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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~中編~
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第18話 地獄の巫女②

 あの優しい女神様が地獄の女神?どういうこと?とレナートは首を傾げた。


「えーと・・・大地母神が地獄の女神ってどういうことです?地獄の女神って神々の間に争いを犯した罪で地獄に追いやられた筈じゃ・・・」

「ですから貴女の言う通り、大地母神が地獄の管理を命ぜられたのです。名前が変わったのは帝国の守護神がそのような罪を持っているとは受け入れられなかったから」

「へぇ・・・詳しいんですね」

「やはり大神にさえ今はあまり敬意を集められてないのですね」


割と重大な秘密だったのだが、反応がいまいちだったのでラターニャは肩透かしを受けたようだ。少しばかり溜息をついてしまう。


「いえ、つい先日お会いしたノリッティンジェンシェーレ様にそんな側面があったなんて思えなくて吃驚してます。それにうちの国は信仰対象ではなかったので」


帝国を構成する三十あまりの国家群の中でも守護神が大地の神でないのはフォーンコルヌ皇国だけなので、かなり例外な国家である。


「先日、お会いした?」

「うん、ボク迷子には迷子なんですけどウィッデンプーセ様とノリッティンジェンシェーレ様にここまで送って貰ったんです」

「まあ迷子さんは神々にお会いしたのですか?」

「おいおい、信じるのかよラターニャ様」

「私の事は信じて下さるのに、迷子さんは信じられないのですか?」


ソラ達の突っ込みにラターニャが答える。


「んじゃあ、聞くが迷子君。ノリッティンジェンシェーレ様はどんな容姿をしてた?」

「金髪で大きくてお胸がたくさんついてた」

「むう」


ソラ達はひそひそと話し合う。

帝国にある神像は赤子に授乳している女神像が一般的だが、胸は普通に人間と変わらない。


「感じわるーい」


レナートは文句を言った。


「御免なさいね。彼らは少しスレているんです。精霊が実体を持ってこうして話してくるなんて聞いた事がありませんから。ウカミ村というところは貴方のような精霊さんがたくさん住んでいるのですか?」

「違うよ、ボクのお父さんもお母さんも皆普通の人間。ボクは精霊になっただけ」


ごくごく個人的な事情を説明するような相手ではないのでこれ以上の説明はしない。


「私達は先ほど伝えた通り亡者を鎮め、カルロ様の奥様を探し出す為にこの地に参りました。迷子さんの事情も教えて頂けますでしょうか」

「ボク達は獣人さんや貴族に隠れて住んでたんだけど状況が悪くなってきたから安全な所に逃げたかったんだ。そんな時に飛行船を見かけて追いかけてたんだけど襲撃に遭って、散り散りになって迷子になってヘリヤヴィーズって所についちゃってスヴェトラーナさんの協力で神様の所に送って貰って、それから神様にここに届けて貰ったの。それで伝わる?」

