第48話 地竜エラムvs魔導騎士
「アルメシオンは何処へ行った?」
「はぐれたようです」
「あの野郎・・・勝手な行動を」
「探しますか?」
「無駄だ。道を外れたら我々だけでは戻れない」
ヤジンはチョッパーを指揮所の制圧に向かわせ、自分は最下層の襲撃を優先した。神器が収められている宝物庫を抑えてしまえば敵戦力は激減する。武器となる神器を持ち出されると平民とはいえ危険だった。
魔導騎士11名という過剰戦力が用意されたのも神器を警戒してのこと。
「我々だけで大丈夫でしょうか」
「弱気になるなオブライエン。いくら神器があろうと身体能力自体は所詮平民。大砲が強力だからといって砲兵自体は我々には無力だ。心配するな」
ヤジンとオブライエンの二人は途中で遭遇する者は騒がれないよう全員、問答無用で首を刎ねた。あまり物音を立てないよう兵員は最小限しか連れていない。特殊任務に慣れた精鋭だけだ。後続を誘導する為に魔術師が追跡用の痕跡だけを残していく。
最深部まで痕跡がつけ終われば案内人も用済みだ。
出来るだけ人通りがある道を避けて荷物搬入用の昇降機で一気に最下層まで降りた。
ペドロの案内で迷宮を通り抜けてびくびくと震えていた年寄りの所まで辿り着く。
「おお、ようやく見つけたぞ。裏切者共め。我々が艱難辛苦にあえいでいる間に、こんな所で安楽な生活を送るとは許しがたい。だが、我が主は寛大だ。大人しく財宝を引き渡し、使い方を教えれば命だけは助けてやる」
周囲を睥睨しても警戒していた要注意人物の女騎士や戦士は見当たらない。
遺恨のあるペドロに長老と話をさせながら注意深く周囲を見まわす。
通り道に石像や神殿はあったが宝物庫は見当たらなかった。子供はここで遊ぶのを禁じられたのでペドロにも分からない。
捜索には人手がいるが本隊とは別行動をしている為、連中に場所を吐かせる必要があった。
だが、敵の長老は自決用の太陽石を持ち出し、慌てて止めようとしたがそれは自決用では無かった。石像と思われた異形の怪物に太陽石の力は取り込まれ、化け物共が動き出した。
◇◆◇
「隊長!」
地竜エラムの咆哮で間近にいた人間は鼓膜が敗れ、心臓の弱い者はそれだけで止まってしまった。ヤジンは我を取り戻すのが遅れ、エラムの牙に噛み砕かれた。
オブライエンはすぐに距離を取って観察に努めたため、難を逃れた。
そのまま逃げれば良かったのだが、彼は主君であるフィメロス伯に神器を持ち帰る為、それを良しとしなかった。
オブライエンは蛮族によって本来の主を失った流浪の騎士であり、魔剣や鎧を失っていたがフィメロス伯は寛大にも貴重な武具を譲ってくれた。アルメシオンはそれは自分が受け継ぐものだと怒ったが、伯は取り戻したければ功績を立てよと返却を拒否した。
オブライエンは何としても伯に恩義を返さなければならない。
そして神器の中から神剣や武具を見つける事が出来れば自分のものにしてよいと許可を貰っている。任務を果たしてこそ、自分もアルメシオンも納得いく決着を迎える事が出来る。
「あれは、魔獣の類か」
岩の塊のような怪物に自分の細剣で対抗するのは向いてない。
見ればカイラス族の連中も襲われている。どうも使役しているわけではないらしい。
目を刺せばなんとかなるかと思ったが退化しているのか、かなり小さく狙うのも難しい。
異形の小鬼を倒しつつ様子を伺っている内に、敵と狙いを定められ攻撃を必死に躱す。
というか逃げ回った。
◇◆◇
「よう、苦戦してるじゃねえか」
オブライエンの援護で一人の魔導騎士が助けに入った。
戦槌でガコンとエラムの頭を殴り方向を逸らす。
「チョッパー!」
「ほらよ」
エラムに一撃を加えた武器をオブライエンに渡し、彼は赤く輝く剣を構えた。
「それは?」
「途中で奪った。神剣らしい。俺はこっちを使う」
いきなり頭を殴られて怒ったエラムは向き直り、大きく咆哮を上げる。
「下がれ!」
先ほどの様子を見ていたオブライエンがチョッパーを連れて下がらせる。
近くにいた兵士は咆哮を浴びて内部から爆裂した。
「うお、おっかねえ。なんだありゃ」
「わからん。さっきより威力が増している。お前の任務はどうした?」
「言われた魔力通信装置は破壊した。維持する必要はねえだろ」
「まあな」
エラムはさらに怒ったのか、何やら白く光り輝き始めた。
「その剣、使えるのか?」
「この通り」
チョッパーが剣先で地面をひっかくとバターを切り裂くように抵抗も無く岩の地面が切れた。
「よし、では私が注意を引くからお前は急所を狙え」
「急所ってどこだよ」
「喉か心臓か。自分で探せ!」
オブライエンは大きく声を上げてエラムに突撃し戦い始めた。
チョッパーは側面に回り、隙を伺う。
巨大な爪に試し切りを行い、斬れる事は確認した。
「こいつ血が通ってるんかね・・・」
岩で出来たモグラのようであり、前足が異様に巨大で見たことも無い魔獣だった。
複数の尻尾もついていて異様な音を立てている。
注意深く見ると魔獣テイルラレックの尻尾のようだった。それは高速で振動し、触れたものを何もかも切り裂く。
エラムは激しく動き回り、時折体を大きく回転させていた。
巨体が回転した際に岩が吹き飛ばされて逃げ惑う人々に流れ弾となって当たる。
チョッパーは岩の塊を籠手で弾き飛ばすが、兵士らも小鬼もこの流れ弾でほぼ全滅していた。
チョッパーが攻撃する隙が中々無い。急所も見当たらない。
「手足を一本ずつ斬り落とすしかないか!」
一撃で殺すのを諦めて、刻む事にしたチョッパーだったが、その足元に違和感を感じた。
「ん?」
エラムの尻尾の一つが細くなり、地下に張り巡らされ接近していた事に気が付かなかった。
チョッパーの目と広がった尻尾の先端部、その奥から覗く白い光と目があった。
彼は次の瞬間分解された。
◇◆◇
「は?」
オブライエンは自分が見たものが信じられなかった。
魔導装甲の宝玉が光を失い、破壊された後に装甲にヒビが入るのを見た事はあるが装甲が分解されたのは見たことがない。大砲の弾が運悪く直撃しても破壊されたことはない。
それが着用していた人間ごと消滅した。
残ったのは塵だけだった。




