第52話 襲撃者達②
恐慌状態に陥った兵士が戻ってきた事で後続が続かず、再編成に手間取ったが結局戦力の差は圧倒的で洞内の主要路は襲撃者に制圧された。
正面口の守備についたまま逃げ遅れたザルリク達は捕虜となり洞内の死体処理をさせられていた。時折他に逃げ遅れた者が発見されて外へ連行されてくる。
そのうちの一人が子供と引き離され泣き叫ぶ。
「アグノス!」
「黙れ!」
アルケロの妻、アグノスが連行されていくのを見て思わず叫んだザルリクだったがすぐに兵士に殴打され作業に戻らされた。同胞の遺体を埋める穴を掘らされるのだ。
「彼女達をどうするつもりだ」
「黙れというに!」
男達は穴を掘らされ、見栄えのいい若い女性達は何処かへ連行されていく。
兵士達の慰み者になるのはわかりきっていた。
「頼む、止めてくれ。まだあの子は結婚したばかりなんだ」
「そりゃあ楽しみだ。さっさと作業を終わらせろ。お仲間を弔ってやらなきゃ可哀そうだろう?お前がやらないならそこらの獣に食わせるぞ」
下っ端兵士はさっさと自分達も仕事を終わらせて休憩時間に遊びたいので捕虜をどつきまわし、仕事を急がせた。
「ん?父親や子供が獣に食われている姿を女達に見せたいか?あの女にも犯しながら見せてやろうか?」
「こ、このけだものどもが!お前らは人間の皮を被ったけだものだ!獣人なんかよりよっぽどけだものらしいクズだ!」
兵士達は罵声を気にもせずにザルリクを槍の石突で殴打し、動かなくなると穴へ蹴り落とした。
「さあ、お前達はどうする?大人しく仕事をするか。それとも一緒に突き落とされるか?」
ポポイス、マローダ、そしてドムンの義父グニルらは黙って穴を掘り続けた。
さらに一夜明けたが彼らに食糧は提供されず疲弊しきっていた。同胞の無残な死体の始末をさせられ、心は凍り付き、空腹で何も考えられず、ただ与えられた作業をこなし続けた。
◇◆◇
総指揮を執るジェフスタインは竜顕洞内部にまだ立て籠もっている勢力がいる事を確認したが、神器の捜索を急がせた。
「ヤジン達は全員死んだのか?」
「はい、閣下。魔獣に遭遇して全滅したと思われますが魔獣も倒れたようです」
「道は確保したか?」
「はい、案内人は死亡しましたが捕虜の代役がおりますので問題ありません。通路を清掃中です」
「よし、午後には再突入させろ」
「はっ。残りの捕虜はどうしましょう」
「捕虜などいらんといっただろう。始末しろ。女は奴隷商人に売る」
「子供もおりますが・・・」
さすがに兵士も子供を殺すのは嫌そうだった。
「何人だ?」
「数人です。立て籠もっている所にはまだ相当数いると思いますが」
「ちっ、人質にして投降を促せ」
「はっ!」
ポポイスらは遺体に火をつけさせられた後、自分達も蹴り落とされ一緒に処分された。
ジェフスタインはまた自分の天幕に戻っていき、突入指揮を命じられた魔導騎士クワイリーは部隊の再編を急いだ。
「残りの敵のおおよその位置は掴んでおります。攻撃させますか?」
部下に問われる。
「いや、いい。大規模な抵抗は終わっているんだろう?」
「はい。捕虜の話からすると子供ばかりらしいですが数名の大人と例の魔導騎士も残っています」
「サイネリアに抑えさせておけ。我々は神器を持ち帰るのが任務だ」
「はっ!」
命じられた兵士は就寝中のサイネリアの天幕に行ったが彼女はいなかった。
探している間にジェフスタインの天幕で騒ぎが起きた。
サイネリアが彼の首を斬り落としていたのだ。
呆然としたままのサイネリアは取り押さえようとした兵士に抵抗し、クワイリー達でなければサイネリアは抑えられず再突入は遅れる事になった。
この騒ぎを一羽の鷹と騎兵が遠くから見ていた。