「大変な旅を送って来られたのは理解しました」


ラターニャはともかく他の人々はすぐには受け入れがたいという表情をしている。

ひとまず各々、自己紹介が終わった後、ブルクハルトや男性陣は物資を回収し、ソリを作ってそこに荷物を収納した。


レナートが持っていた地図を広げ、ラターニャはソフィアにやはり単独でヴェーナに戻るよう指示した。


「一人でって大丈夫なんですか?」

「天馬は神獣みたいに扱われてるからその乗り手のソフィアさんが襲われることは無いわ」

「その通り。どうぞお任せ下さいな。ところでキミ、兄弟はいる?」

「え?妹しかいませんけど」

「それは残念!」

「残念?」


ソラが「後にしろ」とソフィアを小突く。


「ボクも天馬に乗せて貰ってもいいですか?」


馬術が得意なレナートとしては天馬にも興味が湧く。


「いいわよ、レナート君だったっけ」

「レンでいいです。お姉さん」

「ソフィアでいいわ」


意外とあっさり許可が降りた。天馬はかなり貴重で皇帝のお許しが必要だと何処かで聞いた覚えがあったのだが。


「咎める人はもう居なくなったし、この子達は私の所有物ではないから」

「この子達?」


ソフィアは黙って空を指した。

雲の合間に他にも天馬が数頭飛び交っている。


「臆病な子達でね。群れで移動したがるからついて来ちゃうのよ」


裸馬のままでは乗るのに苦労する為、神器の鞍をつけてソフィアは操っている。


「ほんとにお前が精霊さんなら乗れるんじゃないか?」

「ソラ、意地が悪いぞ」


ソリを引っ張って男達も戻ってくる。出発する準備が整い始めたが、やはりそう都合よくサリバンは来てくれない。


「じゃ、ちょっとお借りしまーす」


レナートが近づこうとすると天馬は少し警戒して後退し、ヒヒンと鳴く。


「ルナリス、大丈夫よ」


ソフィアが声をかけて天馬を宥め、首筋を叩いてやる。

白い羽が宙を舞い、地面に落ちる前に光の粒子となって消えていく。


「わあ、不思議」

「竜が消えたこの世界で唯一といってもいい幻獣なの。神獣は神々が生み出した生物だけどこの子達は夢幻界の住人だから現象界の人間とは相性が悪くて。特に金属とかね」

「乗りこなすのにコツとか必要なんですか?」

「さあ。相性がいい人は数千万人に一人とかね。昔服を全部脱いで天馬の警戒を解こうとしたおバカさんがいたけど」

「うわ、変な人」

「でもね。それが有効だったのよ、驚く事に。朝になったら天馬と一緒に寝ててびっくりしちゃった。その時は乗れなかったけど、後で帝国騎士になって武功を立てて天馬にもう一度乗る機会が与えられたんだけど、見事乗りこなしたの」

「へえ、じゃあボクも試しにちょっと邪魔なの外しちゃおう」


レナートはとりあえず金属製の装備を外した。

儀式の際に随分飾り付けてもらったままの服装だ。

マントにも金属の留め具があるのでそれを外す。短剣の他ベルト、靴にも一部金属が使われているので脱いだ。ほとんど全部抜いて神獣の抜け殻で作った下着だけになる。

だいぶ裂けてしまったが、コルヒーダに縫い直して飾りもつけて貰った。

コルヒーダが女物の下着に縫い直して、伸びてしまったり裂けた部分は切って靴下代わりにしてベルトで吊っている。また容姿が変化したり巨大化してもいいように各所はベルトで調整可能にしてくれた。


「お、女の子だったのかよ!」


ソラからツッコミがあった。カルロが目を逸らせ、と小突く。

ラターニャがあらあらと脱ぎ捨てたマントを拾って隠してくれた。


「精霊だから性別はないでーす」

「だ、だからってなあ。少しは恥じらえよ」


今度は鳴きはしなかったが、羽を羽ばたかせて風を起し、飛び立つ準備を始める。


「うーん、やっぱり駄目かな。無理に近づいちゃ可哀そうだし」

「まだ逃げないところをみるとそんなに相性は悪くなさそうだから、何度か試して慣れれば乗せて貰えるかもね」

「残念だなあ」


ソフィアが飛び立ってしまうと次に会えるのはいつになるか分からない。


「あっ、そうだ。もう一回試してみてもいいですか?ちょっとボクが皆さんから見えなくなるかもしれないけど」

「?・・・面白そう。やってみせて」


ソフィアのお許しが出たのでさっそく指輪の力で姿を第二世界に移した。

すると天馬はこちらに興味を示して鼻を鳴らす。レナートがちょっと動いてみるとそちらに首を向けて来るし、はっきり向こうからも見えている。


(すごーい、さすが幻獣さんだ)


天馬は淡い燐光に包まれているが、その姿は肉眼の視点と同じだった。

他の人々は周囲をきょろきょろと見まわしてレナートを探しているのが見えるが、心臓と頭の当たりに強いマナの躍動が見えても体全体はうっすらとしか見えていないのに。


レナートはゆっくりと天馬に近づいて首に抱き着いてみても天馬は怒ったり逃げたりしなかった。またがろうとするとちょっと嫌がるそぶりを見せた。


(普通の馬と同じだね)


レナートは元遊牧民の村育ちということもあって物心がついた時には既に馬を乗りこなしている。調教も教わったことがあるし、そう簡単に乗せてはくれない事は分かっていた。


(うーん、こんな機会滅多にないしグラキエースの力を借りちゃ駄目かな?)


霊体化しても身に着けている物は自分には元通り見えている。

いくつかの紐を緩めて、レナートを探している人々から少し離れた所まで天馬を連れて行きそこで神域を作って天馬を取り込み、思い切ってまたがってみた。


(やったね!空を飛ぶから寒さにも強いみたい)


ソフィアも防寒対策はきっちりしていた。

レナートの場合は氷の女神の加護のおかげで冷気にはとことん強い。

もう指輪の力は必要ないと姿を現した。


 ◇◆◇


「レンちゃん、何処に行ったのかしら。あ、ルナリスまで何処へ行くの?」


ソフィアはレナートが消えた地点にちょっと手を泳がせてみたが何も掴めない。

探している間に天馬がどこかへとことこ歩いて行こうとするが、別に駆け出す訳でもないし退屈になったのだろうと放っておいたが、突然吹雪が発生し、それが収まると天馬にまたがった成人女性がいた。


