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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~中編~
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第1話 北へ

『見よ、あの雄々しい姿を。愚劣公といわれた方も死に臨んではああも誇り高くなるのだ。極限状態におかれた時こそ人の真価がわかる』


                    ────神学者マクスミウス────


『追い詰められなければ力を出せない人間など鼠と同じ』


                    ────哲学者キャスタリス────


◇◆◇


「ほや?」


レナートは間の抜けた声を出した。

あたりをきょろきょろと見回すと、自分は石舞台の上に立っており、周囲には環状列石が立ち並んでいる。すぐ近くには髭を生やした老人がいたが、目を見開き明らかに驚いて見上げていた。


他には母のような銀髪の女性、黒髪の女性が多く、男性はほとんどいない。

全員同様にレナートを見つめている。


(えーと、なんでこんな所にいるんだっけ?)


レナートは首を傾げ、経緯を思い出していった。

ヴォーリャから敵兵を引き離す為に囮になった後、霊体化する指輪をつけたのは覚えている。


(ヴェータ、ヴェータ?)


ペレスヴェータに問いかけてみたが応答がない。


(また寝てるのかなあ)


最近呼びかけても返事が遅れる事があったので深く気にせず、さらに記憶を思い返していった。


 霊体化すると普段は薄らぼんやりとしか見えない精霊もくっきりと見えた。

ひたすら走って南に向かっているサリバン達のもとへ向かうと周囲の精霊達がレナートにまとわりついてきて「どうしたの?」「競争する?」と話しかけてきた。

必死に走るレナートは耳を貸すまいと無心になって走ったが、それがよくなかった。

走る事に集中しすぎた為、現象界から離れて精霊界に入りレナート自身も氷の精霊と化していた。


無邪気な精霊は走っていた勢いでトンネルのような空洞にすぽーんと入ってしまい、うねるトンネルを体全体で滑ってそのままどこかへ運ばれてしまった。

さほど大きくはないトンネル内は空洞だが、水が流れているような感覚があり、入り込むと自然と押されていく。一度出て外側から軽く押すと弾力があって押し戻される。

小さな精霊はこの膜を破れないようだったが、レナートは強引に頭を突っ込むとその内部に入り込むことが出来た。膜は破けたかと思ったがすぐに元通りになる。


レナートは滑り台というものを知らなかったが、滑り台を楽しむような感覚で何度も入って遊んでいた。そうして最終的にすぽーんと弾きだされ、気が付いた時には石舞台の上にいた。


 周囲は知らない人ばかり、何やら話しかけてくる人もいるが言葉が通じない。

ペレスヴェータからの応答も無くレナートは不安になった。

改めて周囲を見ると敵意は無さそうだが、武器を持った人が大勢いる。

服装はヴォーリャに近い。

そして遠くに見える山々には雪化粧が施されている。


「まさか、冬なの?」


環状山脈の中でも特に高い山々は夏でも頂上の辺りは凍っているが、カイラス山の辺りはそこまで高度はない。出発した時は夏だったのに、どういうことなんだろうとレナートはさらに首を傾げた。


返答しないレナートに業を煮やした人々が詰め寄ってきて、レナートは心細くなり瞼に熱いものがこみあげてきた。


「ヴェータ、ヴェータ!なんで返事してくれないの?何処にいるの!?」


しゃがみこんで涙ぐむレナートに周囲の人々はますます怒声を上げた。


 ◇◆◇


「何をしているんだ。下がれお前達」


人混みをかき分けて真っ白な羽がついたマントを身にまとう銀髪の若い女性とレナートが最初に見た老人がレナートの前に現れた。

その凛とした声にレナートは顔をあげる。


「何者だ、お前は」

「あれ、お姉ちゃん言葉が通じるの?」

「ああ、私は留学経験があるからな。それより君の方こそ何故私達の言葉が通じないのだ」

「そんなこといわれても・・・」


両者困惑している所に助け舟を出したのは控えていた老人だった。


「まあ待て待て、転移陣から現れたのじゃからそこの少年は帝都から来たのじゃろう。容姿は北方人じゃが、帝国市民権を得た者はいくらでもおる。親御さんから北方共通語を習っておらんのじゃろう」

「エーバーハルト老師、この子は帝都から来たのですか?」

「無論じゃ。帝都以外から転移は出来ん」


エーバーハルトは自信たっぷりに断言したが、即座にレナートが否定した。


「違うよ」

「なぬ?」

「ボク、カイラス山から来たの」

「カイラス山?どこじゃ、そこは。転移陣を移転したのか?」


レナートは答えてしまってからカイラス山の名前を部外者に答えてしまった事に気が付いて口を閉ざした。


「え、えーとボク。田舎者で地元から出た事無いからよくわかんない。それよりここはどこですか?」

「ここはヘリヤヴィーズ近くにある遺跡だ」

「ヘリヤヴィーズ?」


レナートは聞いた事のない地名に首をひねる。どうもわからないことだらけだ。


「どう思いますか、老師」

「だいぶ疑わしいが、演技ではなさそうじゃ」

「・・・少年、どうやって転移陣を起動した」


現れた女性は厳しい顔できつく問い質した。


「転移陣って何?ボクそんなの知らないもん!それよりここは何処なの?ペレスヴェータはどこ!?」

「ペレスヴェータ?まさかパヴェータ族の?」

「そうだよ。お姉さんは誰なの?ここは何処なの?」

「さっきもいっただろう。ここはヘリヤヴィーズ。ネヴァ地方の中心地スヴェン族の都だ」

「ネヴァ・・・ってまさか北方圏の?」

「そうだ」


レナートは帝国から北方圏まで転移してしまっていたらしい。


「それでお姉さんは?ペレスヴェータの事知ってるの?」

「いや、親戚ではあるが直接は知らない。かなりの問題児だったらしいな」

「あ、うん。ご迷惑をおかけしました。・・・親戚っていうとアヴローラお婆ちゃんの一族ですか?」

「そうだ。私はスヴェン族の族長スヴェトラーナ。君がパヴェータ族の子なら歓迎しよう」


PC、執筆環境不調につき、少々遅れております

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2022/2/1
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