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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~前編~
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第17話 レナートの兄妹

 涸れ谷の城を出発する前にエンマは当たり前のように女性の部屋で寝泊りしているレナートをついに男の子の格好に戻すことにした。


「レン、さすがにそろそろ男の子らしい格好にしましょうか」

「うん」


夫人も同意する。


「そうですね。この子が嫌がらないのでついつい悪ふざけしてしまいましたが、都でこんな可愛らしい子がいたら誘拐されてしまうかもしれませんしね」

「悪ふざけだったんですか・・・」


エンマが髪を結いあげ、ズボンに履き替えさせると途端に雰囲気が変わった。


「レン、おまえ女の子の格好するの嫌じゃなかったの?」

「どうして?別に嫌じゃないよ」

「変な子ねえ」

「そう?ほんとうに女の子になれれば良かったのに」


あんまり残念そうなのでエンマはさらに尋ねた。


「稽古が辛いから?」

「ううん、そうじゃなくてお父さんもお母さんもボクが女の子だったらって思ってるから」


レナートはあっけらかんというが、その内容は重い。

自分は両親から不要だと思われている、そう思い込んでいた。


「確かに女装してからはずいぶんオルスも甘やかしてるようだけれど、そんなの今だけよ。どこの家も最初は男の子を望むものだわ」


田舎なら男手があった方がいい。

貴族は貴族で継承者は男性の方が好まれる。

奴隷制があったころは女の子は要らないから、と人買いに売られたものだ。


「うちでは違うの」


レナートはちょっと落ち込んでいるようだった。

いつもにこにこして可愛らしい笑顔を浮かべているのに、どうしたのだろうとグランディやブラヴァッキー伯爵夫人も怪訝な顔をした。


「どうして?」

「お母さんは他にも子供産んだんだけど、みんなしんじゃった・・・。ボクと女の子だけは生きてたけど女の子は大きくなる前に死んじゃった。他の男の子は皆お腹の中で死んじゃったから女の子の事しか覚えてない。今度こそ丈夫にちゃんと育てたいって思ってるんだ」

「だから自分が女の子だったらって?」

「うん」


先ほどちょっとからかってしまった事を後悔したエンマはレナートの頭を撫でた。


「いじらしい子ね。次の子は女の子だといいわね。丈夫に育つように祈りましょう」

「うん、ボク。やっぱりお父さんに稽古してもらって強くなった方がいいのかなあ」

「それもいいけど、気にせず自分のなりたいものになりなさいな」

「そうですね。エンマ様のおっしゃる通り。貴族のように家に縛られることもありませんし」


夫人らも同意する。

父親のオルスはもともと生まれ育った地域から旅に出て剣闘士や傭兵やら蛮族戦線の義勇兵に加わったりして生活してきたので家業はないし、レナートも縛られる義務はない。


「ボク、お父さんやお母さんの望むものになりたい。だから女の子だってよかったの。理想はヴォーリャさん。ちょんぎったら女の子になれないかなあ・・・」

「それは無理ね」

「誕生してから性別を変化させられるのは神々くらいなものね」


さすがに女性陣は苦笑する。

知識階級の彼らは外国には男根を切り取った宦官がいることを知っているが、もちろん彼らはそれで女性に変われるわけではない。

神々の中には両性具有だったり、伝承が途絶えて男性だったのか女性だったのか分からず両性のエピソードが残っている為、別神だったかもしれないが一つの神に統合されて性を自在に操れるとされた神もいた。


「都にはその神様の神殿もある?」

「ええ、もちろん。興味があるなら連れて行ってさしあげましょう」

「あとね。ボク。妹が生まれたら何か贈り物をあげたいの。どんなのがいいか一緒に選んで欲しいな」

「んまっ、ほんとにいじらしい子ね。もちろん、このわたくしが何でも贈ってさしあげましょう!」


エンマは感激してレナートを抱き上げてほおずりをした。


「意外と子供にやさしい方ですね」「ほんとに」


夫人とグランディも土産物を買いに行くとき付き合うことにした。


 ◇◆◇


 出発前、グランディはヴォーリャにレナートの兄妹の事を訊ねてみることにした。

オルスに聞けばはっきりするが、さすがに亡くした子供の事を訊ねるのは失礼に思った。

ヴォーリャは城の鍛冶仕事を手伝い、いくつか武器を手に入れてそれを自分の馬に積み込んでいたが、快く話してくれた。


「ああ、確かにヴァイスラさんは三人子供を失くしているが何故それを?」

「レンちゃんに聞いたんです。お母さんがずっと気にしてて、女の子ならよかったのにって」

「・・・変だな。ヴァイスラさんが不安定な状態が続いてたから皆にも口止めしてたのに」

「村の誰かが喋ったのでしょう。それより、レンちゃんのお母様にあの子が思いつめているようだからあんまり引きずらないようにとそれとなく言ってあげて貰えませんか?」

「ああ、それなら心配ない。もうすっかり立ち直ってる。次の子を楽しみにしてるさ。北の女は強いんだぜ」


頻繁に蛮族に襲われて多くの死者が出ている国だ。

ヴォーリャ自身も拉致されたことがある。それでも彼女は気丈に今も戦士を続けている。

彼女と同族の女性がレナートの母とは思えないほど、筋骨隆々で逞しい。


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2022/2/1
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