「レンちゃんなの?」


先ほどより随分と大人びた姿で体のお肉が増量されているが、顔立ちはよく似ている。

男達は突然の怪奇現象に警戒して剣は抜かないまでもレナートを包囲し始めた。


「おい、ちょっと待て。お前本気で何者だ。何が迷子だ、ふざけやがって。こんな力を持った迷子がそこらをうろつくか!」


ソラの持つ光輝く剣と身体能力は顕聖化した状態でも危険なので怒鳴られるとレナートもちょっと怖い。天馬も怯えているのが伝わってくる。

そこでラターニャが宥めに入ってくれた。


「ソラ様、私の警護の為に警戒するのは分かりますが、脅してはいけません」

「そうそうボクはちゃんと最初に精霊だっていったもん。信じないのはそっちの勝手だけど喧嘩売るなら買うからね」


レナートの子供っぽい返事にソラも少し毒気を抜かれたようだ。


「ボクはレナート。フォーンコルヌ皇国はフォーン地方フィメロス伯領ウカミ村出身のごく普通の13歳です。あ、もうすぐ14かな」

「そちらが本性で先ほどまでは子供の姿で油断させていたのではないのか?」

「レナートだからレンちゃんなのね。女の子にしては珍しい名前ね」


ソラ以外も疑問をぶつけてきたのでレナートは答えられる事だけ答えていく。


「生まれた時は普通に男だったよ、たぶん」

「たぶんってなんだよ」


ソラがソフィアとの会話に口を挟む。


「生まれた瞬間の事覚えてる人なんているかなあ?」


自分以外にはこの感覚は分からないだろうとは思いつつも自分にとっては当然の事なので胸を張って答えた。


「母は出身部族はパヴェータ族で、ボクが帝国人にしては珍しい容姿なのはその影響です。だからって変な目で見ないでほしいな」

「パヴェータ族か、ペレスヴェータと一緒ね」


ソフィアが納得顔で頷いた。


「あれ?ヴェータの事知ってるの?ボクの母の姉です」

「うそ!ペレスヴェータの親戚なの!?」


ソフィアが驚きの声を上げた。

レナートは一度天馬を降りてソフィアに返し、元の姿に戻った。

ベルトが緩んであちこちはしたない事になっているのでラターニャがパチンパチンと留め直し、マントをかけ直してくれた。


「んまー、世界は意外と狭いですねえ」

「彼女はいつも北国の戦士達に囲まれていたからあまり付き合いは無かったけれど」

「惜しいなあ、ヴェータがいれば良かったのに」


神々の言葉なのでペレスヴェータが本当に死を迎えたというのは納得しているのだが、いつかまた会えるのではないかという期待は少しある。その日を楽しみにしていた。


「なるほどね。彼女の目には私達には見えないものが見えているのかもしれないとコンスタンツィアが言っていたけれどその血筋なら多少不思議な所があっても納得だわ」

「ソフィアが納得しても俺はまだ納得できないぞ。あまりにも異質過ぎる。もとは男だとか何の冗談だ。次はどんな秘密を教えてくれるんだ?」


ソラはまだまだ隠し事があると疑っており、警戒を解いていない。

カルロやブルクハルトもラターニャ達と違って職務上警戒を強めたので改めてラターニャが窘め、ゲルドものっかる。


「ソラさん、いい加減にしてください。女性が男の子になったり突然小鹿になったりなんてよくあることです」

「そうよね。困ったことに」


小さなゲルドの言葉にラターニャも頷く。


「よくあることでたまるか!・・・あ、いや失礼」


つい護衛対象に乱暴な口を聞いてしまったソラが謝る。


「私の主君はお優しい方でしたが、悪戯も好きで時々姿を変えて私達を翻弄していました」

「そりゃ、妖精の神ならそれくらいするかもしれんが・・・」

「初めて遭遇すると吃驚するかもしれませんが、そのうち慣れますよ」


ゲルドだけでなくブルクハルトも納得してしまったのでソラはもういいといじけてしまった。


「私は裸馬でもなんとかなるから、よかったら私とレンさんで一緒に帝都まで行きましょうか。それから家まで送ってあげましょう」

「わあ、ソフィアさん優しい。けっ・・・」


天馬にまたがるソフィアは凛々しく、帝国人にしては珍しいスレンダーな体つきで、こんな旅路でもしっかりと化粧をしていて、舞い降りてくる様は天女のようだった。

まだ若いように見えるがペレスヴェータの同窓生という事を考えるとちょっと気後れする。


ソラ以外は納得して気を緩めた矢先の事で少しばかり彼らは警戒を解いていた。

その為、自分達が包囲されている事に気がつかなかった。


「貴様ら全員、武器を捨てて手をあげろ!」


草原に伏せて近づいてきていた弓兵がぱっと立ち上がり一同に警告を出した。


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2022/2/1
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