欲しい。

そこで仕方なく接触した村が普通の村かと思えば既に山賊に乗っ取られていた村で、偵察に出した隊員が捕虜になり、救出の為に戦う羽目になった。


ここで2名を失い、遠征隊は出発時の半分の規模となる。

皆が意気消沈し、休憩時の愚痴も増えた。

その後、何かの爆発のような衝撃波が山々を通過しさらに不安が増してしまう。

サリバンはここで決を取ることにした。


「皆が考えている事はわかってる。家族と分かれて長いしカイラス山がどうなっているか心配だろう。飛行船の手がかりも消えた。進むか、退くか、皆の意思を確認したい」


サリバンが意見をと促すと皆が顔を見合わせ、ギデオンが口火を開く。


「隊長はどう考えているんです?」

「俺は追うつもりだ。ここで帰っても何の成果もなくカイラス族の環境は何も変わらない。だが、ビサームチャリオットは分割出来ても隊員をさらに半分に分けたら行軍続行は不可能だ」


3人ずつではまともに見張りも立てられなくなり、捜索続行を選んだ班も帰投を選んだ班も両方全滅する可能性が高くなる。


「なるほど、確かに。では私も続行に一票入れます。空気の薄さからいって飛行船がこれ以上高度の高い地域に踏み込んだ可能性はないでしょう。少し降りればまた痕跡を発見できると思います」

「そうだな。じゃあ、次はネストール」

「サリバンさんが続けるなら俺も付き合いますよ、俺がいなきゃ困るでしょう?」

「ああ、助かる」


ネストールは医療担当である。ヴァイスラやブヘルスから学んで薬草の現地調達、調合も出来る。


「他は・・・」

「仕方ないですね。俺だけじゃ自力で戻れないし」


ガンジーンの偵察・監視班から移籍してきた若手3人組は仕方なく同意した。


「続行を選ぶなら今後は皆の士気を下げるような愚痴は許さんぞ」

「・・・じゃあ、期限をはっきり決めてくれませんか」

「あと、誰か一人でも死亡者、重病人が出たら終了にしてください」


若手の注文にサリバンも頷いた。

これ以上人が欠けるとどちらにせよ続行が厳しい。


「ここからなら多少寄り道をしても二、三週間でサーカップ地方の山脈南端につく。そこからなら海が見える。ビサームチャリオットを降りて港町の偵察も可能だろう」


 ◇◆◇


 サリバンの予定は少しずれた。天候が荒れ方角を見失ってしまったのだ。

二週間経っても知っている帝国軍駐屯基地兼天文台が見えてこない。

かつて皇帝の座を奪おうとしたとある皇国の監視の為に小規模な基地と監視塔などが増設されていた筈なのだが、それが見えない。


いったん平地側へ降りて適当な街道標識や人工物を探そうとしていると人が住んでいる村があった。


「ギデオン・・・なんであいつら裸なんだ?」


双眼鏡で確認したサリバンが唖然とする。

もう大分朝晩の冷え込みが厳しくなってきた山村だというのに彼らは全裸で農作業をしている。


「私が知るもんですか、しかも彼ら無警戒ですよ」


他の山村はどこも山賊、蛮族を警戒する為に物見櫓を立てて村を囲む柵もかなり厳重にしているのに、この村は帝国滅亡前と変わらない普通の村だった。

脅威は無いと思われるのでしばらく交代で観察することにしたのだが、一定時間ごとに大きなモレス神像の前である行為を始める。


「イカレてんのか?」


接触すれば情報は得られそうだが、一緒に参加しますか、とか言われたら困る。

躊躇ったサリバンと違い、ギデオンは大笑いをした。


「ああ、わかりました。あれは裸人教徒ですね。実物を目にするのは初めてですが」

「あれが、か。そうか」


有名な狂信者の集団でサリバンも名前だけは知っているが、自分が遭遇するとは思わなかった。

太古の神に習って全裸で過ごそうという一派だが、神代の遺跡から神々も普通に衣服を身にまとっていた壁画、彫像などが発見されてあれは捏造だと怒り狂った。

結局、信徒が減り、帝国政府からも公共の場では最低限の衣服を着なければならないという馬鹿馬鹿しい風紀取り締まりの法律が施行されて地下活動になっていった。


「農具くらいしか武器になるものは持っていないようですし、アレが終わったら接触してみましょう」

「俺はイヤだ、頼む」


ギデオンは仕方ないですね、と彼が一人で行く事になった。狂神アル・アクトールの信徒の賢者も変人が多いので彼もそういう類の相手には慣れている。


 ◇◆◇


「どうだった?」


ビサームチャリオットまで戻ってきたギデオンにサリバンが訊ねた。


「見た目以外は普通の人でした。飛行船についても目撃証言がありました。蛮族は港町を破壊した後、山腹にある宮殿を攻めたそうですがいつの間にかどこかへ去ったようです。多少はうろついているようですが、さほど危険はないとのこと」

「そりゃ良かった。で、アレは?」

「あー、彼らは蛮族と同じような原始的な生活をしていれば敵である帝国人と見なされずに済むと思っているようです」


ギデオンが必要としていた情報は教えてくれたが、早く服を脱いで自分達に加わるか去って欲しいといわれたそうだ。


「頭はおかしいが、いい奴らなんだろうな。風邪をひかないといいんだが」

「文明を完全に放棄しているわけではありませんし、大丈夫でしょう」

「隊長、連中はギデオンの後をつけていた」


罠猟師のムッサが報告した。

ギデオンを遠距離から護衛する為に三人をつけていたので追い払えたが、そんなに単純な連中ではないと警告する。


「ああ、彼らは村を発展させる為に仲間に女性はいないか、いるなら残ってくれないかと訊ねていましたから。ヴォーリャさん達は先に返していて良かった」

「そうか、孤立してたらあの連中もどうせ先はないからな」

「我々の知った事ではありませんし、もう行きましょう」

「ああ」


その後サリバンが緊急警報の狼煙を見た時は何かの間違いだと思った。

同胞がこんな所にいるわけがない。

半信半疑ながら目的地近辺だったので現地に行ってみた所、異様に黒いマントを羽織ったレナートと女性達が剣呑な雰囲気の男達に囲まれていた。


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2022/2/1
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