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天に二日無し  作者: OWL
第一章 地に二王無し ~前編~
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第55話 シャモア河の戦い② ~魔導騎士アンクス~

 諸侯連合軍の総指揮を任されていたアンクスは、グランディとニキアスの舌戦を中断させるよう部下に指示を出した。

はっきりいってグランディの方が分が悪かった。ここは出来るだけ戦力を損耗せずに完勝し、蛮族との決戦に備えて温存したいところ。不要な討論で士気を損なうグランディには退いてもらう必要があった。


止めようとした矢先に突然の皆既日食が発生してしまい、明らかに異常ではあったが兵士に自然現象だから落ち着けと指示を出した。

従者が今日は日食は起こらない筈ですが、と無用な口を叩いたせいでさらに注意が散漫になる。そんなことは司令部の面々は皆重々承知だ。


大規模な軍には古代から天文官が付き従う。天文、気象情報は常に考慮して作戦は立てられるものだった。皆既日食が発生するのであれば事前に彼らが進言してくるし、このように急変することもない。


戦場は太陽光が何かに遮られて、まるで黒い太陽のようになっていた。

真っ暗というほどではなく、なんとか周囲の視界は通る。


 我を取り戻してグランディの状態を確認しようとしたアンクスだったが、先にメンガラ伯が拉致したバントシェンナ王が砦に逃げ込むのに気が付いて「取り戻せ!」と指示を出し進軍を開始してしまった。


「何を勝手な!」

「しかし取り戻さねば戦になりません」

「それはそうだが・・・」


メンガラ伯につられていくつかの軍が前進し、砦からの砲撃を受けた。


「おのれ、これを計画していたか。卑怯者め!」


犠牲は増えるが、こうなったら数的優位を生かして強硬策に出るしかない。

アンクスも全軍前進を命じたが、諸侯達の反応は鈍かった。


「こんな戦い方、今度は俺達を生贄にする気だ」などと呟く兵士がおり、それが足を遅くしている。諸侯も自軍の損害を嫌っていた。

アンクスは焦る自分をいましめ、諸侯に伝令を送り、丁寧に前進を依頼した。

グランディを失った状態ではアンクスの権威は低く、彼らはなかなか応じなかった。


エンマからの援軍を統率していたエクルベージュ宮中伯は前進指示を拒否し、伝令にこう回答した。


「当初の作戦は後背に回った友軍の到着を待って決戦をしかけるというもの。マルーン公が捕えられたからといって作戦を変更する理由にはならない」


二王から送られた援軍も同様の回答を返し、アンクスに従わなかった。


特にブレスト伯は目の前に砲兵陣地があった為、それを迂回しようとした所、丘に陣取った軍がそこにあり、遮られて渋滞になっていた。他に前進指示を聞いてくれた貴族軍もそこで止まっており、メンガラ伯の軍は孤立して殲滅されていってしまっている。


アンクスは渋滞を解消するため、左右両翼に前進しつつもっと広く距離を取るよう命じた。


アンクスは魔術で地形改変が行われた高台の陣地に移動して全体の戦況を俯瞰する。

そこでシャモア河で激流が発生し、砦の修復が終わっていない側面へ展開させつつあった軍が押し流されるのを目撃した。


「何故だ!?水攻めは無い、と確認したはず」


数日前の雨で増水を十分に警戒していたし、堰を作って貯められていないか、斥候を上流にまで派遣して確認させている。混乱しているアンクスに天文官が恐る恐る上申する。


「ありうべかざる事が次々と起きております。これは魔術の力でも引き起こせません。おそらく神器の力かと」

「バントシェンナ男爵家風情がこうも次々と天変地異を起す神器を隠し持っていたというのか!?」


目の前で起きている以上、アンクスも認めざるを得ない。


「そうか。フィメロス伯とキャメル子爵の奴、失敗してバントシェンナ王に奪われたのを意図的に報告しなかったか」

「どうなさいます?」

「方針は変わらん。これでは敵も増援を送り込んではこれまい」


アンクスはさらなる兵力を投入したが、敵はしぶとく。次々と伝令が戻ってくる。


「メンガラ伯戦死!」「バフ男爵が流れ弾に当たり重傷で後退するとのこと!」


帝国正規軍と違い、司令官が戦死、負傷すると軍自体が崩壊してしまうのが貴族軍の欠点だ。後退する味方と前進する味方で交差しさらに戦況が混沌としてしまう。


アンクスはもはや損害を考慮せず、今日砦を落とす事を目標としていた。

グランディを奪還しない限り、全軍がバラバラになってしまう。ダカリス女王、ルシフージュ王の軍に至っては帰国してしまうかもしれない。


東岸に送った友軍の来援がなくとも、自軍の兵力は三倍であり砦に突入しさえすれば勝てる。どうにか交通整理を行い、砦に取りつくことは出来た。しかし指揮官級の損害がやけに多かった。


必死に指揮を取っているアンクスの所にブレスト伯がやってきた。相談があるという。


「卿には前進を命じた筈」

「部下には前進を命じてある。しかし、君と話をする必要があると思ってな」

「何か?」

「敵の数が想定よりも遥かに多い。恐らく最初から渡しや橋の防衛、それどころか奴の領地の防衛に軍を割いていなかったのではないか?」

「自国を捨てて全軍を敵地に投入していたと?」

「敵が最初からこの状況にする為に動いていたのであれば、河向こうに軍を残しておく必要はない。遊兵を作ったのは我々だけだ」


アンクスは冷静になるとその言に一理あるのを認めないでもなかった。


「しかし、酷い博打です」

「他にも強力な神器の隠し玉があるのかもしれん。あるいはこんな作戦を取らざるをえない事情があるか」

「意図が不明でも力攻めを続けるしかありません。グランディ殿を攫われたままでは明日以降の指揮系統が崩壊します」

「それはそうだが・・・」


アンクスはグランディが連れ去られた砦に対し、力攻めに固執したが、敵の抵抗は頑強だった。結局、その日はどうしても砦を攻略できず、砦の守備隊と展開している部隊とに挟まれて一方的に多大な損害を負った。

それでもまだ敵の倍の兵力が残っていた。


だが、翌日には貴族の軍勢がひとつ、またひとつと姿を消していき、戦闘続行不可能と判断された。数日後には全軍撤退が命令され、各軍がバラバラに帰投する中、追撃を受けてさらなる損害を蒙った。


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2022/2/1
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