第16話 死者の都
話すべき事を話し終え、レナートは地上に送り届けてもらう事になった。
別れる前にサリバン達が最悪ここまでは行くと話していたサーカップ地方のイスファーンに転移陣があるというのでそこに直接送って貰う。
「ペレスヴェータは本当に死んだんですか?」
最後にもう一度だけ訊ねてみる。
「そうだ」
「じゃあ生き返らせたりは出来ないんですか?もともと霊体だったんだし」
「・・・昔、死者を復活させた神がいた。その神は罰として四肢を切断されて地獄に封じられた。運命には抗わなければならぬ、しかし運命を従わせようとしてはいけない」
ウィッデンプーセが諭し、最後にもう一度ノリッティンジェンシェーレが抱きしめた。
「強く生きなさい。貴女は私が守護する土地で生まれた子。辛い時があっても私がずっと見守っていると思いなさい」
「有難うございます」
「では、行こうか」
◇◆◇
レナートはまたトンネル内、説明によると世界樹の名残らしいが、その中を滑るようにして地上の転移陣に辿り着いた。
「真っ暗じゃん」
通常の視界だと真っ暗過ぎて平衡感覚が無くなるので、魔力を通して視点で床や壁に流れる微細なマナを認識してその部屋の外に出た。
「誰かいませんかー」
そこは塔の中だった。
機能してなくても重要な場所なので放棄されたとは考えにくく、人を探して回る。
廊下のつきあたりに人影が見えたので「お、いるじゃん。すみませーん」と声をかけた。
その人が振り返りこちらに顔を向ける前にレナートは気が付いた。
(うわ、亡者って奴じゃん)
人間の形をしているが人間ではない。
鉱物ではないのに鉱物のようにマナを通している。
まるで動く蟻塚のように内部に小さな生き物がいる。
そして神経が緩んだせいか色んなものを垂れ流して臭い。
「ばっちいから近づかないでね」
氷の壁を張って引き返し、別の道を行こうとしたらさらに亡者の大群に出くわした。
「うわあああ!」
慌てて逃げ、階段の上へと昇っていく。
屋上には誰もいなかったので扉を凍結させてひとまずの窮地は脱した。
(あれが感染性のある奴だったとしても寄生虫とかいうのから感染する筈だから大丈夫)
風邪とは違うので、ちょっとやそっと近づいても大丈夫だと自分を落ち着かせた。
それから周囲を見まわして眼下の通りにいた亡者をじっくり確認してみる。
マナがもぞもぞと脈動している個体もいたが、肉眼で見ると他の亡者と見た目が同じだった。
(肉眼ならともかくもぞもぞ亡者は普通の人と見分けがつきづらいなあ)
真っ暗闇だと肉眼には頼れないので、視点の切り替えが面倒くさい。
左目と右目で切り替えてもいいが、情報量が多くて処理が遅くなるし疲れる。
後で考えるとして、さらに周辺を見まわした。
ところどころ篝火があり、レナートは初めて見たがガス灯もあった。
(んー、町中亡者だらけだけど、つい最近のことなのかな?)
山腹にあるとはいえかなり大きな都市だ。
あの動きの遅さなら住人が全滅とは考えにくい。
しばらく観察しているともぞもぞ亡者は生きている人に近いとはいえ、マナスが似通っていることに気が付いた。
本来魂といってもいいマナスには個性があり、色がある。
それが共通していることで見分けがつきやすくなった。
(この都市はもう駄目っぽいし、北に向かおうかな)
空を見上げるが、星明りもない。
しかし、少し離れた所にある巨大な建物の上に明かりを灯した飛行船が滞空していて、ロープを垂らしていた。飛行船は魔術の明かりを各所を打ち出して地上を照らしていく。
(わお、ぴったりじゃん。お爺ちゃんは知っててここに送ってくれたのかな?)
しかし、不味い。
ロープを垂らしているので亡者がそれを登っている。
彼らが救助のつもりでやっているのなら止めてやらねばならない。
しかし、声が届く距離ではない。
(やれるだけはやるか)
姿隠しの指輪を使って霊体化し、空に昇っていく。
だが、それでは遅かった。
既に内部に亡者が侵入していたのか、内部に火がついて墜落していく。
レナートは郊外まで霊体化して飛んでいき、地上についてからまた元の肉体に戻って生存者を探し始めた。




