第6話 転移遺跡の戦い ~グリフ~
翌日、ウィーグリフは副官として帝国士官を伴い、陣営の前に出てスヴェトラーナにも進み出てくるよう声を張り上げた。
スヴェトラーナはコルヒーダや数名の護衛を伴ってやってきた。
両者数名だけを伴い最後の会談を始める。
ほとんど顔見知りだが、一人柔和な顔つきの見知らぬ少年を伴っていた。
ゴーラの男の基準からするとひ弱そうに見えるので盾代わりに使われる哀れな使用人だと解釈した。
このふざけた慣習を終わらせなければならない。
「スヴィータ、俺達で五千年の因縁を終わらせる。依存は無いな」
「それは無いが、お前に愛称で呼ばれる筋合いはない」
「フン、つれないな。一度は俺の下で甘い声をあげていたくせに」
「ブタが。いや、貴様の品性はブタの獣人にも劣る」
短い期間とはいえ妻となった女が罵倒してくる。
「俺達はその獣人から長い間お前達を守ってきた。その犠牲の上に安楽な生活を送ってきた貴様らが俺達を蔑むか」
「泣き言か?男のくせに見苦しい」
スヴェトラーナだけでなくスヴェン族の女達は冷たい目でウィーグリフを見下している。
ネヴァを守ってきたのはゴーラだというのにその貢献をまったく評価していない。
「もういい。ネヴァの他の部族とは戦後に対等な協定を結ぶが、お前達は奴隷にして売り飛ばす」
「それが勝者の権利だ。お前達も負ければ家畜の世話係になることを忘れるな」
お互い憎しみの言葉をかけるだけで無益な会談だった。
馬首を返そうとした時、控えていた少年が口を出してきた。
「ちょっと待ってよ!本気で男の人達がほとんど女性しかいないこの部族を攻めるっていうの?」
「なんだこのガキは」
従者風情に口を挟ませるのかとスヴェトラーナを非難の目で睨む。
「こら、レン。口を挟まない約束だ」
スヴェトラーナが帝国共通語で叱りつけた。
「でもやっぱりこんなのおかしいよ。アンタも恥を知りなよ」
わざわざ帝国共通語で話しかけている事からして地元人ではなく何かしら訳ありのようだ。
「俺達の歴史も知らんガキが口を出すな。だいたいなんだその髪は。男のくせに気持ち悪い編み方しやがって」
「き、気持ち悪い?」
レンと呼ばれた少年が柔和そうな顔のまま凍り付いたような表情でひきつりながら声を出す。
スヴェンの女は本来強い男を好むのだが、たまに変わり者がいて可愛い顔立ちの男の子を好む者もいる。そいつに飼われているんだろうとウィーグリフは察しを付けた。
スヴェトラーナは案外こういう男の子が好みだったのか?
それなら自分を嫌っているのも無理はない。
「そうだ。男だったら髪を切れ。髭を生やせ。どこの変態女だ。男に女みたいな恰好させやがって。お前の趣味か?」
スヴェトラーナを嘲るようにいったが、レンと呼ばれた少年が猛然と反発してくる。
「これはお母さんが旅の前に長い時間かけて旅の無事を祈りながら編んでくれたものでアンタに馬鹿にされる筋合いはない!」
「は?お前、その年になってもまだママの世話になってるのか?甘ったれが、お前の間抜けな母親は育て方を誤ったな。スヴェン族にそんな情けない女がいるとはな」
男はどんなに長くても7歳までしか母親の下にいないのがゴーラの常識だ。
ウィーグリフの取り巻きも全員馬鹿にした顔をして嘲った。
「・・・こ・・・こ・・・」
笑われた少年は怒りに白い頬が紅潮し言葉をうまく発することが出来ない。
スヴェトラーナが彼のマントを引っ張り、「もうやめろ、口出しするな」と注意するが聞こえてない。
「『こ』なんだ?」
「ころす。君達全員ぶちころすよ?人がせっかく仲裁してあげようとしたのにボクのお母さんまで侮辱するなんて」
「何が仲裁だ、己惚れたクソガキが。お前の母親は息子を戦士に育てる事も出来ず、身の程を弁えた使用人に育てる事も出来なかった失敗作だ」
そこでぷちんと何かが切れたようだ。
強力な魔術の発動気配を感じて慌てて身構えるが、その前にスヴェトラーナが強くマントを引っ張ったので首が閉まり霧散する。
「これは我々の戦いだといっただろう、レン。戦いには作法がある。勝手に開戦するな」
げほげほと咳き込んでいた少年も叱られて反省したらしく先ほどまでの怒りは少し薄れているが、ウィーグリフを見る目には憎しみがあった。
「ウィーグリフ、貴様もだ。心底呆れたぞ。こんな子供相手にムキになって」
「やかましい。これが俺とお前の最後のやりとりになるとはな」
捨て台詞を残し、馬首を返して陣地へと戻りながらウィーグリフも反省する。
自分の望みはあんな少年でも自由に生きられる家庭では無かったのか。
これが長年の教育で沁みついてしまったゴーラの男の本性か・・・。
「だが、もういい。これで終わりだ。俺達の未来をネヴァから取り戻す」
効果は薄いものの予定通り帝国軍から借り受けた大砲の砲撃をもって全軍への合図とする。




